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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
136/264

第132話「Voltage:57%」

 噴水広場に行くと、人影はほとんどなかった。

 誰もいない露店が置かれているだけであり、キャラバンの者すら見当たらない。


「不気味ですね~。お化けとか出てきそうです~」


 ラズィが言った。ベルクートが背筋を正して手を差し伸べる。


「怖いですか、お嬢様? では、お手を拝借」

「や~。ベルクートさんがお化けよりこわ~い」

「俺の方が怖いのかよ」


 ガクッと肩を落とす。


「クスクス。大丈夫ですよ~。私は幽霊が出てきても蹴り飛ばす系女子なので~」

「そりゃ心強いね」


 軽口を叩きながらラルがいる建物に近づくと、ひとりの男性が、霧の中から姿を見せた。

 以前会った、ラビット・パイの宣伝屋だった。今日もニコニコとした笑顔を浮かべており、高級な宝石が嵌められた指輪をしている。


「これはこれはベルクートさんに、魔術師(マジシャン)さん。申し訳ございませんが、今日は営業をお休みしておりまして」

「ああいや買い物に来たわけじゃねぇんだ。ボスはいるか?」


 ベルクートが言うと、相手は笑顔のまま、ピクリと片眉を動かした。


「はい?」

「あんたらのボスともう一度話がしたいんだ。通してくれよ」

「……ご用件であれば私が聞きますが」

「あんたじゃダメだ。なんつうかな。あんたの笑顔は信用できねぇし」


 そこまで言うと、相手は溜息を履いて笑顔を消した。


「よろしいでしょうか、ベルクートさん。我が団長はこの世界で3番目に有名な男と言っても過言ではない、偉大なお方です。そんな人と、ただのガーディアンであるあなたが、対等だとでも?」


 男は目を開き、ベルクートを睨んだ。


「あなたが会いたいからと言って会えるほど甘くはない。あんたはラビット・パイを舐めているのか?」

「……お前ら全員ぶっ飛ばせば、出てくんのかい?」

「あのぉ」


 ベルクートの言葉に怒気が混ざったところで、ラズィが間に入った。


「ガーディアンの方が失踪していることは、すでに耳に入っていると思います~。ガーディアンとキャラバンは一蓮托生と言っても過言ではありません~。この状況なので、協力してくれるのが、大型キャラバンの度量というものではないでしょうか~?」


