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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
152/264

第148話「Voltage:91%」

 いよいよ明日が完成の日となった。魔力(ヴェーナ)を食い物にして魔法を放つ銃。言うなればこの世界に生きる者たち全員が弾薬になるという兵器だ。

 ベッドの上で仰向けになっていたセロの口元は緩んでいた。


「ご機嫌じゃねぇか」


 セロは上体を起こすと、椅子に座っていたウノとトレスを見比べた。トレスの方はやつれた顔をしている。


「そりゃ機嫌もよくなるか。いよいよ新兵器の完成だしな。ここの街にいる亜人共消し飛ばして金儲けに走ろうじゃねぇか。な、トレス」

「う、うん……そうだね」


 トレスは愛想笑いを浮かべて、申し訳なさそうな視線をウノに向けた。


「お前まだ気にしてんのか? もう失敗したことは忘れろって。クヨクヨすんな」

「けどさ」

「けどじゃねぇよ。それより今後のこと考えようぜ。銃をテストして量産も上手くいったらラビット・パイのボス、ラルに売りつける。あいつは俺らの作る物が金になると思って手を貸してくれたからな。あとは全国に散らばる団員が銃を売ってくれればこっちは丸儲けって戦法だ。これでまた高い酒が飲めるぜ?」


 トレスの表情が少しだけ明るくなった。


「高い店で飲み食いできるな。トレスの行きたがっていたギルバニアにも行けるようになるだろ」


 後を追うようにセロが口を開いた。


「……そうだね」


 歯切れの悪い返事が返ってきた。セロは舌打ちした。ウノの時と全然反応が違う。相手に応じて対応を変えるなんて、失礼な奴だ。

 何かもう一言言ってやろうかと思った時だった。


「み、みんな!!」


 勢いよく扉が開き、続いてドスがめったに出さない大声とともに姿を見せた。額に玉のような汗を浮かべていることから相当慌てていることが見て取れる。


「なんだよ、ドス。ちょっと静かにしろ。この宿意外と壁薄いんだ」

「ご、ごめん」

「で。どうしたんだ」

「え、ええっと」


 しどろもどろになりながらドスは視線を動かしている。


「うざってぇな。さっさと話せよ!」


 トレスのこともあり、セロは苛立ちを隠さず怒りの声をドスに投げた。相手は短い悲鳴を上げて顔を下に向ける。いつもオドオドしている奴だ。元の世界にいた俺以下だ。俺にだって虐められそうなヒョロい男だ。セロはそう思いながら歯軋りした。


「まぁ落ち着けって」


 ウノがセロを見る。


「色々と不備があってイラつくのはわかるけどよ。そんな辛く当たるなって。何があったんだ、ドス」

「え、えっとね……さっきラルムバートさんから連絡が来たんだ。北地区で騒ぎがあったらしくて」

「騒ぎ?」


 ドスは一度生唾を飲み込んだ。


「亜人が攻めて来たらしいんだ。それをガーディアンが食い止めてるって……」


 全員の視線が交わる。最初に動いたのはセロだった。ベッドから跳ね起き、クローゼットに一直線に向かう。扉を開けると黒のトレンチコートを羽織った。


「ちょうどイライラしてたんだ。憂さ晴らししてラルムバートに恩を売っておこう」

 

 セロの手がコートの内側にあるホルスターに伸ばされる。そこから護身用のハンドガンを抜き取ると、マガジンを抜いて弾数を確かめた。


「銃があればガーディアンにも亜人にも負けねぇ。そうだろ?」


 セロは仲間を見た。反応が返ってきたのは、ウノだけであった。




★★★




「そうか、わかった。外壁を超えて制圧することを許可する。だが内側の警備も怠るな」


 冷静な口調で言い終えるとアンバーシェルをギルバニア産の高級デスクに投げるように置く。傷一つない黒い表面を見つめながら、腕にかけていたチェスターコートを羽織る。


「ウィノー。頼みたいことがある」

「はい、何なりとお申し付けください」


 後ろに手を組んだ老紳士が主の背中を見つめる。


「娘と亜人……いや、友人をこの家から出すな。部屋に踏み込んでもいい」

「よろしいのですか」

「これは明らかな陽動だ。恐らくガーディアン側にはゾディアックがいる。大方騒ぎに乗じてあのアウトローたちを捕える気だ。そうはさせない。あいつらはこちらで”確保”しておく」


