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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert1.パンケーキ
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第16話「来訪者」

 昨日連絡がきた原因不明の山火事の詳細は、今朝、ヴィレオンにて放送されたニュース番組で述べられた。


 大規模な山火事はデルタ山脈の森林地帯で起きた。炎の威力は凄まじかったらしく、防火性の低い木々もあったため、一気に周辺に燃え広がったらしい。

 結果、一帯を炭にし、地面も抉れていたため、地図の書き直しが必要とまで専門家は話していた。


 ただ奇妙な点があった。誰も消火活動など行っていないのにも関わらず、一夜明けたら山火事が鎮火していたというものだ。


 炎を操るガーディアンが、魔法を使って火事を鎮めたのか、それとも奇跡が起きて自然鎮火したのか。原因が不明だった。


 出火の原因は不明、鎮火の原因も不明。何もかもがわからないことだらけだが、はっきりしていることもある。


 それは、現場に膨大な魔力痕(ヴェーナスカー)が発見された、というもの。


 魔力痕(ヴェーナスカー)とは、その名の通り、魔法を使った痕跡のことを指す。

 つまりこれは、キャラバンやガーディアンの不審火で起こったものではなく、強力な炎系魔法を使える何者かが、意図的に起こした災害だと言える。


 ゾディアックは真実が知りたく、朝早くからセントラルに向かって歩いていた。


 そして、いつも使っている路地を使い、出口が見えてきたところで、ゾディアックは立ち止まった。

 目の前に怪しげな盗賊(シーフ)がいたからだ。


 明らかに挙動不審であり、何度も道をのぞき見している。

 首から上は、ターバンでぐるぐる巻きになっている。身に纏っている防具は安物で、武器も初めに渡される物だ。


 怪訝に思いながら近づくと、盗賊(シーフ)が勢いよく振り返り、ゾディアックを捉える。

 顔は完全に隠れていたが、隙間から見えるその目に、見覚えがあった。


「おお、ゾディアック!!」


 ベルだった。

 ゾディアックは首を傾げる。


「……」

「な、なんだよ。別に誰かをのぞき見してたわけじゃねぇぞ」

「……じゃあ、腹が痛いのか?」

「違うわ! まぁいい。ここで出会ったのも縁だ」


 ベルはゾディアックに近づき、耳打ちしてくる。


「……」

「……」


 小声であるため、兜が邪魔をして伝わらなかった。


「つうわけだ。わかったか?」

「……何が?」

「え」

「兜のせいで聞こえてなかった」

「ばっ、お前早く言えよ! 結構小声で喋ってたんだぞ! 馬鹿みてぇじゃねぇか俺!!」

「……その音量で頼む」


 ベルは呆れたように項垂れ、ため息をついた。


「昨日、じゃなかった。今日の朝のニュース見ただろ。デルタ山脈の山火事」

「ああ」

魔力痕(ヴェーナスカー)が発見されたっていうから、きっと調査に乗り出すガーディアンがセントラルに集まるはずだ。もしかしたら、見たこともないモンスターの仕業かもしれないからな。討ち取って名を上げるにはいい機会だ」

「……かもな」

「そこでだ。俺と一緒に、セントラルに入ってくれや。ひとりだと、怪しまれるかもしれねぇだろ?」

「なぜ」

「俺はキャラバンの人間だ。流石に銃は売れねぇが……ガーディアンの内部事情が知れたら、店で必要なもんを揃えて売りつけてやろうと思ってな。顧客が何を望んでいるかわかったら、超有利だろ?」