 ラズィがそう言うとベルクートが「そうだそうだ」と援護した。

 男の顔が怒りで歪み、眉間に皺が寄る。


「頼み込んでいるのにその態度はどうなんですかねぇ……」

「いいからさっさと連絡しろよ」


 男が声を上げようとしたその時だった。


 何かに気づいたようにハッとした男は、耳元に手を当て視線を切った。アンバーシェルを持っている時のように、耳元に両手を当てて何度か頷く。

 そして、渋々といった大きく頷くと、ふたりに視線を向けた。


「……一理ある、とのことです。中へどうぞ」

「やっぱトップは話がわかるねぇ」

「……お気をつけください」


 横切ったベルクートに低い言葉を投げた。


「我々団員はすぐ近くにおります。団長の起源が悪ければ、すぐにあなたを排除しますよ」

「ほう。そりゃ怖えな。身だしなみチェックでもするかい? 銃も持ってねぇから財布くらいしかねぇけど」


 ベルクートは両手を広げた。男は頭を振る。


「突然武器を抜く。そこまで愚かでもないでしょう」

「だな」

「デートスポットを間違えましたね。それでは、行ってらっしゃいませ」


 吐き捨てるように言うと、男は頭を下げた。ベルクートとラズィは気にせず建物に入る。


「デートですって~」


 ラズィは口元に笑みを浮かべていた。


「もっとロマンチックなところがよかったか?」

「う~ん、私的には、刺激的なところが好みです」

「……なら、ここは大正解だな。しっかりエスコートするぜ」

「うふふ~。よろしくお願いしますね、おじさま」


 ベルクートは親指を立てて返事をすると、昇降機のボタンを押した。




★★★




 ラビット・パイの団長であるラルは、なぜか上半身裸でベッドの上で仰向けになっていた。

 足を組み、頭の後ろで手を組みながら物思いにふけっている。

 玄関からベルクートとラズィが姿を見せても、一歩も動かなかった。


「おい、あんたがラビット・パイのボスか?」


 ラルは黙ったままだった。ただ、返事をするように足をプラプラさせている。


 ――――若いな。

 室内でラルを見たベルクートはそう思った。自分よりも10くらい年下の相手を見て、ベルクートは警戒心を緩めそうになる。


「でぇ? おっさんとおばさんが、何の用?」


 ラズィが一瞬ムッとした。女性には禁句ともいえる言葉を容易く呟いた命知らずに、ベルクートは話しかける。


「亜人とガーディアンが失踪しているのは知っているよな」

「あぁ~、あれね。知ってるよ。それがぁ?」

「真相を知ろうと街中を走っているのよ、おじさんは。ただあまりにも情報がないから」

「優秀な俺ちゃんから情報を取ろうって話だ~」


 あっはっは~、と笑いながらラルは体を起こした。

 薄暗い部屋だったためさきほどは見えなかったが、ラルの上半身にはびっしりとタトゥーが入っていた。

 トライバルタトゥー。民族性や武器、思想がそのタトゥーには込められている。


 ラルのタトゥーは下地は黒だが、かすかに青白く発光していた。それが魔法陣を誤魔化すタトゥーであることを、ふたりはすぐに見抜いた。


「なーるほど。苦労人の顔してるわぁ」

「あぁ?」

「実力もあるし度胸もあるけど、なんか幸薄そう。栄光を忘れた中年って感じ? あ、でもおばさんは死線を潜り抜けてきた……ん? なんだろう。なんかナイフみてぇな~……鋭い空気がするねぇ」


 ラズィは感心するように息を吐いた。人の本質を見抜く力があるらしい。

 ラズィの師匠であるトムが苦手としていた人種だ。こういう人間の前では嘘をついてもすぐばれる。


「ふたりはゾディアックちゃんのお友達だっけ?」

「友達でもあるし、パーティメンバーだな」

「ふぅん」


 ラルは立ち上がってベッドから離れると、ベルに詰め寄る。若干ベルクートよりも身長が高かったため、ふたりは少しだけ上を見る形になる。


「亜人は正直クソほどどうでもいいんだけどぉ、ガーディアンさんが困っているのは、キャラバンとしても困る。うん、それは確かなんだ~」

「なんでもいい。失踪に関する情報が欲しいんだ」

「んふふぅ……なんにもないと言えば嘘になる。俺ねぇ? 嘘をつくのも嘘つきも嫌いなんだ。だから正直に喋っちゃうことが多いの。けどねぇ」


 ポケットに手を伸ばし、棒つき飴を取り出すと、ラルはベルクートの目の前で包装を解き始めた。


「こっちも商売人。あんたも一応は商売人。なにも無しで、俺だけ一方的に商品を出すのはなんか腑に落ちない」

「どういうこった?」

「等価交換。俺は今から”大切なお客様情報”をあんたに横流ししようと考えている」


 ベルクートが耳を疑った。どうやら失踪事件の主犯格とこいつは内密な関係にあるらしい。


「いいのかい? 横流しして」

「いいともぉ。交換条件が飲めるならね」

「……悪いが、指落とせとか耳落とせとかはできねぇぜ?」

「なにそれ~? 田舎の交渉方法?」


 ラルはカラカラと笑った。


「そうじゃなくてぇ、俺が欲しいのはぁ……あんたの営業権利」

「あ?」

「銃を売れねぇようにするってこと。理由はわかるだろう? アウトローが好むような危険な武器をだ、往来で売られるとぉ……サフィリア宝城都市を拠点にしているうちの看板に泥を塗られている気分になるんだよ。それと単純に危険だ。だから、情報を渡す代わりにあんたは一生銃を売れないようにするって話」


 自分の商品が売れなくなる。それは商売人としては致命的な一打である。

 だが、ベルクートは口角を上げた。


「いいぜ。くれてやるよ」

「ベルクート」


 ラズィが口を挟もうとし、ベルクートは手で制した。

 素早い回答にラルは、ほうと息をつく。


「随分と簡単に手放すんだね?」

「反論しようにもあんたが正論過ぎてな。何もいい返せなくなった。そろそろ潮時かなぁとも思っていたから、手放すのも惜しくねぇ」


 強がりではない。ラルはそれを見抜いた。そしてベルクートの言葉が”半分ハッタリ”であることも。


「俺の店一個潰すだけで事件解決できるなら、それほど楽なこともねぇ。必要な書類は?」

「こっちで用意するけど」

「わかった。ならさっさとやろうや。その代わり、教えろよ。”お客様”のことを」


 挑発的なベルクートの言動に、ラルは笑って応えた。


「いいよ。教えてあげる。特別に書類を書く前にひとつだけ」

「なんだよ」




「”お客様は、あんたらが考えているより、超危険な奴らだよ”」




 ラルはそう告げると背を向け、テーブルの上に置いてあった、トール・アンバーシェルの画面を叩いた。



お読みいただきありがとうございます!


次回もよろしくお願いいたします。

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