表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
142/264

第138話「Voltage:70%」

 裕福層が多く住む、北地区の宿泊施設は本当に最高の居心地だ。南地区の安宿とは違う。

 元の世界にいた頃は、家族と一緒に、安っぽいピジネスホテルにしか泊まったことがなかったから、こういうのは新鮮だな。

 磨かれた家具にふかふかのベッド。隣で専用のメイドまで待機している。ルームサービスの応答は素早いし、料理も美味いし各サービスも文句の付け所がない。

 ベッドに寝転がって天井を見てみる。シミひとつ見当たらない。


 金だ。やっぱりどの世界に行っても、金がすべてなんだ。金がなければ、こんないい思いをすることはできない。

 人の気持ちや気遣いなんて何の意味もない。弱い奴らを淘汰して、金を稼げる世界。最高

だ。


 だからこそ、ムカつく。弱き者を助けて自己満足する連中が。

 ゾディアックだったか。スマートフォン……違う。この世界用のスマホである、アンバーシェルで評判と姿形は見たことがある。まるで悪魔みたいな鎧を着ていた。ゲームのキャラ顔負けの巨大な剣を背負った、大男。


 偽善者野郎め。

 こいつのせいで上手く行かないことが多くなっていた。特に、相手に銃を向けるのはもう賭けだった。けど、あの時は一時的に上手くいっただけかもしれない。


 くそ。不安になってんじゃねぇよ、クソ。

 枕を握りしめて、不安を押し殺す。

 ふと、最強のガーディアンの性格が気になった。実際に会ってみたら、どんな話し方をするのだろう。評判からすれば、優しいが無口なタイプらしい。

 やっぱり、周りに仲間とか友達が、いっぱいいるんだろうな。


『なんでこんなに呼んだんだよ。仲のいい連中だけでパーティしようって言っただろ』


 突如、声が脳味噌を駆けた。


『あれ? だってこいつ、カレンの彼氏だろ?』

『ちょっとやめてよ! ”コレ“と付き合うなんてことになったら私どうすればいいの? 死ぬしかないじゃん!』

『あははは! ひっでぇ! お前最低の女だわ』

『私、こんなのと付き合うほど頭軽くないから!』


 クソ!!

