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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
139/264

第135話「Voltage:66%」

 特徴的な青い短髪に眼鏡の男性。槍術士(ランサー)兼情報屋として働くロバートだ。

 彼は以前、ビオレに対して非情な態度を取っていたウェイグの仲間でもある。そのせいか、ビオレは警戒心を強めた。

 敵意の溢れるビオレの目に、ロバートは鼻で笑って肩をすくめる。


「酷いな。以前も会って、情報を提供したでしょう?」


 ベルクートを見ながら、ウェイグは言った。

 ベルクートの一件でも、彼はゾディアックとビオレの前に姿を見せ情報を提供していた。


「大将、こいつって」

「⋯⋯ああ。ウェイグの仲間だったロバートだ。今は、敵じゃないと思う」

「その節はどうも。しかし酷いですね。敵だなんて。同業者同士仲良くしましょうよ」


 ロバートは口元に笑みを浮かべた。


「ただ、私の情報は役に立たなかったようですね、ゾディアックさん」

「いいや。役に立ったよ」

「お、なんだよ。俺の情報か? 男に熱心に調べられても嬉しくねぇわ」


 虫を払うような手の動作でロバートを追い払おうとする。だが、相手は気にせず視線をラズィに向けた。


魔術師(マジシャン)の格好は、あなたにとって窮屈ではありませんか?」

「……何が言いたのでしょうか~?」

「いえいえ。"ナイフ使い”の知り合いが、あなたによく似ておりまして」


 ラズィの表情が一瞬無になる


「そうですか~」


 笑みを浮かべて、ラズィは言った。ゾディアックは眉間に皺を寄せた。相手はラズィの正体に気づいているかどうか定かではないが、少なくとも当てずっぽうにものを言ってないのは確かだった。


「私の情報収集能力を甘く見ないでいただきたいですね。ゾディアックさん」


 まるで心情を読んだかのようにロバートは言った。


「それで、なんの用だ」


 話を逸らすと「まぁいいでしょう」と言って、ロバートは自分の胸元に手を置き軽き頭を下げた。


「是非とも私の情報を買っていただきたく。ゾディアックさんのパーティも、それなりに情報を集めていらっしゃるようですが、決め手に欠けている模様。私のと合わせれば、いい案が生まれるかもしれませんよ?」

「……いくらだ?」


 問いかけに対し、ロバートは苦笑いし、頭を振った。


「まさか。お金なんて取りませんよ。亜人だけでなく多くのガーディアンも失踪している由々しき事態ですからね。国で一番強い、ゾディアックさんのお力になりたい。それだけです」

「殊勝な心掛けだな。見直したぜ。とてもじゃないが手柄横取りしようとしていた奴とは思えねぇ」


 ベルクートが挑発するような口ぶりで言った。ビオレの脳裏にラミエルの姿が浮かぶ。


「それについては返す言葉もございません。黙して受けるのみです」


 薄く笑いながらロバートは肩をすくめた。

 ベルクートは怪訝そうな目を向ける。

 

「そういや、あの嬢ちゃんはどうした? ほら、ウェイグと一緒にいた」

「……彼女も失踪しているのです」

「なに?」


 ゾディアックから疑問の声が上がる。彼女は魔術師(マジシャン)だったはずだ。


「あれでも優秀な子でしてね。私たちのパーティ内では回復も兼ねていたのですよ。ゾディアックさんと一緒にいた時は、あまりにも敵のレベルが高すぎて、実力を見せることは叶いませんでしたが」


 疑問に答えるように説明すると喉を鳴らし、真剣な眼差してゾディアックたちを見る。


「情報を提供するのはそれだけが理由ではなく、今回の相手……ブラック・スミスから来た者たちが、私程度のガーディアンでは太刀打ちできないことが判明しまして。だからこそ、ゾディアックさん達にお願いしたい」

