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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert5.たい焼き
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第182話「鼓動せし虚の刀と現の仲間」

 レミィが所持している武器は「刀」と呼ばれている、異国の武器だ。スサトミ大陸から伝わったとされるこの剣は、ゾディアックが持つ大剣や他のガーディアンが持つロングソード等とは、随分違う形状をしている。

 何よりも特徴的なのはその少しだけ湾曲している細身の刀身。敵を倒す、叩き斬ることに注力しているようには見えず、どちらかというと芸術品に近い造形と光を放っている。


 だがそれが決してガーディアンたちの武器に劣っていないことを、ゾディアックは理解していた。レミィが使うところを見ていた時にそう思った。これほどまでに「斬る」ということに特化している武器は、他にはない。


「その細い棒みたいな包丁が何だってんだよ」


 ソファに座ってくつろいでいたフォックスが顔だけレミィに向ける。


「つうか座ったら?」

「濡れるからな。このままでいい」


 レミィはずいと、ゾディアックに袋を見せる。


「この刀袋(かたなぶくろ)の中に、私の愛刀が眠っている。「(あらし)」という名だ」

「嵐……」

「単刀直入に言おう。この刀は宝刀(ほうとう)なんだ。こっちの大陸でいうところの宝剣(ほうけん)、王族だけが持つことを許される秘蔵の武器だ」


 ゾディアックが目を見開く。


「マジで!!?」


 フォックスが体をレミィに向け、ソファの背もたれに寄りかかる。


「売ったらいくらになる!?」

「フォックス……」

「値段なんて、つけられないさ。それだけの価値がある」

「……だからあの女性は、それを狙っていた?」

「ああ。大方自分の物にするか、ヨシノから取ってこいと頼まれたんだろう。この刀は恐ろしいからな」

「恐ろしい?」

「この刀はただの財宝なんかじゃないんだよ」


 そう言って刀袋からレミィは嵐を取り出した。漆黒の鞘と緑色の柄部分が曝け出される。一目見るだけで上質な業物だとわかる。


「これがどう恐ろしいんだ」


 ただの武器にしか見えないという意味も込めてゾディアックは聞いた。

 するとレミィは頭を振って刀に魔力(ヴェーナ)を流した。瞬間。

 突如として鞘に、管のようなものが浮かび上がった。


「うわぁ!!」


 フォックスが大声を上げた。ゾディアックも眉根を寄せて、刀を凝視する。

 管はその太さを増し、浮かび上がり、無数の枝となって鞘を覆いつくし始めた。生き物のように動き制止したかと思うと、脈打つような動作をし始める。まるで血管のように。


 ゾディアックはそれに覚えがあった。以前、ダンジョンに閉じ込められたビオレを助けた時にも壁に血管のような管が浮かび上がり、脈打っていたことを思い出す。


「な、なななんだよそれ! 気持ちわりぃ!」

「レミィ、それは……」

「知っているような反応だな。なら話は早い」


 レミィは刀を力強く握りしめる。


「この刀は、生きている。この武器は”モンスターを溶かして武器にしている”禁忌の宝刀なんだよ」


 赤く太い血管が脈打っている。まるで鞘が返事をしているようだった。




★★★




 シーツを掴んで丸くなっている男性にロゼは近づく。

 足音が響くたびにその塊がビクビクと揺れた。


「大丈夫ですか?」


 柔らかな声をかける。一瞬ビクリと動き、小さく震え始める。相当怖がっているらしい。

 ロゼの足がゆっくりとベッドに近づき、腰を下ろす。そして小さな手の平を塊にそっと添える。


「安心してください。ここにあなたを傷つける人はいませんよ」

 

 言葉は通じていないだろう。だがそれでも、安心させるために優しく声をかける。

 異世界人(ビヨンド)は何とも哀れな存在である。突如として別の世界に連れて来られ、何かを伝えることもできずにモンスターの餌になる者が大半だからだ。

 だからこの男性がここに来れたことは幸運以外の何物でもない。それが理解できれば、気分は一気に楽になるはずだ。ただ自分にできることは安心させることだけ。

 

