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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert1.パンケーキ
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第18話「ドラゴン救助任務」

「かっこつけてんじゃねぇぞテメェ!!」


 ウェイグの怒号がセントラル中に響き渡る。兜を突き抜けてくる大声に、ゾディアックは顔を歪め視線を地面に向ける。


「なにがドラゴン救助だ。ふざけたこと言ってねぇで、黙ってその金渡せや。亜人の言うことなんざ嘘に決まってんだろ!」

「……」

「おい、ビビってんのか? しゃしゃり出てきやがって」


 やかましい男だ。まるで子供だ。ゾディアックはそう思うと、ウェイグを無視して少女の前に片膝をつき、布の袋を手渡す。無言で手渡され、少女は戸惑いの表情を浮かべる。


「……あ、あの」

「……大丈夫か?」

「へ? う、うん」

「……ゾディアック」

「え?」

「俺の、名前。君は?」


 少女は兜の隙間から見える、ブルーグレイの瞳に釘付けになる。


「ビオレ……。ビオレ・ミラージュ」

「ドラゴンっていうのは、本当か?」

「うん……ラミエルっていうドラゴンなんだけど、村を守ってくれている優しい――」


 その時、ウェイグが舌打ちし、近場の椅子を蹴り飛ばした。

 ビオレは完全に怯えた様子でゾディアックに抱きつく。怯えているのは、ウェイグのせいだけではないだろう。

 周囲にいる大半のガーディアンは、差別的な目でビオレを見ていた。


 亜人種は差別するべき対象。ヒューダ族はそう言った共通の意識を持っているため、ビオレの言っていることを信じていないようだ。むしろ、ウェイグの肩を持っているといっても過言ではない。


「ゾディアック。無視してんじゃねぇぞ、コラ」


 ゾディアックはため息をつきそうになった。ここにいても話しが出来そうもないと判断すると立ち上がり、レミィに言葉を視線を向ける。


「依頼書、頼む」

「え、あ、ああ」


 言葉少なに言って、ゾディアックはウェイグに視線を向けた。コケにされたと思っているのか、顔が赤くなっていた。


「亜人の肩持つたぁな。なんだ? 俺らから人気取れなくなったから、次は亜人を抱き込むつもりか。嫌われ者同士お似合いだぜ」


 ゲラゲラと笑い周囲を見る。誰も笑わなかった。


「悪いことは言わねぇからよ、さっさとそのガキ追い出せや。じゃねぇとここの全員敵になるぞ」


 ゾディアックは今度こそため息をついた。


「……俺の方が強いから、やめておいた方がいいぞ」


 その言葉を聞いたウェイグの頭の中で、何かが切れた。


「上等だよテメェ……」


 ウェイグは背負っていたバトルアックスを取り出そうとする。ゾディアックはビオレを背に隠し、大剣の柄を握る。


「ちょ、ちょっと!! ちょっと待った!!」


 一触即発の雰囲気を裂くように、ベルがふたりの間に割って入った。


「落ち着けよ、な? なんでガーディアン同士で喧嘩することになってんだよ」

「誰だテメェ」

「まぁまぁまぁ、落ち着いて」


 ベルは両手をウェイグに向けて制止を(うなが)す。


「お前もゾディアックのツレか!? 上等だ。(つら)かせ」

「え、俺も!? いや、いっかい冷静になろうや」

「そうですよ~、冷静になるべきです」


 ベルが両手でウェイグを制止していると、またひとりガーディアンが姿を見せた。

 魔術師(マジシャン)であることを示すとんがり帽子に黒いローブを羽織った、毛先をクルクルと巻いた、桃色髪の女性が人差し指をウェイグに向けた。


「ここで武器を出して、もし攻撃したらー、あなたは犯罪者にされてガーディアンの権利、剥奪されちゃいますよー? 熱くなるのは心だけにして、頭は常に冷やしておきましょうー」


