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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert5.たい焼き
203/264

第198話「天頂の太陽、決戦を告げる」

「よくやったぞ、大将! 先生!!」


 合流したゾディアックとマルコの間に入ったベルクートはふたりと肩を組む。


「やっぱ天才だわお前ら」

「随分とあっさりでしたね~、もっと小ズルいことしてくると思ったのですが~」

「……ズルいことって?」

「毒薬盛るとか吹き矢でバレないよう攻撃してくるとか突然食材が爆発するとか」

「考えが物騒すぎる……」

「なにラズィちゃん怖いこと言ってんの……」


 顔を引きつらせるゾディアックとベルクートに対し、ラズィは肩をすくめた。翻訳機が壊れているマルコは、会話が聞き取れなかったため首を傾げる。


「どうやら上手くいったみたいだな」


 言葉はわからずとも声色を把握したマルコは視線を入口に向ける。そこには片手を上げたレミィがいた。


「レミィ」

「レミィさん! 来てくれたんだ」

「もう終わっちまったよ」

「みたいだな。まったく。こんな朝っぱらから甘ったるいデザート作りとは、ガーディアンも大変だな。それに付き合わされるマルコもだが」


 小言を言いながらマルコに近づいたレミィは、ポケットから白いコードのような物を取り出した。


「……それは?」

「翻訳機は電池で動いているらしくてな。その充電器」


 レミィはマルコの手を掴み引き寄せると、首元に手を回した。突然のことにマルコは目を見開き、ロゼとビオレとフォックスが甲高い声を上げた。


「ってなんであんたが叫ぶのよ」

「いや、なんとなく」

「翻訳機の後ろ側にコードを指す部分があるらしいんだ。それに差し込んで電の魔法を流せば、また機械が動く」

「魔法って。先生は魔法使えねぇ異世界人(ビヨンド)だぜ」

「使えるようになればいいさ」


 レミィの手の平に電流が走り、次いでマルコの首に巻き付いている翻訳機が「バチッ」と音を立てた。

 少し体を離し、マルコの顔を見つめて小首を傾げる。


「どうだ?」

「……凄く、いい匂いがしました」

「あ?」

「あ、ああ、いえいえ!!! き、聞こえてますかね!?」


 レミィが頷く。ベルクートはゾディアックの肩に顔を押し付け肩を振るわせていた。


「ベル……」

「わ、わりぃわりぃ。面白くてよ」

「はぁ、とりあえず使えるようになってよかったよ」

「あはは……あ、ゾディアックさん! 解説上手くいったんですね!」

「ああ。聞こえてなかったかもしれないが」

「いえいえ」


 マルコはブッシュ・ド・ノエルの感想を言い合っている審査員たちに目を向けた。


「お客様の反応を見れば、成功したかどうかは一発でわかります。笑顔の質が違うので」


 レミィはマルコの横顔を見た。この世界に来て絶望していた男とは思えないほど、生き生きとした微笑みを浮かべているのを見て、自然と笑みが零れる。


 その時だった。


「……ん?」


 レミィは柳眉を逆立てて窓の外を見る。刺すような気配が感じ取れる。それは明確に、自分に向けられていることに気づいた。

 そんなレミィの横をすり抜けてフォックスが近づく。


「とりあえず試験合格だろ!? やったぜ師匠」

「これでデザート屋さんが開けるんですね!」

「おや~。ビオレちゃん、やる気ですね~」

「だって、何かいいじゃん! 甘い食べ物を提供するって! 女の子に人気出そうだよ!」

「お。いいなそれ。一般もガーディアンも含めてだが、女性客を呼び込めるのは強いぜ」

「どうして?」


 ゾディアックが首を傾げる。


「わかってねぇな大将。女の口コミが出回る速度は男の10倍から100倍だ」

「振れ幅、大きすぎるだろ」

「ゾディアック様! ベルクート様! 宣伝は任せてください!」


 ロゼが両拳を胸の前に当て、ふんすと鼻を鳴らす。


「空を飛ぶ魔法使って空からビラを配りまくります!」

「うわ~……凄い迷惑行為ですね~」

「ビラかぁ。なるほど。おやっさんに相談して印刷関係に連絡入れて……デザインどうすっかなぁ……やっぱプロに」

「ビラ書いてみてぇな。ビオレ。一緒に書こうぜ」

「え~? フォックス、絵得意なの? いいけどさ。あ、そうだレミィさんもよかったら」


 顔を明るくしたビオレはレミィに目を向ける。


「あれ? レミィさんは?」


 ビオレが顔に疑問符を浮かべた時ようやく、ゾディアックとマルコはレミィがいないことに気づいた。




★★★




 1階に着いたレミィは素早く宿泊施設を出ると、人目を避けながら噴水広場を抜けマーケット・ストリートに足を踏み入れた。

 人混みに紛れて自分の気配を隠そうとする。

 だが、背中に突き刺さるような鋭い気配は消えなかった。鋭利な刃物が背の柔肌に突起付けられている気分だった。

 