 撫でていると、いつの間にか塊の震えが止まっていることにロゼは気づいた。微笑みを浮かべ手を止め立ち上がろうとする。

 その時、塊の中から腕が伸ばされ、ロゼの手を掴んだ。

 視線を向けると、シーツの隙間から怯えた眼が見えた。

 ロゼは掴んできた手を解きながら言った。


「……大丈夫ですよ。大丈夫」


 両手で優しく相手の手を握る。怯えの瞳に微かに、安堵の涙が浮かび上がっていた。




★★★




「正式名は「虚現刀(きょげんとう)」。幻術を主に使う危険な妖怪……いや、こっちの大陸だとモンスターか。そいつの血肉を用いて作られた武器だ」


 レミィは肩の力を抜く。同時に魔力(ヴェーナ)を流すのを止める。

 鞘に浮かび上がった血管が収縮していくのを見ながら、ゾディアックは尋ねた。


「体に違和感はないのか? 魔力(ヴェーナ)を吸われているんじゃ」

「そんな力はもう残ってない。持ち主である私の力だ、よっぽど弱っていなきゃ、こいつに魔力(ヴェーナ)を吸われることはないよ。その代わり「嵐」は触媒として機能するけど」

「この刀を通して魔法が撃てるのか」

「ああ。それも強力な物をな。もっとも、私は魔法が苦手だからな。それほど器用に使えないが」


 自嘲気味に笑う。


「ゾディアック。ヨシノは信頼するなよ。あいつがここに来たのは偶然なんかじゃないと思うんだ。姫になったあいつは、この刀を腰に差さないといけなくなったのかもしれない」

「……あの人は、そんな危険そうに見えなかったが」

「本性が暴力的な奴は、得てして甘い面を被っているものさ」


 レミィは肩をすくめる。ここまで話していて、ゾディアックはある疑問が浮かび上がっていた。話していれば当然浮かび上がってくる疑問。


「何が、あったんだ。レミィとヨシノさんの間に」


 レミィが疑問に答えようとした。その時だった。


「あの、マスター……」


 視線を向けると普段着になったビオレがいた。ほのかに顔が赤いのはさきほどまでシャワーを浴びていたからだろう。


「ビオレか。どうした」


 尋ねると視線を右往左往させた。


「どうした?」


 明らかに様子がおかしい彼女にもう一度問う。


「あの、実はその刀の話をし始めた時から、廊下で聞いてました。そこで気になることがあって……」

「なんだ?」

「レミィさんが言うには、その刀が狙われているんですよね?」


 レミィが片眉を上げる。


「ああ。そうだと思うが、それがどうした?」

「だとするとおかしいんです。あの黒ずくめの人……。私を見ていたんです。ずっと……」


 ゾディアックとレミィが顔を見合わせる。


「何それ? どういうこと?」

「私だってわかんないよ。確かにマスターとかレミィさんも見ていたけど、「本当に私は幸福です」って言った時、ずっと見つめられてて……」


 ゾディアックは腕を組み片方の拳を唇に当てる。狙いは刀ではなくビオレだとすると、何が狙いなのかわからなくなった。

 あの女は「会いたいと願っていた人々」と言っていた。その中にビオレが含まれているとしたら、彼女はいったい。


 その時チャイムが鳴り響いた。レミィは反射的に刀の柄を握り、ビオレは身構えた。

 ゾディアックはリビングを出て玄関に向かい扉を開ける。


「よう大将」

「とりあえず濡れ鼠じゃなくなりました~」


 比較的ラフな格好に身を包み、傘をさしたベルクートとラズィがいた。ゾディアックは周囲を警戒しつつ二人を招き入れる。


「どうしたよ大将。ビクビクしちゃって」

「いや、その」

「あ、ゾディアック様」


 廊下を歩きながら話していると、リビングに繋がる扉の前にロゼがいた。

 その隣には、青い顔をしたマルコの姿もあった。

 ゾディアックたちがマルコを凝視していると、ロゼがふわりと微笑んだ。


「温かい飲み物でも飲みながら、まったりしましょうって誘いました」


 にこりと笑みを向けられ、ゾディアックは頷きを返した。

お読みいただきありがとうございます。


次回もよろしくお願いします。

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