 うつ伏せになって、怒りのまま枕を叩いた。こうゃってひとりの時間が多くなると、昔の嫌な思い出が蘇ってきてしまう。もう一度枕を叩いて気持ちを落ち着かせる。


 大丈大だ。もうここには俺を傷つける連中はいない。

 ここは異世界だ。異世界は、俺みたいな弱い者にも優しい。俺みたいな奴こそ輝ける。そういう世界のはずだ。

 その時だった。扉が開く音が聞こえた。


「誰だ」


 起き上がって視線を向けると、青い顔をしたドスが立っていた。相変わらずインキ臭いメガネ野郎だ。


「どうした?」


 ドスは冷や汗を流しながら唇を震わせた。


「ト、トレスが帰ってきてないんだ」

「なに?」


 アンバーシェルを見てみる。画面上には新しいメッセージが来ていない。

 舌打ちし、シノミリアを開き、トレスに直接メッセージを送る。


「確かなんだろうな」


 画面を見ながら聞くと、ドスが小さな声で肯定した。


「もっとよく探したか? どうせそこらへんの」

「周囲にはいなかったぜ」


 言葉を遮って、ウノが部屋の中に入ってきた。走ってきたのかジャケットを腰に巻いて、息を切らしている。


「あの野郎、どっかで飲んでんのか?」

「いいや、あいつは飲みに行く時、俺かお前を良く誘うだろ」

「……ドス、何か聞いてないか?」

「そ、その、結構悩んでた」

「悩み? あの能天気が?」


 吐き捨てるように言った。ドスは真面目な表情で頷いた。


「気にしているみたいだった。みんなの役に立っていないこと」


 少しだけ沈黙が流れ。


「馬鹿じゃねぇのか」


 そう言うしかなかった。まさか、ラルムバート家でかけた言葉のせいか。あれでショックを受けているなんて。あんなのただの冗談だろうが。


「それか、誘拐されたか?k


 ウノの顔を慌てて見る。冗談を言っているわけではないらしい。


「ゆ、誘拐ってなんで」

「そりゃあ普通は亜人がどうなろうが、大半は知ったこっちゃねえよな。けど、亜人を大切に思っているガーディアン、ゾディアックが動いたとしたら? 街を歩いているだけで奴の評判は聞こえてくる。困った奴は放っておけないタイプの人間で、亜人の頼みでドラゴン討伐までやっちまう男だ。絵に描いたような正義漢(せいぎかん)だな」


 軽く笑って、壁に寄りかかると、ドスと俺を睨むように見つめた。


「そんでもってただ優しいだけじゃない。やる時はやる、ってやつだ。この街の住民すべてを大切に思っているガーディアンだとしたら……手荒な真似だって厭わない可能性が高い」

「で、でも何でトレスを誘拐する必要が」

「どっかから洩れたのかもな。俺らが亜人を集めてあの民器を作っているっていう情報が」


 馬鹿な。どっから洩れると言うのだ。だいたい、亜人を集めていることがバレたとしても、兵器のことまでバレるわけがない。

 いや、本当にそうだろうか。そうだ、俺はこの街で兵器について喋ったことがある。


 ラルだ。ラビット・パイのボス。あいつが情報を流した。そうとしか考えられない。


 いい加減そうな見た目通り、ゾディアックから金を貰ってベラベラ喋ったのだろう。こっちだって色々と金を落としてきたのに。恩を仇で返された気分だ。


「つうかよ、ドス。俺だけじゃなくて、何でこいつに連絡入れなかったんだよ」

「そ、それは、その……」


 ドスがしどろもどろになって俺を見た。知ってるよ。お前は俺が苦手なんだろ。


「そんなことはどうでもいい。さっさとトレスを取り戻すぞ」

「ど、どうやって?」


 ドスが怯えた目を向けた。


「決まってんだろ。探し出して場合によっては力尽くだ」

「ゾディアックが相手だとしても? それは、駄目だよ。ゾディアックが来たら勝てない」

「んだよ!! ビビってんじゃねぇって!!」


 大声を出してしまった。ドスが肩を上げて、視線を逸らした。

 クソ、怯えてんじゃねぇよ、ふざけんじゃねぇよ。異世界から来た俺なら、ゾディアック

だって倒せるはずだ。


 そうだ、むしろ俺の強さを証明するために、ゾディアックはいるんだ。

 言うなれば舞台装置だ。

 強い強いって言われている相手を倒して俺が認められる。そんで可愛い女の子たちと出会っていく。この世界での、お約束の展開だ。


「大丈夫だ、ウノ、ドス。俺らには、“アレ”もあるだろ」

「秘密兵器か。また使うのか?」

「ああ。今回は集めるためじゃないけど」


 立ち上がって、クローゼットに向かい、中を漁る。目的の物はすぐに見つかった。

 短銃。だが、空き缶を銃口に括りつけたような歪なデザイン。肥大化したバレル部分はサプレッサーの役割を担うのではない。


 これは、スピーカーなのだ。


「特殊な怪音波を発生させ、亜人たちを意のままに操る。これを使ってトレスの痕跡を探す。邪魔する奴がいたらちょっと手荒な真似をしても構わない」

「ぞ、ゾディアックがいたら?」

「あぁ!? じゃあ殺せばいいだろうが!!」


 俺は銃を力強く握り絞めながら、テーブルを蹴り飛ばした。やかましいんだよさっきから、ゾディアックゾディアックって。


 何がいようが構わない。この世界は、そう、俺を目立たせる舞台なんだ。今いる仲間もだ。

 俺は笑った。何が来ようと俺が勝つに決まってる。さっさと可愛い子といちゃつきたい。何も心配することはない。


 俺は、異世界人(ビヨンド)なのだから。


お読みいただきありがとうございます!


次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