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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
154/264

第150話「Voltage:94%」

「確保した。ふたりだ。おう。なに? あとの人数?」


 ベルクートはアンバーシェルを耳に当てながら、後ろ手に縛られて座っている男を見た。


「おい、あと何人いるんだ?」


 筋肉質な巨漢に問う。ベルクートが肩を撃ち抜いた相手だ。

 撃ち抜かれた肩はラズィが魔法で治療を施した。そのせいか、さきほどよりも顔色が良くなっている。

 巨漢は鼻で笑うと頭を振った。答える気はないらしい。


「しょうがないですねぇ~」


 とんがり帽子を被り直したラズィが、巨漢の隣に座る金髪に近づく。


「こっちの金髪さんの目玉ひとつ、潰しましょうか」


 正面に立ち、ナイフの切っ先を向ける。金髪から情けない声が上がった。


「おっかねぇ女だな。美人が台無しだぜ」

「ベル。私口説かれちゃいました」

「おお、はいはい。ラズィちゃんは美人だからねぇ、しゃあない、しゃあない」

「ムカつくぅ~。腹いせに、この子の目玉両方とも取っていいですか~?」


 金髪は泣きそうな顔で首をブンブンと横に振る。

 巨漢がため息をついた。

 その時、全員が路地の入口から気配を感じた。ベルクートが視線を向けると、そこには悪魔のような見た目をした鎧姿の男が立っていた。


「よう、大将。こっちは捕まえたぜ」


 片手を上げると、ゾディアックも手を挙げて答える。ゾディアックは縛られているふたりを見下ろした。


「こいつらが全員じゃない。もう何人か仲間がいるらしい」

「どうしますか、ゾディアックさん。脅すか拷問すればすぐに喋りますよ」


 殺しのスペシャリストであるラズィに頼めば、拷問をして答えを聞き出せるだろう。だが、なるべく人間相手に非道な行いはしたくなかった。

 思い悩んでいると、巨漢が困惑した目を向けているのに、ゾディアックは気づく。


「あんたが、ゾディアック・ヴォルクスか」

「……そうだ」

「ランク・タンザナイトね。すげぇ。初めて見るわ。こう見えて俺も元、ガーディアンだからさ、生きる伝説目の当たりにして感動してる」

「……そうか。よかったな」

「はっ。変な奴だな、あんた」


 巨漢が乾いた笑い声をあげる。


「失礼な奴だ。大将は”超”、変なんだぞ」

「ちょっと、ベル」

「そうですよ~。”めっちゃ”、変な人なんですよ~」

「……ねぇ、俺をいじるのやめて」

「大将に対して失礼な事言うなよ」

「そうだそうだ~!」

「……失礼なのベルとラズィ」


 和やかな雰囲気を醸し出すガーディアンに向かって、巨漢は唾を吐いた。ゾディアックの足元に付着したが、3人は見下ろしているだけだった。


「これで勝ったつもりかい? 緑髪が言う通り俺にはまだ仲間がいる。そいつがこの街で大暴れしてくれるだろうさ」

「随分と強気だな、あんた」


 ベルクートが笑い声交じりに言うと、巨漢はゾディアックを見上げた。


「多分あんたの仲間は北地区にいるんだろ」

「……」

「どっちだ? ガーディアンかどうかはおいといて……人間(ヒューダ)か。それとも、亜人かい?」


 後者はわざとらしく強調した言い方だった。ゾディアックは何も答えない。だが、真実を知るには充分な間であった。

 巨漢はクツクツと笑う。


「おめでたいなぁ、あんた。亜人じゃなくて、あんたやそこにいる緑髪のオッサンが北地区にいれば、あいつには負けなかっただろうに」

「どういう意味だ」

「俺たちは魔力(ヴェーナ)が多い種族を肥やしにしているんだ。けどガーディアンなんか狙わねぇし、一般市民だって普通は狙わない。狙うのはじゃあなんだ? そりゃあ亜人だ」


 巨漢が挑発するような笑みを浮かべる。


「獲物を捉えるために、俺らが何も備えていないと思ったか?」


 その瞬間、ラズィはハッとして巨漢の手元を見た。

 いつの間にかアンバーシェルが握られていた。


「チッ」


 舌打ちしてそれをぶんどる。画面は通話中であった。

 

