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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert5.たい焼き
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第166話「優人の耳に飛び込む噂蠅」

 またか、という言葉をゾディアックは思い浮かべた。以前からちょくちょく話に出てくる菓子屋の件だ。

 商人を副業としているベルクートは、南地区サフィリア正門へと続くマーケット・ストリートと呼ばれる大通りに露店を構えている。

 販売しているのは、どこの国でも”(よこしま)な物”として扱われている銃器類だ。市民やキャラバン、果てにはガーディアンにまで危害を加えるアウトローが好む武器であるため、一度は営業停止にまで追い込まれた。

 しかし先日の事件を解決したことで、一種の信用を得られ、また露店を開くことができた。

 だが、それには問題があった。


「まだお菓子屋さん開きたいの? ベルさん」

「呆れた顔で言うんじゃねぇよビオレちゃん。いくら露店を開いていいっつっても、銃器類の類は禁止されてる」

「まぁあんな事件があったもんね」

「銃に罪はねぇっつうのに」

「罪人が使いやすい武器が銃ってことなら、販売しないでって気持ちもわかるけどね」

「なるほど、賢いじゃねぇか、お嬢ちゃん」


 ベルクートはため息をついて肘をテーブルにつくと、眉をつまんだ。


「俺の居候先はガンスミスだ。銃以外に売り物がねぇ。商売道具を取り上げられた商人なんて廃業まっしぐら。そんで俺は居候だから追い出されるのも時間の問題」


 深いため息が零れ落ちた。

 自業自得じゃんとは、誰も言えなかった。


「なぁ。銃はダメな物なのに、ガンスミスがあるのっておかしくねぇ?」


 フォックスが疑問符を浮かべてゾディアックを見た。


「……ガンスミスのような、ちゃんとした店で買うにはガーディアンかどうか、みたいな許可証が必要なんだ」

「あ、それで許可証はランク見せつけるアクセサリーか」


 ゾディアックは頷いた。


「だからアウトローに売る心配はない。けど露店は違う。許可証がなくても買える」

「じゃあ許可証見せろよっていう制約があればよくね?」

「それはできねぇ」


 ベルクートが横目でフォックスを見ながら言った。


「露店は誰にでも分け隔てなく、物を売ること。これはサフィリアの商人全体に行き渡っている決まり(ルール)だ」

「なんだそりゃ? 誰がそんなこと決めてんだよ」

「ラビット・パイ。この国では商人たちの王様だ。以前の事件でわかったが、連中はアウトローともつるんでやがることがわかった。だから「誰にでも売れよ」なんて言ってんだろうな。アウトローに売れて、儲けやらが自分たちの懐に入ってくるようなサイクルがあるのかもしれない」