 エイデンは下唇をなめてウィノーに視線を向けた。


「アウトローたちに部屋から出ないよう伝えておけ」


 ウィノーは返事をする前にアンバーシェルを操作し、嘆息した。


「宿の者が言うには、今出たばかりだと」

「まったく。アウトローというのは腹が立つものだな」


 軽く笑いながら言うと、エイデンはクローゼット近くにある帽子掛けから黒いハットを手に取った。


「エミーリォ……何を考えている」




★★★




 北地区外壁近く、西地区寄りの広場にて、さまざまな種族の罵声が響き渡っていた。

 ゾディアックは目の前で横に広がってる亜人の集団を見つめる。全部で100人近くがひしめき合っていた。

 その中央には、巨大なオーグ族のブランドンが腕を組み、集団から一歩前に出て仁王立ちしている。


「んだコラァ!! やんのかクソガーディアン!!」

「石ぶつけて目玉潰すぞ!!」

「私のお店で料金踏み倒しなんかやがって!!! 金の代わりに命おいていけ!!」


 ブランドンの後方から亜人たちの罵声が上がり、夜空に木霊する。


「口開くんじゃねぇよクソ犬ども!!」

「生ゴミ漁ってろやカス!! 目の前で捨ててやっからよぉ!!」

「魔法で火達磨にしたら高くお肉が売れるか試してあげましょうか!!?」


 ゾディアックの一歩後ろで横に広がっていたガーディアンの集団から、負けじと声が上がった。ゾディアックも同様に集団の中央に立ち、ブランドンと睨み合いをする。

 ガーディアンの数は50人近くいる。倍近い数の差があるため、一見亜人側のほうが有利に見える。


 ゾディアックは視線を横に向ける。通りの奥から大量の人影が見えた。鎧を着込んでいる。どうやら兵士が来たらしく、北地区が慌ただしくなっていることを理解した。

 右手を上げる。ガーディアン側が一瞬で静まり返る。


「しゃらくせぇ! 全員武器を取れ!!」


 ブランドンの隣に立っていたルーが巨大な剣を掲げ、集団に呼びかけを行った。

 呼応するように亜人たちが、持ってきた武器を天に掲げ声を張り上げる。


「上等だ!!」


 ゾディアックの隣に立っていたベルクートが銃を抜いて夜空に発砲する。弾かれたようにガーディアンたちが武器を抜き、魔法が使えるものは手に火の玉や雷の球体を作り出した。


「ぶっ殺してやる!!」

「こっちのセリフだ!」

「おい、この武器どうやって使うんだよ!」

「これ石投げていいんだっけ? ダメ?」

「彼女募集中です! 猫耳好きです!!」

「お前どさくさに紛れて何言ってんだよ!!」

「亜人街でお店開いてまーす! 朝まで営業してますので、お気軽に~!」 

「え、店の宣伝していいんですか?」


 何人かはもはや罵声でもなくなっていた。武器だけでなく店から持ってきた宣伝用のプラカードを掲げている亜人を見てクロエは額に手を当てて項垂れると頭を振った。


「お前たち何をしている!! ここをどこだと思っているんだ!!」


 兵士の声が聞こえた。全体の視線が兵士たちに向けられる。

 同時にガーディアン側の一部が動きだし、先頭に立っていたラズィが両手を広げる。


「まぁまぁ、お待ちください兵士様方」

「何だお前は」

「しがない魔術師(マジシャン)です~。あの亜人たちは私たちガーディアンが責任を持って追い返しますので~」

「ふざけた喋り方でふざけた事をぬかすな!! 北地区付近の揉め事は全て我々が処理する!!」


 兵士の言葉が終わると同時だった。外壁の内側から、低いサイレンのような音が鳴り響いた。北地区全体に響き渡る警報音だ。


「さきほどこちらの方で避難警報を発令した。あの大量の亜人たちは脅威だ!! だいたいなんだ! あんなオーグ族、見たこともないぞ!!」


 一目見ただけで強者だと察知できるブランドンをみたせいか、兵士の隊長と思しき人物は警報を出すよう、あらかじめ指示したらしい。その行動だけで優秀だと理解できる。

 今回はその優秀さが有難かった。

 ブランドンが手を挙げると兵士たちが身構えた。


「全員退くぞ!! 亜人街まで走れ!!」


 大地を揺るがすような、方向に似たブランドンの声が全員の耳を劈いた。

 次の瞬間、亜人たちは雲の子を散らすように悲鳴を上げて逃げ始めた。何人かは笑っていたが見分けはつかないだろう。


「く、くそぉ。逃がすな。全員まもっ……違う。えっと」

「大将指示おせぇよ!!! しかも大根だし!!」

「ご、ごめん! 亜人を逃がすな!! 兵士さんたちを困らせないよう、”俺たち”で捕えるんだ!!」


 ワンテンポ遅れてガーディアンたちが声を張り上げ駆け出した。


「お、おい、待て……」

「まぁまぁ、ここはガーディアンが抑えるので~」


 ラズィ含む一部のガーディアンが兵士を抑えている。

 この間に亜人たちは、ガーディアンの保護を受けながら街に帰れるだろう。


 あとは、北地区内にいる3人だ。


 ゾディアックは亜人を追いかけるフリをしながら外壁に目を向けた。




★★★




 窓の外から警報音が鳴り響いた。

 合図だ。


「行くわよ」


 ベッドに座っていたカルミンがふたりに指示を出す。


「ふぉ、ふぉう!!」

「ふぁ、ふぁっへ。まふぁほひほへへはひ……」


 口に菓子を詰め込んでいたビオレと少年は慌てて立ち上がった。少年は雑に服を払い、食べかすを床に散らかす。


「本当に大丈夫かしら……」


 カルミンはため息をついてしまった。



お読みいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いします~!

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