 ゾディアックは腕を組む。


「……キャラバンは、セントラルに入ってはいけない」


 ベルは「う」と言った。


「キャラバンの暗黙のルールだ」

「い、いや。俺の気持ちはわかるだろ? それに、そんな法律はどこにもないし」

「……俺は、キャラバンから恨まれたくない」


 ただでさえガーディアン内では嫌われ者なのに、キャラバンからも嫌われてしまってはこの国に住めなくなってしまう。

 ゾディアックは早足でベルの隣を通ろうとする。


「ちょ、ちょ、ちょい。ちょっと待って」


 ゾディアックの肩を掴み、前に回り込む。


「なぁ頼むよ。もう今月の売上厳しすぎて、危険を冒して来てんだ。頼む。助けると思って」


 頭を下げるベルを見て、ゾディアックは悩んだ。ベル自身、キャラバン内の”暗黙のルール”を破ることを覚悟しているらしい。


「そうだ! 今度、ゾディアック用に製菓用の材料置いておくぜ! 最安値に設定しておくからさ。どうだ?」


 ゾディアックの眉が動く。実際、魅力的な提案だった。


「……わかった」

「マジかよ! 助かるぜ。やっぱり持つべきものは友だな!」


 友、という言葉は、ゾディアックの心に刺さった。


「友?」

「ああ。マジで助かるぜ」


 友か。気分を良くしたゾディアックは、意気揚々とセントラルへ足を踏み入れた。


 中に入ると昨日よりも倍近い数のガーディアンがひしめき合っていた。

 群衆は大きくふたつにわかれている。ひとつは任務依頼書が張り出されている掲示板前に、もうひとつは受付前だ。


 いつもは突き刺さるような視線を向けられていたゾディアックだが、今日はそれがなかった。


「よし、潜入成功だな。じゃあさっそく」


 ベルの目は受付に向けられた。


「盗み聞きしねぇとな。ゾディアックはどうする?」

「行こう」


 ふたりは受付へと向かう。カウンターの前にいるガーディアンは、調査に乗り出そうとしている者が大半だろう。


「あー、聞いてください!! たった今入った情報です!」


 レミィの声が木霊した。ふたりは群衆に紛れる前に立ち止まった。

 

「調査に関してなのですが、転移魔法(テレポ)が使えません。デルタ山脈に存在する「エンドポイント」が、すべて機能していないようです!」


 直後、ガーディアンたちが落胆の声を上げた。

 転移魔法(テレポ)を行う時は、始点である「スタートポイント」と、終点である「エンドポイント」の両方が必要となっている。つまり片方だけでは転移不可能なのだ。

 

 ポイントの形は石だったり建造物だったり、偶像(ぐうぞう)だったりする。早い話が、設置した人の趣味だ。ポイントの設置は、国が動いているところもあれば、親切なガーディアンが設置したりしている。


 デルタ山脈にあるエンドポイントは、ほとんどガーディアンが設置したものだ。

 それらがすべて壊れているということは、ますます怪しい。


 ガーディアンがざわつき始める。


「おい、どうするよ」

「行きてぇのは山々だが、デルタ山脈だろ? 馬で2日はかかるぜ?」

「飛竜使おう! 夜の間に着くよ!」

「馬鹿。金はどうすんだよ。俺らは北地区の連中みたいに金持ってねぇぞ」


 向かうには遠すぎるという理由から、ガーディアンの大半は意気消沈していた。


「おいおい。これ、誰も行かねぇんじゃねぇか?」

「……飛竜に乗れば行けるが」

「ワイバーン使った空路か? 誰も乗れねぇってあんなの。北地区にしかないセレブ御用達の発着場に行くのに数十万、乗るまでに数百万、そして飛ぶ距離に応じて数十万から数千万」


 ベルは呆れたように頭を振った。


「一介のガーディアンが、どうやって乗れんだよ」

「……クーポン券とか使えば、行けるかもしれない」

「は? 飛竜にクーポン券とかあんの?」

「昔、貰った。欲しいか?」

「あ~転売したら売れそうだなぁ、おい」


 受付では一部のガーディアンが声を荒げていた。それに対し、レミィが頭を下げているのが見えた。


「しっかし、当てが外れたかぁ」


 ベルは肩をすくめて、小声で言った。


「……帰るのか」

「まぁここにいても金にならねぇし。あ、じゃあ一杯飲むか」


 ゾディアックは少し悩んだが、頷いた。ふたりは踵を返そうとした。


 その時だった。セントラルの扉が、大きな音を立てて開かれ、入店を告げるベルが鳴り響いた。

 近くでガーディアンの話し相手をしていたメイドが、話を切り上げ入口に近づく。


「いらっしゃ――」


 言葉はそこで止まった。




 一瞬の静寂(せいじゃく)の後、メイドの悲鳴が、セントラルに木霊(こだま)した。



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