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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert5.たい焼き
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第176話「脅かし、脅かされ、脅かす」

 ウェイグが経営している道具屋の中に入り、レミィはウェイグの前にヘッドホンを置いた。


「話してきた。イントネーションがおかしかったり、若干聞き取り辛い場所もあったが、会話にさして問題はない」


 ウェイグは作業台に置かれたヘッドホンを手に取る。剥き出しになっている機械部分から赤い光が点滅していた。

 ヘッドホンにケーブルのようなものを繋ぎ、イヤーパッドを持ち上げ耳に当てる。


「本当に異世界人(ビヨンド)なのか。不思議な生き物だ」

「疑っていたのか?」

「半信半疑だった。ただ翻訳機がこんなに上手く動作するとは思わなかった。機械も、捨てたもんじゃないな。充電に問題ありだが」


 どこか物憂げな様子のウェイグに、ゾディアックが声をかけた。


「すまない」

「ん?」

「デザインについて、聞くのを忘れた」

「ああ、そうなのか。なら適当に、オーソドックスなヘッドホンデザインにする。文句はねぇよな」

「構わない」

「お前変わったな」


 ウェイグが鼻で笑う。


「昔のおどおどしていたような態度じゃなくなってる。自信が持てるようになったのか?」

「……ああ。そう、なのかもしれない」


 ゾディアックはレミィとフォックスとミカを映すよう、視線を動かした。


「コミュ障で、暗いのも、相変わらずだけど。ちょっとだけ勇気が持てているような気がしているんだ」

「コミュ障って」


 ウェイグがカラカラと笑う。


「なんだよ。お前、強いから横柄な態度取っているのかと思ったら、コミュニケーションが苦手だったのか?」

「……まぁ」

「マジかよ。何でそれを言わなかったんだよ」

「言えないからコミュ障なんだろ」

「確かに、そうだな。悪い悪い」


 クックと馬鹿にしたように笑うウェイグ。だが、そこに昔のような侮蔑の感情はない。むしろ嬉しいように頬を緩めている。


「なんでかな。ガーディアン辞めた後の方が、知れることが多い。笑いに事欠かねぇよ」


 ウェイグのガントレットと義足が軋む音が鳴り響いた。

 

「……ウェイグ」


 やはり事情が気になり、ゾディアックが口を開いた時だった。

 店の扉が開いた。視線を向けると、黒髪のショートヘアの女性が立っていた。

 女性はゾディアックの姿を捉えると、一瞬呆けたような面になり、直後顔を強張らせた。


「な、なんで……!!」

「メーシェル!」


 ウェイグが声を上げた。それと同時にゾディアックとレミィが声を上げた。目の前に立つ地味な布服に身を包んだ地味な女性がメ―シェルだというのだ。

 派手な見た目と高級な服装に身を包んでいるのが特徴的だったことをレミィは思い出す。とてもじゃないが、同一人物には見えない。


「何で、あなた達がここにいるの……」


 メ―シェルの口許は恐れで戦慄いていた。

 ウェイグは立ち上がりメ―シェルに近づく。義足はそこまで完成度が高くないのか、歩くたびに軋む音が鳴り響いている。


「メ―シェル」


 義足を引きずるように歩いたウェイグがメ―シェルの両肩を掴む。


「彼らは今、客としてきている」

「客……?」

「ああ。あ、そうだ。北地区の方はどうだった? キャラバンに迷惑かけなかったか?」

「……うん」

「そうか。今日は疲れただろう、お疲れ様。看板娘なんだから休まないとな」


 メ―シェルの様子は、普通ではなかった。答えている時の声も覇気がなく、顔も青白い。恐らくゾディアックたちを捉えたからだろうが。

 しかし喋り方も態度も、昔からは想像もつかないほど物静かになっている。


 ウェイグがメ―シェルの肩を抱いて店の奥に行こうとする。ゾディアックは道を譲る。

 目の前を横切ろうとする二人を見ていた次の瞬間、メ―シェルはキッとした鋭い目つきでゾディアックを睨んだ。


「過去の話は聞かないで」

「え……」

「お願いだから」


 次いでレミィに視線を向けた。


「私たちの生活を壊さないでください」

「おい、メ―シェ――」

「お願いします……どうか、お願いします……」


 深々と、メ―シェルは頭を下げた。

 最後の方は声がかすれており、聞き取れなかった。嗚咽が室内に木霊する。


「お、おい、その子に何したんだよ師匠」

「い、いや、それの……」

「大丈夫ですかぁ?」


 ミカが心配そうな声を投げると、メ―シェルは身を翻し、店の奥へ消えていった。

 ウェイグは呆れたような、この状況に慣れているようにため息をひとつ吐く。


「これ以上の干渉は、無意味だな」


 レミィがボソッと言った。


「”店主”。翻訳機の完成はいつになる?」

「……細かな調整を抜きにすれば明後日には渡す。それからは定期的にメンテナンスが必要かもな。備品とかも必要になる可能性もある。追って連絡しようか」

「ああ、これは私の連絡先だ」


 胸の内ポケットから名刺を出し作業台に置くと、レミィは踵を返した。


「行こう、ゾディアック」

「……ああ」

「いいのかよ?」

「どうやら私たちはお邪魔らしい。商品の話はすんだから、もう長居する必要もないだろう」


 そう言ってレミィは外に出て行った。フォックスとミカもそれに続く。

 ゾディアックは視線を一度ウェイグに向けた。

 ウェイグは、何も言わずに頭を振っただけだった。




★★★




「私は一度セントラルに戻るよ」


 店から離れるように歩いているとレミィが言った。


「ありがとうな、ゾディアック。これで個人的なお願いは解決できそうだ」

「……いや、いいさ」

「この後は? もう帰るのか?」

「ああ。明日は……例のお姫様にでもあってみようかなと」


 レミィは足を止めた。


「レミィ?」

「ひとつだけ。ひとつだけ。忠告しておく」

「……?」

「相手のことを、信頼すんなよ」


 それだけ言うと、レミィは足早に歩き始めた。

 意味が理解できなかったゾディアックは、首をかしげるしかなかった。



お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします~!

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