「筒抜けだ。残念だったなぁゾディアック。あんたが送った斥候は……”操り人形”にされるぜ。あいつがあの機械を使えばなぁ」


 巨漢の笑い声が、サフィリア宝城都市の夜空に響いた。




★★★


 


 アンバーシェルを奪われた。しかし重要なことはすべて聞けた。

 宿の入口前に立ったセロは、ドスに人差し指を向ける。


「ドス、魔法銃持ってこい」

「え、ど、どうして」

「完成させる」

「む、無茶だよ。パーツの組み込みは終わっているけど、ちゃんと制御できるかは4人で確認しながら」

「うるせぇよ!!」


 セロは罵声を浴びせた。


「グダグダ言ってんじゃねぇ! 俺が持って来いって言ったら持って来いよ! この世界でも俺に対して意見とか言ってんじゃねぇ! 異世界なんだから俺の都合を優先しろよ!!」

「な……何言ってるの、セロ」

「いいか!! 持ってきたらあの狐女ぶっ殺して魔力(ヴェーナ)吸収して、この街全部破壊して逃げてやる! ゾディアックの首も吹っ飛ばしたら俺らは一躍有名人だ。わかったか? わかったならさっさと銃を持ってこい!!」


 フーフーと荒い呼吸をしているセロは、手の甲で口元を拭う。口の端から零れていた涎を拭き取ると、口元に怪しげな笑みを浮かべた。

 唾を飛ばしながら、激昂する相手に、ドスは恐怖していた。しかし首だけは縦に振られていた。


「わ、わかったよ」


 ドスは短く返事をすると踵を返した。遠ざかっていく背中を見送ると、セロも宿の中に入る。

 宿は5階建ての建物だ。観光客用の宿だが近くには巨大な高級宿……ホテルがいくつも立ち並んでいるため、観光時期でもない今はこの建物にセロたち以外宿泊していない。


 セロの部屋は5階にある。フロントから鍵をふんだくると階段で5階に上り、自室に入る。

 ウノとトレスはもう戻ってこないだろう。

 セロはコートを着てウノが予備として持っていた大型のリボルバーを手に取り、トレスが好んで使っていたサブマシンガンを腰にしまう。UZI(ウージー)のような短機関銃であるためコートが隠してくれるサイズだ。

 そして、コートのポケットに”アレ”があることを確認すると隣の部屋に入った。

 

中には、地面に固定されたベッドの支柱から伸びる鎖に繋がれた、狐の亜人がいた。狐の亜人は窓近くの壁に背をつけて項垂れていた。金色の尾は電気をつけなくとも、窓から差し込む月光によって光り輝いている。

 音に反応した狐顔が頭を上げる。

 何度かストレス解消のために、殴る蹴るの暴行を加えたため、顔の一部に青痣ができており、鼻や口元に血が滲んでいる。


「……どないした?」


 狐顔の女性は口角を上げる。口の隙間から覗く歯から、血が滴り落ちる。


「顔色悪いで?あんた」


 挑発するような言葉と表情だった。

 セロはカッと目を見開き、銃床で狐顔の右目を殴りつけた。短い悲鳴を上げた相手に、再び銃を振り下ろす。

 ともすれば暴発の危険性もあったが、頭に血が上っていたセロは自制ができていない。


「うぜぇんだよ! お前みたいな、人間以下が喋るんじゃねぇ! 調子に乗りやがって!」


 セロの右足が亜人の体に叩き込まれる。月だけがその棒鋼の様子を覗いていた。


「死ね!! 死ね!! 死んじまえ!! お前みたいな、クズ――」


 生まれてこなければよかった。

 かつて自分が言われて、一番傷ついた言葉を投げようとした。


「おい」


 突然、声が聞こえた。

 セロは踏むのをやめ、正面に目を向ける。

 月光が黒い影に遮られていた。カーテンではない、小さな人影が窓の外にいる。


「なに――」


 それを認識した次の瞬間、窓ガラスが割れた。人影はセロに向かって突進する。突然の出来事に反応が遅れたセロは、避けもせず受けもせず、突進をまともに受けてしまう。


「がっ!!?」


 腹部に衝撃が走った。セロは短い叫び声を上げながら後ろに吹っ飛ぶ。

 次いで狐顔の少年が部屋に入ってきた。その表情は怒りに染まっている。


「俺の家族に何しやがる。このクズ野郎」


 ガラスの破片を踏みつけ、セロを見下ろしながら、少年は歯を剥き出しにした。



お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします~。

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