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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert5.たい焼き
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第160話「守護者賑わい迷い猫」

 オーディファル大陸内に存在する小国、サフィリア宝城都市。


 小国ではあるが大陸一、移動商人団体であるキャラバンが訪れる街だ。キャラバンはメイン・ストリートに露店を開くのが暗黙の了解(ルール)になっている。

 そのせいで、ストリートは”マーケット・ストリート”と呼ばれるようになり、今では立派な観光名所のひとつである。日々新しい店が開店しているようなものであり、ショッビングを楽しむ者にとっては毎日が新鮮で楽しいだろう。


 それと同じくらい目を引くのが、ガーディアンの存在だ。大陸に存在する国々には必ずと言っていいほど、モンスターと戦う装備に身を包んだガーディアンの姿があり、それを雇い管理する”セントラル"が存在している。

 このサフィリアにもセントラルは存在しているのだが、他の国とは一味違った特徴がある。その特徴とは「最強のガーディアンがいる」というものだ。

 ガーディアンに憧れる者たちは、その「最強」を一目見ようと、今日もセントラルの門を叩いていた。




★★★




「だぁもう!! うるせぇなぁ!!」


 セントラル内に、若い少年の声が響き渡った。賑わいを見せている施設の中でも目立つ声は周囲の視線を集めた。


「任務は上手くいったんだから、もういいだろうが!」


 ガネグ族の少年であるフォックス・ハウンドは狐耳を前方に倒し、机に片足を乗せ、目の前に座っている中年男性の剣術士(ソードマン)を睨んだ。

 剣術士(ソードマン)は、意気がるチンピラのようなフォックスを睨み返す。


「今回はたまたま不意を突いたから楽にモンスターを倒せたんだ。お前が突出して無傷だったのはな、運がよかっただけなんだよ」

「だからって、うだうだ作戦練ってたら気づかれたかもしれねぇだろ!? だったら先手必勝だろうが!」


 剣術士(ソードマン)は呆れて頭を振った。ふたりの言い争いは終わりそうにない。


「いいの? あの子また暴れてるわよ」


 掲示板に張り出された任務書を手に取りながら、カルミンは隣に声を投げた。


「いいよ。一度痛い目見ればいいんだ、あんな奴」


 ビオレがムスッとした表情で答えた。掲示板だけを見つめ、なるべくフォックスの方を見ないようにしている。

 眉をひそめている彼女を見て、カルミンは肩をすくめた。


「あの、ビオレさん、カルミンさん!」


 ふたりは後ろを見た。軽鎧が身に纏う、カルミンと年が近そうな若い男が立っていた。


「何か用かしら」


 カルミンが小首を傾げると、男は頬を掻いた。


「えっと、今パーティを募集していて。8人パーティで行うダンジョン攻略任務なんですけど、一緒にどうでしょうか?」

「いいね! 行こう行こう!!」


 ビオレがパッと顔を明るくする。男もその明るさに影響され、頬を緩めた。


「本当ですか!?」

「うん!」

「心強いです、ありがとうございます!」


 男は小さくガッツポーズをした。ビオレを誘えたことが嬉しいのだろう。

 ビオレがガーディアンになったばかりの頃、亜人であるという理由から彼女はよく除け者にされていた。しかし今では実績を積んだ彼女を誘う声が多くなっていた。おまけに、明るく、可愛らしいと来ている。

