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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert5.たい焼き
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第183話「安眠超えて再び懐疑」

 異世界人(ビヨンド)であるマルコに、言葉は通じていない。恐らくロゼが何と言って誘ったのか、毛ほども理解していないだろう。


「はい、どうぞ、マルコさん」


 ロゼはコーヒーを入れたマグカップをマルコの前に差し出す。椅子に座っていたマルコは湯気が立ち上るそれを一瞥し、ロゼに対し頭を下げる。


「甘い物、食べますか? 糖分は頭を働かせるって、この前ヴィレオンでやってたので」


 ニコニコとした人懐っこい笑みを浮かべながら、ロゼはダイニングテーブルの上にお菓子を乗せた皿を置いていく。目が点になっていたマルコだが、少しだけ警戒心が薄れたのか、口許に笑みを蓄える。


「×××」


 相変わらず何を言っているかわからなかったが、動作と表情から感謝を述べられたことを、ロゼは感じ取った。


「最初から打ち解けた感じか?」

「……いや。さっきまで、布団の中で怯えていた」

「ああ。まぁ、そりゃそうだろうよ」


 ゾディアックとベルクートが、二人を見ながら言葉を交わす。


「あの黒髪女はやっぱりマルコを狙ってんのかね?」

「その可能性もあるが、そうじゃないかもしれない」


 レミィが口を挟んだ。


「どういう意味だよ、レミィちゃん」

「ビオレが言うには、相手の視線や言葉が自分に向けられてた感じがしたらしい。それが本当にビオレに対してなのかはさておいて、狙いがマルコだけではない可能性がでてきた」

「……つまりマルコを囮にして、俺らのうち誰かを釣ったってこと?」

「まぁ、私だろうけどな」


 そう言ってレミィはマルコに近づき話しかけた。マルコの警戒心がより薄れた気がした。

 こちらの世界に来てから献身的な態度で接してきたおかげか、レミィは彼にとって安心する存在となっているらしい。

 一方、黙っていたラズィはソファに座るビオレの隣に腰を下ろした。


「自分に言葉が向けられた感じ、ですか~?」

「うん。気のせい、かもしれないけど。なんか変な気配というか」

「ん~……殺意とかではなく~?」

「そういう負の感情じゃない、です」


 ビオレは頭を振った。


「なんというか、懐かしむ、感じ?」

「懐かしいねぇ」


 ラズィがボソッと零した。相手の狙いが一体何なのかは謎だが、少なくともレミィとビオレ、そして。


「ゾディアックさんも~、気を付けないといけませんねぇ~」

「何で俺が」

「最強のガーディアンなんていう肩書持っているんですから~。腕試しをしに来る人も多いんじゃないですか~?」


 そう言ってラズィは立ち上がり、ゾディアックに顔を近づける。


「トムみたいな連中がきている可能性だってあるわけだしさ」

「……」

「能天気な顔をしている場合じゃないわよ。何が起きるかわからないんだから」


 吐き捨てるように早口でそう告げると、ラズィはソファに座った。すぐに笑みを浮かべてビオレと話し始めている。

 そんな能天気な顔をしているか、と思っていると、背後からロゼの慌てる声が聞こえた。


「大丈夫ですか? マルコさん」


 見ると、マルコの頭が下がっていた。瞳を閉じ、舟を漕いでいる。


「寝ちゃっ、てる?」

「安心したのか一気に眠気が来たんだろう。とりあえず、ここからどかして……」

「あ、じゃあ2階で寝かしつけちゃいましょう」

「……よろしいのですか?」


 レミィが敬語でロゼに問う。


「はい? 何がでしょうか」

「お部屋を使ってしまうことになってしまいます。ご迷惑なのでは……」

「いえいえ~! 元々二人暮らしなのに広い家買っちゃったので、部屋だけは余っているんですよ~。ゾディアック様が「とりあえず大きな家!」ってことにしたのが幸いしてますね」

「なるほど。では、そうですね。ゾディアックさんもいますし、セキュリティ的にも問題なさそうですね」

「私もいるよ!」

「俺もいるんだけど!!」


 ビオレとフォックスが勢い良く手を挙げる。ロゼが口許に手を当てて微笑む。


「優秀なガーディアンさんがたくさんいるので、ご安心ください」

「……承知いたしました。あの、明日朝早くにお伺いしてもよろしいでしょうか」

「はい! お待ちしております」


 ロゼとレミィは互いに頭を下げた。


「ゾディアック様、マルコさん上に運ぶの手伝ってください」

「わかった」


 そう言ってゾディアックはマルコを担ぐ。彼にとって細身の男を運ぶことなど造作もない。

 部屋から出ていく3人を見て、レミィは安堵のため息を吐く。


「随分と肩入れすんだな、あの異世界人(ビヨンド)に」


 レミィの視線がベルクートに向けられる。両手を頭の後ろで組んでいる男の顔には疑問符が浮かんでいる。


「何か文句でもあるのか?」

「いや。ただ、何でかなぁっていう純粋な疑問よ。誰かに似ているとか?」

「……似ているな。ただ、外見じゃない」


 レミィが目を細める。


「……昔の、私に似ているからだ」


 それ以上、レミィは口を開かなかった。ただ黙って、刀を握りしめていた。




★★★




「とりあえず、翻訳機はこれで完成だ」


 ウェイグが作業台に機械を置く。機器が剥き出しの不格好だった機械の姿はなく、一見するとチョーカーのようなアクセサリーに見える。


「本当はヘッドホンタイプにするつもりだったが、イヤーパッドのせいで正常に読み取れなかった。だから集音器を付けて口にも近い、首元に巻くタイプにした」


 ウェイグはチョーカーを手に取ると、内側にあったボタンを押す。


「空気中の魔力(ヴェーナ)を変換して異世界人(ビヨンド)……いや、”人型の耳”に届ける。人間の耳の位置を予測して届けるって感じだ」

「亜人には使えない、というわけか」

「ああ。あくまで集音だけだ。発言した時はまた魔法が発動して亜人だろうが何だろうが、異世界人(ビヨンド)が何言ってるかくらいはわかるようになる」

「精度は」

「適度な調整が必要だな。何分初めてだからよ」

「永遠に使えるのか?」

「3日に1回充填が必要だな。魔力(ヴェーナ)の。誰かの力を借りる必要性がある」

「空気中の魔力(ヴェーナ)を変換させて取れるようにすることは」


 ウェイグがハッと笑って頭を振った。


「そんなことしたらすぐに過剰高熱(オーバーヒート)しちまう。容量分だけ一気に吸い取るなんて芸当はできない。もしそのシステムができたとしたら、俺は億万長者になれるな。魔力(ヴェーナ)切れを起こす心配もなくなるんだから」

「……そうだな。すまない。変なことを言った。代金はここに置いておく」


 作業台にレミィは大金を置く。ウェイグが札束と小銭を数えてチョーカーを手渡す。


「なぁ、ひとつ聞いていいか」

「なんだ」

「異国の服を着ていた連中はあんたの仲間か?」


 チョーカーを握る手に、一瞬力が込められる。


「……違う」


 絞り出すように答えると、ウェイグはチョーカーから手を離した。それ以降会話はなく、レミィは店を出て行った。

 しっかりとそれを見送ると、ウェイグはポケットからアンバーシェルを取り出した。


「ああ。今出たよ……わかってる。またここに来たらすぐに報告する。だからこっちに迷惑かけんなよ」


 耳元に画面を当てながら、ウェイグは不満そうな口調でしばらく会話を続けた。

お読みいただきありがとうございます。


次回もよろしくお願いします

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