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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
133/264

第129話「Voltage:53%」

 朝になったが、夜のような暗さだった。外に出るとそれを顕著に、ゾディアックは感じた。雨雲と濃い霧のせいで視界が悪い。


「街中に馬車は走っていない。それに露店の数もまばらだと。マーケット・ストリートがすげぇ静からしいぜ。あとで見に行くわ」


 アンバーシェルを見ながらベルが薄ら笑いを浮かべて言った。この霧では乗り物の操縦も商売もできないだろう。必然的に、人の数も減るというものだ。

 家の前で、ゾディアックたちは二手に分かれた。


「とりあえず私とベルクートが、ラルの所へ行くということで~」

「そっちはお守り頑張れよ、ゾディアック」

「ああ」


 ベルクートとラズィは南地区へ行き、ラルから話を聞く役割だ。

 ゾディアック、ビオレ、そして少年は、亜人街へ行き、ブランドンと出会う予定である。

 ゾディアックとラズィの方がいいのではないかと、昨日ベルクートは言ったが、ゾディアックは否定した。今の亜人街は殺気立っているらしく、荒くれ者も多く出現するだろう。


 もしかしたら、あのブランドンというオーグ族とも、刃を交えることになるかもしれない。ベルクートの強さは理解しているが、ブランドンは格が違うとゾディアックは判断し、組み合わせを決定した。


 奴と戦えるのは自分だけ。なぜか、そう思っていた。


「確認だが、嬢ちゃんたちはそっちでいいのか?」

「こっちで大丈夫だよ。俺も、こいつも、亜人だから。手荒なことはされないと思う」

「こいつって言わないでよ。私はビオレっていう」

「聞いてねぇよ」

「はぁ!?」


 ビオレと少年が睨み合う。どうやらふたりは馬が合わないらしい。


「まぁそうだよな。亜人を差別する危ない男が率いるキャラバンより、重人街の方が数倍マシだ」


 ベルクートは頷きながら言った。


「ロゼ」

「はい?」


 ゾディアックは玄関に来ていた口ゼに近づき、前屈みになって耳打ちする。

 ロゼは背伸びし、耳を兜に近づける。小声と兜のせいで聞き取り辛かったが、ロゼは指示を理解すると頷いた。


「かしこまりました」

「ごめん、大変かもしれないけど」

「いえいえ。謝るくらいなら「頼む」って一言ビシッと言ってください」


 ニコニコとした笑顔を浮かべるロゼを抱きしめたくなった。だが仲間もいる手前、そんなことはできない。


「頼んだ」


 そう言うと、ロゼは返事を返した。




★★★




 亜人街のアーチが霧の隙間から見えた。それと同時に、大量の人影も見える。

 首から上が長い。シルエットが明らかに人間ではない。

 ぐねったような体をしている、蛇が二足歩行しているような見た目の亜人。


「ナロス・グノア族だ」


 少年が言って、ゾディアックの手を掴んだ。


「止まってくれ。まず俺が行くよ」

「どうしてだ?」

「ナロス・グノア族があれだけいるってことは、”ナンバーズ”のルーがいる」

「ナンバーズ?」


 聞いたことのない言葉だった。少年は頭を振った。


「あとで説明するよ。とりあえずやばいんだ。ルーは血の気の多い連中を手下にしている、亜人街の荒くれ者代表なんだよ。街から亜人が消えているって聞いて興奮していると思うし、ゾディアックが行ったら多分黙ってない。だからまず俺が話を……」

「誰と誰が話すって?」


 前方から声が聞こえた。しゃがれた低い声だった。

 少年が舌打ちし、ビオレは弓に手をかけかける。


 霧の中から、長身のナロス・グノア族が姿を見せた。漆を塗ったような黒い蛇皮は、この薄暗い空気の中でも光沢を放つほど磨かれている。

 体もがっちりしており、戦闘用の筋肉を身につけていることがわかる。

 何よりも魔力(ヴェーナ)量が多い。ゾディアックが目を凝らすまでもなく、相手からは魔力(ヴェーナ)が漏れ出していた。


「……こいつが、ルーか?」


 少年に問うとコクリと頷いた。どうやら目の前にいる蛇頭が"ナンバーズ”らしい。

 ルーという亜人は舌打ちした。蛇特有の長い舌と特徴的な口のせいで唾を吐いたような音が鳴る。


「クソガキ。連中は見つけたのか?」

「わからない。痕跡もなかった。そっちはどうなんだよ」

「てめぇ、俺にタメ口叩いてんじゃねぇぞ」


 少年の言葉を遮ると、ルーは目元を鋭くした。


「お前みたいなカスが俺に生意気な口利くたぁ、偉くなったもんだな。ええ?」


 少年は口をきつく結ぶ。恐れていたのではなく、苛立ちを抑えるように唇を噛んだ。

 ルーの視線はゾディアックに向けられる。


「こんなもんまで連れてきやがって。おまけに、なんだ? グレイスじゃねぇか」


 弓を持っていたビオレを見て、ルーは良い舌を出した。


「ガーディアンか。獣人の誇りを失って人間の駒になれ下がったカスが」

「なっ……」

「おい、黒いデカブツ。お前の趣味か? 慰み者にしちゃちょっと小っちゃいんじゃねぇのか? それともお前の”アレ”も小っちゃいのか」


 下品な長髪の直後、周囲からかすかに笑い声が聞こえた。囲まれていることにゾディアックとビオレは気づく。

 ルーは呆れたような冷ややかな視線をふたりに向けた。


「何の用で来やがった。遊びたいなら別の街に行きな」

「……遊びに来た、わけじゃない」

「あぁ?」

「ブランドンに会いに来た」


 ゾディアックが言うと、ルーが鼻で笑った。


「ガーディアンの亜人が失踪していることについて聞きたいのか?」

「知って、いるのか?」

「あたりめぇだろ。お前らガーディアンと違って、こっちは薄情じゃねぇんだ」

「……けど、風当たりは強いんだな」


 少年とビオレに視線を向けながら言うと、ルーの瞳に殺意が宿った。

 同時に、ビオレはゾディアックの手が、震えていることに気づいた。初対面の荒々しい相手だからだろう。人見知りも相まって、非常に緊張していることが伝わる。

 それでも気丈に振る舞っていた。少し前までは考えられない変化だった。


「とりあえずヨォ、今日のところは帰ってくれネェか?」


 言葉の一部が上手く発音できていない。少年はルーが怒っていることを察した。

 それに気づかないゾディアックは一度息を吐き出す。


「いや、そうはいかない。こっちは、獣人たちに危害を加える気はない」

「無理やりデモ通り気か?」

「……ああ」

「なるほど? お前、俺たちに危害ヲ加えないッテ言ってたな。ナラ、"こっちに対して暴力は振るわない"ってことだな?」

「……ああ」


 ゾディアックが返事をすると、ルーの口角が大きく吊り上がった。


「お前ら聞いタな! このガーディアンは、コッチに暴力は振るワない! "何をされても”ダ!!」


 声高らかに宣言する。ビオレと少年が驚きの声を上げるが、ゾディアックは微動だにしなかった。


「殺されても文句ネェヨナァ?」

「⋯⋯ああ。もし、生きていても、仲間に泣きついたりしないさ」

「馬鹿だぜ、オマエ」

「いいや。馬鹿じゃ、ない」


 拳を握る。震えを止め、相手を強く睨む。


「俺は、お前らより強いぞ」


 ゾディアックが挑発した。


 直後、ルーが動き出した。



お読みいただきありがとうございます!


次回もよろしくお願いいたします。

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