 本人は気づいていないが、男性からの人気は異常に高いことを、カルミンは知っていた。


「ビオレ」

「ん?」

「変なトラブルに巻き込まれたら私を頼りなさいね」

「なにそれ」


 苦笑いを浮かべるカルミンに、ビオレはきょとんとした表情を浮かべ、首を傾げた。


 自己中心的な部分はあるが、経験豊富なガーディアンに対し意見をぶつけ合うほどの度胸と自信を持つフォックス。

 自由にパーティを組み、さまざまな任務に挑み、見識と人脈を広めていくビオレ。


 そんな活力が満ち溢れる両者を遠くから見つめていたベルクート・テリバランスは、ハンと鼻を鳴らした。


「若いっていいねぇ~」


 テーブルに右肘を乗せ、足を組みながら言った。左手に持ったグラスを傾け、酒をあおる。


「そうですねぇ~。酒しか飲んでないオジサンより魅力的ですねー」

「ラズィちゃん。俺だって傷つく心は持ってるんだぜ?」


 ベルクートは対面に座るラズィ・キルベルに体を向ける。


「それに、俺はちゃんと仕事してから酒を嗜んでいるんだ」

「へ~? 今日も露店には人が集まらず、宣伝活動すらしていないし、任務にも行ってないくせに? それで仕事をしたと」

「う」


 ラズィは大げさにため息を吐いた。糸目を床に向ける。


「……ダメニンゲン」

「おぉぃ。小声で言っても聞こえてんだよ」

「ダ~メに~んげ~ん」

「おぉい。正直に言っても傷つくんだよ」

「事実じゃないですか~」

「……そ、それよりもさぁ、ラズィちゃん。若いふたりが頑張っているのはいいことだけどよ」

「うわぁ、誤魔化した~。「だけど」?」


 ベルクートは視線を入口の方に向けた。ラズィも追うように視線を動かす。

 そこには、多数のガーディアンに囲まれている漆黒の騎士の姿があった。


「ゾディアックさん! マジで剣の稽古つけてくださいよ!! 地元の友達が本気でガーディアンになりたがってるんです!」

「あ、ああ……わかった」

「ヴォルクスさん、あとでサインを! 北地区に住んでいる母が大ファンでして」

「か、書いたことない……」

「ゾディアック~! 次は私たちと任務に行こうよ~」

「え、っと……」

「おい待てよ。こっちが先約だ!」

「あ、あの……喧嘩はしないで」

「危険な任務行く時は俺らのパーティも誘ってくれよ、マジで」

「私たちもパーティに入れてください! 戦い方について学びたいんです!!」


 次から次へと、波のように押し寄せてくるガーディアンの群れ。漆黒の騎士は兜の下で涙目になりながら、なんとか対応を続けていた。

 一見クールな騎士に見えるが、ベルクートとラズィには「あわあわしている情けない大男」のように見えていた。


「我らが大将には、もうちょいビシッとして欲しいねぇ」

「本当コミュ障ですよね~あの人」


 ベルクートとラズィは楽し気な笑みを浮かべながら、人並みに埋もれていく騎士を見続けた。


「た、助けて、ロゼ……」


 最強のガーディアン。ランク・タンザナイト。

 そんな異名を持つ暗黒騎士、ゾディアック・ヴォルクスの呟きは、周囲の声に掻き消されていった。




★★★




「空耳でしょうか」


 自宅の庭で洗濯物を干していたローレンタリア・ゼルヴィナス・ミラーカは、青空を見上げて呟いた。


「それにしても、今日はいい天気ですねぇ」


 吸血鬼である彼女は、暖かな太陽の光を浴びながらそう呟き、作業を再開し始めた。




★★★




「あ~あ~、すっかり人気者っすねぇ、ゾディアックは」


 受付嬢のマリー・ルオルは薄ら笑いを浮かべた。


「ついこの間までは全員馬鹿にしていたくせに。結局強いってわかったら媚びるのがガーディアンって奴なんすね。ちょっとガッカリっす。そう思いません、レミィさん」


 マリーは隣の窓口担当のレミィ・カトレットに視線を向けた。

 赤いウルフカットのシャーレロス族の女であるレミィは、猫耳をピコピコと動かしながらゾディアックを見つめていた。

 モデル顔負けのプロポーションに、世界を股にかける女優すら霞むほど綺麗な横顔。その顔が真剣な表情を浮かべている。


「熱視線……これは恋っすかね?」


 マリーはわざと聞こえるくらいのボリュームで口に出した。

 しかし、レミィは反応を示さず、静かに息を吐いた。


「……それしかないか」


 ぼそりと呟くと席を立ちあがった。受付カウンターから出て、真っ直ぐにゾディアックの元に向かう。


 あることを、依頼するために。


お読みいただきありがとうございます!

最終章突入です!


次回もよろしくお願いします。

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