 気の抜けるような、のほほんとした言い方だった。が、権利剥奪という言葉を聞いてウェイグが押し黙る。

 ベルはその隙に、素早くゾディアックに近づき、焦りが浮かぶ目を向ける。


「何してんだよ馬鹿!!」

「助けなきゃと思って」

「ああ、そうかいそうかい、ご立派ご立派。なら依頼人連れてさっさと出ようぜ。こっち完全にアウェーだぞ」


 周囲から敵対心を露にする視線が向けられていることにゾディアックは気づく。

 どうやらゆっくり話ができる状況ではないらしい。


 その時、風を切る音が聞こえた。ゾディアックは一瞬で音の方向に視線を向け、それを掴む。

 何者かに投げられたグラスだった。中身は入っていないが、水滴がついている。


「ッチ。クソ」


 ウェイグが投げたらしい。これ以上ここにいたら、ビオレに向かって物を投げられるかもしれない。

 ゾディアックはグラスを近くのテーブルに置くと、ビオレを抱きかかえる


「え、え!?」

「店を出る。我慢してくれ」

「なんだお前。亜人の幼女が趣味なのか。まさか奴隷にでもする気か~? 今度会ったら俺に感想教えてくれよ」


 ゲラゲラとした笑い声が聞こえ、次いで複数の笑い声が沸き起こる。


「……クソ野郎」


 小さく呟いたその言葉は、ビオレにしか聞こえていなかった。

 低い声で、暴力的な言葉だったが、ビオレは特に恐怖を感じず、ゾディアックの鎧に手を当てる。


 ゾディアックはそれ以上何も言わずセントラルの出口に向かって歩き出す。


「いやぁ、お騒がせして申し訳ない。ま、亜人の話なんて嘘っぱちだと俺も思いますけどね! 一応聞いておかないとですね! それじゃ!」


 なんとか印象を良くしようとベルは早口で言って、ゾディアックの背中を追いかけた。


★★★


 店から黒い騎士が出ていった後、店は少し活気を取り戻していた。


 調査を行おうとする者はおらず、全員が断念していた。調査どころではなくなったからだ。

 セントラルにいるガーディアンたちは、動揺が隠せていない。ドラゴンが本当に現れていたとしたら、サフィリア宝城都市も危ないからだ。


「畜生! あのクソ騎士。ぶっ殺してやりてぇわ」


 しかしウェイグはそんなことを気にせず、ゾディアックの態度に苛立ちながらテーブルに足を乗せジョッキに入った酒を煽っていた。

 買い物をしていたせいで、遅れてやってきたメーシェルは、話を聞いて柳眉を逆立てた。


「聞いてるだけでムカつくね。亜人の味方するなんてさ」

「変わり者だと思ってましたが……まさかそこまでとは」


 今しがた来たロバートも、苦笑いを浮かべる。

 グラスを傾け喉を鳴らすウェイグを見ながら、ロバートはテーブルに両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持っていく。


「ただ……ドラゴン。もし、その話が本当なら……こちらとしてはどうしようもないですね」

「あ?」

「ドラゴンの素材は高値で取引されているらしいです。まぁ、知ったところでどうこう言えませんが……」


 高値で売れる。その言葉に魅力を感じたウェイグは、ジョッキを置く。


「なぁ、ドラゴンってのは強力なんだよな?」

「はい。超が付くほど危険なモンスターです」

「……ゾディアックでも危険か?」

「……まぁ無事では済まないでしょうね」


 その瞬間、薄ら笑いを浮かべた。


「おい、耳貸せ」


 ふたりはウェイグに近づく。ウェイグは、小声でふたりに何かを告げた。


「……それって最高だね」


 メーシェルがクスクスと笑う。


「ウェイグ、それは……こちらも危険なのでは」

「あ? ビビってんのかロバート」

「……いえ。失礼しました」


 ロバートは頭を下げながら言った。

 ウェイグの視線はロバートから、通りかかったメイドに向き、その尻を叩いた。


「キャア!!」

「おっとわりぃ。”当たっちまった”」


 メイドがウェイグを睨みつける。その目を無視してウェイグは受付に向かう。

 レミィが睨み上げる。


「……何か?」

「いやぁ? さっき俺に対して生意気な態度とってくれたなと思ってさ。おい、って言ってきただろ。お前らはガーディアンに、最高のおもてなしをするのが仕事なんじゃねぇのか?」


 プッ、とウェイグがカウンターに唾を吐いた。


「拭いとけ、クソ猫。半獣如きがガーディアンに楯突(たてつ)くな。エミーリォの孫だからって、舐めた態度とってたら殺すぞ」


 そう言って、受付を離れていく。

 レミィは奥歯を噛み締め、テーブルの下で拳を握りしめた。

 

 あんな奴が、守護者という意味を持つガーディアンのひとりだと。

 ふざけるな。

 ガーディアンというのは、弱きを助け強きを挫く、たとえどんな者が助けを求めようとその手を取り、どんな敵が立ち塞がろうと己の力で道を切り開く。

 それがガーディアンだ。

 しかし、そんなものは夢物語なのだろうか。

 

 そう思っていたレミィの脳裏に、ゾディアックの姿が思い浮かんだ。

 モンスターを彷彿とさせる、恐ろしい黒い鎧。

 だがあの中で、彼が一番早く動き、グレイス族のあの子を助けた。その姿は、夢に描いたガーディアンそのものではなかったか。


「ドラゴン討伐……いや、救助か」


 緊急任務。ドラゴン救助。パーティリーダーはゾディアック・ヴォルクス。


 レミィはふっと笑う。任務書にはこう書いて、掲示板に貼りだそう。誰かはくるかもしれない。

 例え破かれても、何枚でも貼ってやる。

 レミィはティッシュでウェイグの唾を拭き取ると、新しい依頼書を取り出すために席を立ち上がった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] おお?ゾディアックの無双がついに炸裂するかー!わくわく、と読み進めてみたらお預け食らったー!! しかし、そんな焦らしプレイも悪くありませんね…フフ [気になる点] 最後の★部分からレミィの…
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