「そんなに強いのですか〜? あなたは登録上、ランク・サファイアですよね~?」

「はい。ですが、恐らくランク・ルビーでも返り討ちに遭うのが関の山かと」

「なぜでしょうか~?」

「銃を装備しております。それも改造銃です」


 ロバートと少年を除く全員の視線が、ベルクートに向けられる。


「お、俺じゃねぇぞ? 今回は。だいたい店だって開いてねぇんだから」


 慌ててベルクートは言った。


「とりあえず、その改造銃がやばいのか?」

「はい。威力と効果が、非常に脅威的かと」

「どういうことだ」

「まず単純に、威力が高いのです。生半可な防具や防御魔法は打ち砕かれると考えていただければ」

「なるほど〜。低ランクのガーディアンは仕留められやすいと」

「お前は、それを実際に見たのか?」

「人伝がほとんどですが、一度だけ見ました。言葉に偽りはありません」

「避けることができればいけるか?」

「避けることさえできれば。ですが避けられないかと」


 ゾディアックの言葉に対し、ロバートは首を横に振った。


「相手が使っているのは弾丸を連射する銃です。弓の連射速度と比べたらその差は天地ほどあります」

「軽機関銃か突撃銃だな」

「あとは、遠い距離から撃たれる、とか。たしか名前は、狙撃銃でしたか」

「種類にもよるが、射程距離は600から2000メートル近くだと思ってくれて構わない」


 ベルクートが補足説明する。

 ゾディアックは顎に手を当てた。2000メートル先から撃たれたなんて経験は今までないが、殺気を感じ取れば回避は可能だ。

 だがそれは、あくまでゾディアックの話である。


「言っておくが、俺は2000メートル近く離れた奴の気配を探知なんてできねぇぞ」

「私もですね~」

「……近づく必要性すらない驚異的な武器を扱う相手か」

「そんな相手ですが」


 ロバートが手を挙げる。まだ話は終わっていないらしい。


「炙り出す方法はあります。まず、相手は”仕事"と称してこの国に来ております」

「仕事? 獣人の確保か?」

「いえ。それはあくまで過程、ですね。目的は"ある兵器を完成させること"。名称や形はわかりませんが、”魔力(ヴェーナ)を食らうことで成長する"という特徴を持っているらしいです」

「成長だぁ?」


 頬杖をついていたベルクートが顔を引き攣らせた。


「兵器が成長ってなんだよ。鉄の塊だぞ」

魔力(ヴェーナ)を食らえば……そうか、だから獣人や回復職が狙われていたのか」


 合点が行ったゾディアックは再び思案する。兵器というだけあり、穏やかなものではないだろう。

 もしそれが完成したら、相手はそれをどうする。試し撃ちをこのサフィリア宝城都市で行う可能性もゼロではない。まずは小国で威力を試そうという腹積もりだろうか。

 いや、そんなことをすれば、上納金を受け取っているギルバニア王国が出てくる。わざわざそんな危険を侵すだろうか。いくらブラック・スミスが好戦的な国だとしても、そんな方法を取るだろうか。下手したら国際問題になる。


「しかし今の話から炙り出す方法は見つかるかと」


 ロバートは他人事のように言うと、ビオレと少年を一瞥した。


「では、私はこれにて」

「待てよ、ロバートって言ったか。いつから知ってた? 何でお前はそこまで情報を知ってやがる」


 ベルクートの質問に対し、相手はため息を吐いた。


「私も、昨日聞かされたばかりでしてね。にわかに信じられません。それと、情報源を喋ることは流儀に反するので言いません。ご容赦ください」

「信用していいんだろうな」

「それは、そちら次第です」


 ロバートはゾディアックに対し頭を下げる。


「どうか、よろしくお願いいたします」


 深々と頭を下げながら呟いた言集に、嘘は見当たらなかった。




★★★




 ロバートの情報が真実だとして、どのように敵を見つけ出すか。ゾディアックの頭の中には、ある方法が浮かんでいた。だがそれは、あまりにも危険すぎる。


「どうすんだよ、大将。先に言っておくが、考えている方法はやめておいた方がいいと思うぜ」

「私もそう思います」


 ベルクートとラズィも同じ考えだったらしい。当然別の方法を考えようとした。


「私は、いいよ?」


 ずっと黙っていたビオレがポツリと言った。


「何をすればいいのか、わかるから」

「駄目だ。危険すぎる」

「嬢ちゃんやめとけ。それはもう勇気じゃない。つうかな、俺らがやりたくねぇんだよ」

「でも、これはせっかくのチャンスだよ!? だったら」

「そうだな。チャンスだと思う」


 ビオレの言葉を遮って少年が言った。


「馬鹿な俺にだって、あんたらが何を考えているわかる。その方法を取ろうぜ。絶対に相手は出てくる」


 それと、と口に出し、ビオレを見る。


「俺の方が絶対にいい」

「それどういう意味?」

「怒んなって。バカにしているわけじゃないんだ。ただ、絶対に俺の方がいい。この施設にいる全員の中からでも、俺が適任なんだよ」


 少年の視線がゾディアックを見る。


「自分でもわかるんだ。俺の中には、すごい魔力(ヴェーナ)が眠っているって。あんたらと一緒に動いているだけで、それが燃えるんだ。水みたいに、増えて、燃えるんだよ」


 口を閉じるゾディアックに対し、少年は口角を上げた。

 夢にまで、ガーディアンとの行動だ。




「やるよ。囮役。任せてくれよ」




 少年は自信をもって、自分の役割を口に出した。



お読みいただきありがとうございます!


次回もよろしくお願いいたします。

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