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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert5.たい焼き
207/264

第202話「別れになり得る願い」

「結局、止められませんでしたね」


 閑散とした西地区にマルコの声が響き渡った。惜しがるその声はゾディアックの肩にズンと乗る重しのようであった。


「でも、あれだけゾディアックさんが止めても戦うって言うなら、相当な覚悟なんでしょうね」


 喫茶店にて会話を終えた後も、ゾディアックとマルコはレミィを説得していた。

 戦わないで欲しい。戦うとしても俺たちに手伝わせて欲しい。国を相手にしてもいいというのは言葉の綾ではないか。話し合いで解決はできないのか。


 どの言葉も代案も彼女の耳には届かなかった。力のない笑顔を浮かべるだけで、取り繕う島もなかった。レミィはそれ以降、言葉少なに会話を終え、喧騒の中に消えていった。

 レミィは死のうとしている。声色と態度から、ゾディアックはそう察した。

 

「やっぱり、死のうとしてますよね、レミィさん」

「……わかるのか?」

「なんとなくです。けど、なんとなく、わかる様な、気がしたんです」


 マルコにさえ気取られてしまうほど、レミィは弱っていたのだ。しかし、その弱さを支えることは叶わなかった。

 自宅が見えてくる。窓からは光が漏れており、賑やかな声が聞こえてくるようだった。


「やっぱり皆さんには相談しない感じですか?」

「ああ。魔力(ヴェーナ)を持たない、ガーディアンでもないマルコならまだしも、俺の仲間達はみんな優秀なガーディアンだ。そして、心が優しい。もしこの話をしたら、俺についてくるか、レミィを止めようとするだろ」


 マルコはハッとして手を叩いた。


「なら、ヨシノっていう人を止めれば」

「さっきのレミィの口振りから察するに、こっちが何人いてもすぐに発動できる”何か”があると思うんだ」

「何か?」

「例えば、魔法。それこそサフィリアを巻き込む大魔法とか」

「ど、どんなのがあるんですか?」


 ゾディアックは上を見て、指を差した。夕焼けが沈みかけた群青色の空が広がっている。


「隕石を降らす、とか」

「……えぇ?」


 あまりにも突拍子のない言葉に、マルコは苦笑いを浮かべた。


「冗談でしょ?」

「いや、本当だ。頑張れば俺もできるぞ」

「嘘でしょ!?」

「本当だ」


 さらっととんでもないことを発言するゾディアックに対し、マルコはめまいを起こしそうだった。

 デザート作りやらマーケット・ストリートの情景で忘れてかけていたが、ここは異世界。常識にはない魔法が精通している世界では、あり得ないと思える空想的な出来事が、実際に生じてしまうのだろう。


「それに、ヨシノは北地区にずっと潜伏していた。既に何かしらの仕掛けを国に仕掛けている可能性が高い。魔法陣を書いておいて起爆魔法を使い、裕福層や兵士達を死に追いやる、とかは定石だが、考えられる」