「腐ってんなぁ」


 眉根を寄せて舌打ちすると、フォックスは肉を口に運んだ。腹の虫の居所が悪いように、わざとらしく口許を大仰に動かしている。


「あの。あの」


 ロゼが挙手した。

 ワクワクしている気持ちを隠せないように、顔には小さな笑みが浮かんでいる。


「それでベルクートさんは、新しい品物としてお菓子を売りたいと」

「その通り。おまけにゾディアックの名前が借りられれば話題に関しては問題ない」


 ロゼはゾディアックに近づくと大きな手を両手で握った。


「やりましょう」

「え?」

「作りましょう。ゾディアック様の愛の結晶」

「ロゼ、違う。言葉がすっごい違う」

「お菓子作りましょ!」

「だから、前も言ったけど問題が多いんだって。だからできない」

「え~」


 ロゼが不満げな声を出しぷくっと頬を膨らませる。大変可愛らしいがゾディアックは視線を切った。抱きしめたくなったが心を鬼にした。


「面白そうなのに」

「わかるかい、ロゼちゃん。実はもう店名を考えててよ」

「え、本当ですか!? 教えてください! ロゴとか作っちゃいますよ~!」


 顔に花を咲かせたロゼはベルクートに詰め寄る。その光景がなんとなく面白くなかった。ゾディアックは不機嫌そうに唇を尖らせた。


「子供ねぇ」


 頬杖をついたラズィが口角を上げて呟く。


「つうか俺らガーディアンだろ? 商人もやっていいわけ?」

「明確にダメって言われているわけじゃないからいいのかも」

「ふぅん」

「ビオレ、フォックス!」


 ロゼがふたりを見て手招きした。


「一緒にロゴ、考えましょ!」

「あれ? ロゼさん凄いやる気」

「……家主には逆らえねぇから手伝うか」

「そだね」


 仲間たちがベルクートの方に集まり、次第にああでもないこうでもないと意見を交わし始めた。

 盛り上がるメンバーを尻目に、ゾディアックは視線をヴィレオンに向けた。が、その途中、ラズィと目が合った。


「あなたが家主じゃないの?」

「俺と、ロゼだ」


 ラズィは得意げに鼻を鳴らした。口許には小馬鹿にしたような笑みが浮かんでいる。


「”やらない”とは言わないのね。お菓子屋さん」

「……ベルクートのことは助けたい。それに、やってみたいとは思うよ。だってみんなと一緒にお菓子を作って、商売やってなんて、絶対面白いし」


 堪えきれず、ラズィの口から笑い声が零れる。


「な、なに」

「貴方って本当優しいわ」


 美女の微笑みと糸目から覗く綺麗な瞳を見て、ゾディアックは顔が赤くなる思いだった。


「むっ」


 そのやり取りがつい視界に入ったロゼが、素早くゾディアックに近づく。


「私の騎士を誘惑しないでくれませんか、ラズィさん」

「あら、ごめんなさい。そんな浮気性な方だとは知らなかったわ」

「や、やめてくれ、ふたりとも」


 ラズィがただからかっているだけだとわかっているゾディアックは、腕にしがみつくロゼの頭を撫でながら言った。


「そういえば、翻訳機の件はどうするんですか、ベルさん」


 ラズィの視線がベルクートたちに向けられる。

 ベルクートはアンバーシェルから目を離すと、困ったような声を上げた。


「それなんだよなぁ。明日セントラルか近くの店主から情報集めてみよっかな」

「シノミリアを使えばいいのでは?」


 シノミリアとは、アンバーシェルで使える連絡ツールのようなものだ。大人数で会話できる”グループトーク機能”があるため、情報集めにはもってこいである。


「頭いい、ラズィちゃん。じゃあさっそく……」

「あ、もう私聞いたよ」


 ビオレが自分のアンバーシェルの画面を全員に見せながら言った。


「カルミンとか、ミカとしか話してないけど、女子たちの間で結構話題になってる店があってさ」

「店?」

「生活魔法用具を売ってるんだって。ただ、マーケット・ストリートにはいなくて、サフィリア内を移動してるらしいの」


 ビオレはベルクートを見た。


「本当に質が高くて、それで面白いのが、商人の人に「こういうのを作って」って依頼すると、その場で作ってくれるんだって! おまけに作れない物はないとか」

「な、なんだぁそりゃ?」

「もしかしたら、翻訳機とか作ってくれるかもしれないよ?」


 ベルクートが片眉を上げて渇いた笑い声をあげた。


「胡散臭すぎんだろそれ」


 ゾディアックも同じ気持ちだったため頷く。


「でも、ちょっと調べてみる価値はあるでしょ」


 確かに、ビオレが言うことももっともだった。その噂が本当だとすれば、異世界人(ビヨンド)の翻訳機も手に入るかもしれない。


「面白そうですね、ゾディアック様」


 ロゼがニッコリとした笑みを向けた。ゾディアックは頷きを返す。

 それについて詳しい話を聞こうとしたところで、ヴィレオンに「アンヘルちゃん」の姿が映った。


「あ……始まっちゃった」

「んじゃ、仕事の話はここまでだな。放送見ようぜ」

「うん!! 見よう見よう!」


 仲間たちの意識は「アンヘルちゃん」に向けられた。

 ゾディアックは明日でもいいかと思い、柔らかな表情で視線を動かした。


お読みいただきありがとうございます!

次回の投稿は1月26日(火)12:30です!

次回もよろしくお願いします~!

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