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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
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第156話「High:Voltage」

 ゾディアックの声だ。なんで今、それが聞こえるんだろう。

 意識が朦朧とする中、少年は薄っすらと目を開けた。

 直後、爆音が鳴り響き、少年を避けるように熱線が周囲に四散しているのが見えた。


 徐々に視界がハッキリとする。正面には、この身を守っているかのような漆黒の大剣が突き刺さっていた。

 床に刀身をめり込ませているそれは、熱線を遮断していた。全体が真っ黒である剣は、明らかにゾディアックがいつも装備している大剣だった。


「なんで」


 疑問が思い浮かんでくるが周囲に目を配る余裕はなかった。

 本能で理解した。これが最後のチャンスだと。ここで動かなければ本当に負けると。

 死の呪縛から逃れるように少年は立ち上がると、光線の出力が止まった。視界がクリアになり、風と雨水が少年を出迎える。


 ここしかない。勝てるチャンスは、ここしかない。

 念じながら無意識のうちに走り出し、まだ動く左手を剣に伸ばす。

 柄を握ると剣が至極色に輝いた。持ち主の魔力(ヴェーナ)を吸い取り力を倍増させる剣。以前ゾディアックはそう話していた。

 剣は少年の魔力(ヴェーナ)を吸い取り始めた。

 少年の視界が揺らぐ。急速に魔力(ヴェーナ)が吸い取られ、出血しているのも相まって一気に意識が遠のいた。


 諦めるな。自身を叱咤し、少年は虚ろな眼に青い炎を宿した。燃えるような瞳で未だ笑い続けるセロ"だったもの"を睨みつける。


「こんなところで、死んでたまるかよ!!」


 漆黒の剣がその思いに応えるかの如く、発生させるオーラを増幅させた。

 至極色のオーラは、まるで真夏の青空のような深く濃い紺碧(こんぺき)に姿を変える。

 少年は剣を引き抜く。剣は新たな持ち主を勝たせようと、刀身を雲のような淡い白に染め上げた。


 まるで灰色に染まる世界を照らすような光。あまりにも鮮やかで、神々しく、それでいて剛毅(ごうき)な輝きを放つ剣を見て、セロの顔から笑顔が消えた。


「……マブ、しイ……」


 少年は剣の感触を確かめる。

 不思議と剣の重さは感じなかった。体の一部のように持っていて違和感がない。

 片手で振れる。それを確信すると、少年は最後の力を振り絞り、足に力を込め前に駆け出す。

 全身を青に染めたその姿は眩しく、周囲を明るく照らす。


 セロが叫び声を上げながら剣を振り回す。放出した光線は曲線を描き少年を穿たんとした。

 しかし少年のスピードは光線の速度を遥かに上回っていた。少年が通った後の床に虚しくセロの攻撃が着弾し続ける。


「グ、アアァアアアアアアアアア!!!」


 セロは獣のような雄叫びを上げたながら両手で剣を握りしめ、一歩踏み出すと同時に剣を振り下ろした。

 袈裟斬りの一撃と同時に超巨大な光線が放出される。逃げ場などない超範囲攻撃だ。

 誰も避けられない。おぼろげなセロの意識の中で、その言葉だけが浮かんでいた。


「――おせぇんだよ」


 突如、背後から声が聞こえた。

 首から上を後ろに向けると、そこには亜人の姿があった。

 剣を担ぎ、鮮やかな青い毛並みを揺らす、狐の獣人の姿が。


「ガ、ア」

「……」


 一瞬の睨み合い。両者の怒りが、想いが交わる。

 刹那、落雷の到来を告げるように空が閃いた。


「ガァアアアアアアアア!!!」


 セロが振り返りながら剣を横に振る。光り輝く刀身が亜人を引き裂かんと迫る。

 全身全霊であるその一撃を、少年は左手だけで持つ大剣で防いだ。甲高い音が鳴り響き、青白く染まった剣は、死の光を食い止めた。


 相手が目を丸くするのを見て一歩踏み込む。大剣を前に出し相手の体を押す。セロの上体が崩れ後退り、何かを迎え入れるように両腕を広げた。

 少年は剣を大きく振り被り。


 セロを苦しめている、呪われし武器めがけて振り下ろした。




★★★




「だから言ったじゃないですか! 空飛ぶ魔法使うのなんて久しぶりだって! 上手くいかないですよって!」


 時計塔の1階に入るなりロゼが苦言を呈した。ゾディアックは兜の下で苦い顔をする。


「まさか展望台まで持っていけないなんて……」

「あ? 喧嘩売ってんですか? だいたいゾディアック様がジャンプすればいいんですよ! ジャンプ!」

「無理に決まってるだろ。高さ的に」


 ゾディアックはため息をついた。駆け足で移動するふたりは昇降機の扉にたどり着く。


「ごめん、ロゼ。重かった?」

「いや、別にゾディアック様を持ち上げながら飛ぶことは大変ではなかったですよ。ただ、魔法が上手く使えなくて」

「あの光線のせいか」

「魔法銃でしたっけ。あれが周囲の魔力(ヴェーナ)を乱しているみたいですね」

「展望台から入れなかったが、剣だけは投げ入れることができたのは幸運だったのか」

「投げたせいで、バランス崩して落ちましたけどね」


 ゾディアックはロゼに片腕を持たれ、上空へと運ばれていた光景を思い出し、苦笑いを浮かべた。


 昇降機の到来を告げる音が鳴り響いた。戦闘の影響で破損せず生きていたらしい。乗り込むと昇降機は上に向かった。


「上で戦っている人、見えましたか?」

「あの狐の子だった」

「大丈夫、ですかね」

「わからない。けど、きっと大丈夫」

「そうだといいのですが」

「……あの子なら、あの剣を使いこなせると思うから」


 一抹の不安を感じながらも、ゾディアックは確信した声色でそう告げた。

 音を立てて昇降機が目的の階層に辿り着く。ゾディアックが昇降機から出ると、すぐに少年の姿が見えた。

 左手に青色に輝く大剣を持ち、仰向けになって寝ているセロを見下ろしている。


 どうやら戦闘は終わっているらしい。

 ゾディアックは無言で少年に近づく。


「大丈夫か」


 少年が声に反応し、ゾディアックの方を見る。茫然たる瞳を向けながら口角を上げた。


「勝った」


 大剣を掲げて勝利宣言を行うと、少年は後ろに倒れた。


 雨音と雷が遠ざかっていく。そして少年の奮闘を称えるかのように、暗雲の隙間から、月光が姿を見せ始めた。


お読みいただきありがとうございます!

次回の投稿は12/8、12:30です。


来週で第4章終わりですね。

次回もよろしくお願いします。

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