「戦争じゃないですか」

「そうだ。きっとヨシノは、戦争を起こしても勝てる自信があるんだろうな。それだけの切り札を持っているということだ」


 玄関のドア前に立ち、ゾディアックは肩越しにマルコを見た。


「とりあえず、他言無用で頼む」


 マルコが頷きを返す。

 それを確認してから扉を開けようとした時だった。扉がひとりでに開き、中からロゼが姿を見せた。

 ロゼがパッと顔を明るくする。


「お帰りなさいませ! ゾディアック様、マルコさん! 本日もお疲れ様でした」

「ああ、ただいま」

「た、ただいま帰りました」


 ロゼはニコニコとした表情で労いの言葉をかけながらふたりを招き入れる。

 そのままリビングに行くと、ヴィレオンを見ているビオレとラズィが目に入った。


「あ、マスター! それとマルコさん! お帰りなさい!」


 ソファの背もたれ越しに見つめるビオレが片手を上げた。


「ああ。ただいま。ベルとフォックスは?」

「隣の家。ラズィさんの家行ってる」

「は?」

「なんか飲みたい気分なんだって」


 ビオレの隣に座っていたラズィがわざとらしく大きなため息を吐いた。


「誰の家だと思っているんですかね、本当に~」


 ゾディアックは乾いた笑い声を出した。勘の鋭いベルクートがいないのは幸運だったかもしれない。

 ゾディアックとマルコは着替えようとリビングを後にしようとした。


「あああ~~!!!」


 瞬間、ビオレの悲痛な叫びが木霊した。驚いて振り向くと、ヴィレオンには「アンヘルちゃん」の姿が映っていた。赤色のツインテールに猫耳フードパーカーを着た少女の姿だ。ビオレはどうやら、ユタ・ハウエルを見ていたらしい。


「アンヘルちゃん!! あれ、今日放送だっけ? ゲリラ放送かな!?」


 ヴィレオンの音量を上げると、微かな息遣いが聞こえた。


『えっと、突然の放送ごめんなさい! 皆さんに伝えたいことがあって』


 すぅ、と息を吸うと、「アンヘルちゃん」は一気に言った。


『しばらく、活動を休止します! もしかしたら、帰ってこないかもしれません……なんちゃって~、あはは~。ちょっと休暇をいただいて、旅行にでも行こうかなって思っただけです!』


 人懐っこい笑みを浮かべて手を振っている。画面右側に表示されている視聴者コメントは悲しみと旅行に関する質問で二極化している。「彼氏と行くのか」というコメントが鬼のように流れ始めているが、「アンヘルちゃん」は真摯に対応し始めた。


「え~、活動休止かぁ」

「まぁちょっとした休暇みたいですし、いいんじゃないでしょうか~? 休むのも大事ですしね~」

「うん、そうだよね! よし、えっと、「応援してます。旅行楽しんできてください」……」


 応援コメントを打つビオレとヴィレオンを交互に見ながら、ゾディアックの頭にある疑問が浮かぶ。

 レミィの決闘と突然の「アンヘルちゃん」の休止宣言。偶然なのだろうか。

 以前から「アンヘルちゃん」が変身魔法(ペルフィディア)を使っていたのは見抜いていた。もしかしたら彼女の正体は。


「あら……」


 ロゼの声が聞こえ思考を遮断した。見ると片頬に手を当て、アンバーシェルを凝視していた。


「どうした?」

「また明日からお天気が悪くなるみたいです。来週あたり嵐になるかもと予報が。はぁ、せっかくお布団干そうと思ったのに」


 落胆するロゼを見つめながら、自分はどうするべきか、ゾディアックは悶々と考え始めていた。

 一瞬遠くから落雷の音が聞こえたような気がした。




★★★




「俺からの報告は以上だ」


 ウェイグは杖を支点に立ち上がる。片足が”ちゃちな”義足で上手く動かせないため、どうしても杖が手放せない。 


「うむ。ご苦労。すまんのぉ、ここまで来てもらって」


 エミーリォはサングラスを外し、ウェイグを見上げた。


「もう帰るのか? せっかく懐かしのセントラルに来たんじゃ。下で何か食ってからでも」

「やめてくれよ。俺は追い出された身だ」

「しかしお主のライセンスはまだ残っておるぞ」


 ウェイグは一瞬視線を泳がせ、踵を返した。


「……あんたの娘、レミィの情報はそれですべてだ。ヨシノと出会って戦ったかもしれん。とりあえず怪我をしている状態でゾディアックと歩いているのも見た」

「そうか……やはり避けられんか」


 眉間を摘まみながらエミーリォの顔が天を向く。


「頼むぞ、ゾディアック。レミィを救ってやってくれ」


 何もできない自分の無力さと悔しさを吐き出すように、小さくそう呟いた。



お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします~!

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