 殺気。間違いなく相手は位置を把握している。亜人街から出た瞬間に見つかるとは、相手は罠を巡らせ魔法を使ってまで、本気で探していたことになる。ここまでするということは争いはもう避けられない。

 レミィは焦らずマーケット・ストリートを練り歩き、時に道を曲がり、再び人混みに紛れては道をジグザクに移動し。

 気づけば、セントラルに近い裏路地を歩いていた。人通りも少なく日も差し込まない道。

 ゾディアックが好みそうだなと思い口許に笑みを浮かべ、前を見て、立ち止まった。


「……よぉ」


 行く手を阻むように仁王立ちしている亜人に呼びかける。2メートルはゆうに超えている大柄な種族。筋肉の鎧に鬼の角。鋭い犬歯は口から飛び出しており、悪魔を彷彿とさせる。

 オーグ族。知能が低い代わりに純粋な力だけなら、最強の亜人族ドラ・グノア族と対等であるとさえ言われている。腕力と肉体に物を言わせ、暴力で己の領地を増やしてきた過去を持つ戦闘民族。


 その戦闘に特化した種族が、背中に大剣を差して、腕を組んで立っている。

 ドラゴン並みのモンスターを目の前にしているのと同じ威圧感がレミィに襲い掛かった。


「久しぶりだな、クーロン」


 緊張を悟られないように赤髪を手で梳き、流れるように刀袋の封を解く。


「どうした? お前がヨシノを放置するなんてめずらしい。あのお転婆、また迷子になってんのか?」

「御託はいらん。ついて参れ」


 腹の底に響くような重低音に、レミィの足が竦む。


「断ったら?」


 背を向けたクーロンに言葉を投げると、相手は肩越しにレミィを見た。


「この場で、試合(しあ)おうか」


 レミィの背中に、一筋の冷汗が流れる。この街中でクーロンが暴れたらどのような被害が出るか理解したためだ。

 市民を巻き込むわけにはいかない。降参を意思表示するように、レミィは両手を挙げクーロンに近づいた。




★★★




 北地区にある時計塔は封鎖されていた。看板が立てられており、近々取り壊しを行う旨が書かれていた。

 亜人たちを捕らえ、機械の兵器を作り、サフィリア宝城都市を恐怖のどん底に陥れた犯人たちの隠れ家として扱われたため、北地区の市民が抗議の声を上げたのが原因らしい。邪な物で汚された建物はサフィリアに相応しくない、という落書きが壁には書かれてあった。改装工事を終えた後だったこともあり、業者には同情してしまう。


 クーロンの背中についていきながら建物の中に入る。昇降機はまだ動いているらしく、小さな箱の中にクーロンが入る。


「……あとで一人で昇るよ。お前が一緒だと昇降機落ちそうだわ」


 体重100kgを軽く越している筋肉達磨と一緒になることなど避けたかった。だがクーロンはそれを許さないように睨んでくる。

 観念して一緒の中に入ると一気に上へ昇っていく。朝日に照らされるサフィリアの景色が広がる。平和で綺麗な街並みを黙って見つめていると昇降機が止まった。

 扉が開き先にクーロンが外へ出る。展望台だった。剣の痕や焦げ跡が床や壁に残されたままであり、激しい戦闘があったことを物語っている。


 真ん中あたりまで来たところで、クーロンが振り返った。


「「嵐」を抜くがいい、紅葉」


 背負った武器の柄に手をかけながらクーロンは言った。


「言葉など不要。今この場で雌雄を決しようぞ」

「一人で盛り上がってんじゃねぇよタコ。ヨシノはどこにいる」

「知りたければ案山子(かかし)でいろ。首から上をヨシノ様の元へ送り届けよう」


 殺意に溢れる言葉が鬼の口から吐き出されると、銀色に光る刃が姿を見せた。

 太陽の光に照らされるそれは、断頭台の刃を彷彿とさせる見た目をしていた。


「……何年経っても変わらねぇな。そんなに刃が好きならテメェの体に突き刺してやる。だからさ」


 袋から刀を取り出し、柄と鞘を掴む。

 次いで小さく息を吐き出すと同時に、鞘から刀身を解き放った。


「笑顔浮かべて無様に死ねよ」



お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします~!

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