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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
131/264

第127話「Voltage:51.5%」

 サフィリア宝城都市に濃霧警報が出たのは、実に34年ぶりだという。

 前に発令した時は、近場に「ガギエル」と呼ばれるドラゴンが出現したのが原因だった。

 ヴィレオンに映るアナウンサーがそのことを告げると、天気のことをそっちのけにドラゴンの解説をし始めた。


 ドラゴンにしては小柄な「ガギエル」は、空気中の水分や、人体の水分を自在に操る力を持っているらしい。さらに驚きなのは、対象の魔力(ヴェーナ)を水に変換できるという能力を持っている、という点だ。

 全世界に魔力(ヴェーナ)が蔓延っているサンクティーレにとって、この能力は強力すぎる。いざとなれば国ひとつを水没させることも、理論上は可能であるというわけだ。

 実際に、このドラゴンは街ひとつを潰している。その時の光景は、陸上だというのに渦潮が産まれ、すべてを破壊した。


 そのため「ガギエル」は"渦神(うずがみ)"という異名を持っている。

 気性も荒く獰猛で、非常に危険なモンスターとして世界に名を馳せているこのドラゴンは、討伐されず未だに生きている。

 討伐隊として派遣されたガーディアンや各国の兵士が、軒並み返り討ちにあったからだ。


 ヴィレオンに流れる速報を見て、ゾディアックは眉根を寄せた。

 まさか、こいつが近場に来ているのだろうか。だとしても原因がわからない。獣人や回復職がいなくなっているのが関係しているのだろうか。

 いくら頭を捻っても答えは出てこない。


「いやぁ、ロゼさんの料理は絶品だな。ごちそうさん」

「本当美味しかったですね〜」


 能天気な声が聞こえ、ゾディアックはダイニングテーブルの方に目を向けた。ベルクートとラズィが座っており、ふたりはロゼの料理を食べ終え、満足げな顔をしていた。


「ふふ。ありがとうございます」


 お茶をふたりの前に置きながら、ロゼは微笑んだ。


 少年が来て、それぞれ動こうとしたが、街中が霧に覆われてしまい、太陽も月も見えなくなってしまった。まさに一寸先は闇といった状況であり、迂闇に動くと危険とゾディアックは判断し、仲間と共に自宅で待機するようにした。

 さきほどの「ガギエル」の話もある通り、この霧が自然発生したようには見えなかったからだ。


 アンバーシェルを見る。さきほど、ガーディアンたちに警告のメッセージを飛ばしてみた。

 嫌な予感はしていたのだろう。半数は捜査を切り上げる返事をしている。

 が、半数はまだ捜査を行う意思を示していた。家族がいなくなった者もいるのだ。気が気ではないのだろう。

 ゾディアックに、その行動を止めるだけの力はなかった。


「ふたりはどうするの。これから帰るの?」


 弓を持ったビオレはテーブルに視線を向けて聞いた。


「私は引っ越して~、ここから家近くなったので~、しばらくいますよー」

「近くって、どこ?」

「隣」

「となり!?」


 ビオレが驚きの声を上げ、「隣かよ」、とゾディアックとロゼは唇を動かした。


「俺は今、家出中なので、ここにいたいですよー」


 ロゼと少年以外の全員が、ベルクートに冷ややかな視線を送る。


「んだよ」


 ベルクートがわざとらしく唇を尖らせた。ビオレは呆れて溜息を吐く。


「まだ喧嘩中なの?」

「しょうがねぇだろー。絶対撃たれるの目に見えてるから帰れねぇの」

「夫婦喧嘩して家出している夫か何かでしょうか~……」

「いいだろ別にいたってー」


 ベルクートが拗ねたように視線を逸らした。

 それを見て、ロゼがクスリと笑う。


「なんだよロゼさん。笑わなくたっていいだろ一」

「あ、いえいえ。すみません。ベルクートさんはお優しい方なんだなぁって思って」

「へ? 何言ってんの」

「ビオレとラズィさんのことが心配なんですよね。亜人ですし、ラズィさんは回復職もできる優秀な方ですから。ここにいたら敵が来ても、ゾディアック様と一緒にすぐ戦えますもの」


 ぐっと、ベルクートは唇をきつく締めた。ロゼを見つめていた瞳が開き、逸らされる。


「そんなんじゃねぇよ」


 髪の毛をガシガシと掻いて苦笑いを浮かべた。


「……図星だー」

「図星ですねぇ~」

「うるせえよ! 別にお前ら強いし、ゾディアックだっているから、んなこと微塵も思って」

「ありがとう、ベルさん」

「感謝してますよ、ベルクート」


 可憐な女性ふたりの、心からの礼だった。

 ベルクートは言葉を切り、息を吐いた。感謝の気持ちを無下にするような男ではない。


「おう」


 そう言って、茶をすすった。

 ビオレはベルクートから視線を切ると、窓を伝って庭へ出ようとする。


「ビオレ、今日は修行やめておけ」


 ゾディアックが間愛入れずに言った。


「中でエンチャントの練習を行うだけにしろ」

「……わかった」


 不服そうだったが、ビオレは頷きを返した。

 ビオレはゾディアックの隣に座り、ラミエルを両手で持つと、魔力(ヴェーナ)を流す。

 弓が紅蓮に輝く。流した魔力(ヴェーナ)が弓を覆い、まるで炎を纏うようになる。

 その輝きは、現在発生している濃霧の中で使っても目立つほどの強さだった。


「おお。上手く流せてんじゃん」

「早くエンチャントできるようになりましたね〜」


 ふたりも称賛の声を漏らした。ビオレが照れくさそうに笑みを浮かべる。

 その時、ビオレの瞳に少年が映った。誰とも話さず、それでいてビオレをじっと見つめていた。


「え、っと、なに?」


 ビオレが首を傾げて聞くと、少年はじっと弓を見つめながら言った。


「前より上手くなってんしゃん」

「え?」

「前ここに来た時、庭で練習していたの見た。あの時はへたくそだった」

「なっ……」


 ビオレはムッとした。


「へたくそって。じゃあ、そっちはできるわけ?」

「貸してみろよ」

「やだ。弓矢渡すからそっちでして」

「なんでだよ」

「ラミエルは私のなの!」


 少し怒気が混ざる声の応酬が続いた。


「ちょ、ちょっとふたりとも、落ち着いて」


 険悪な空気が流れたため、ゾディアックはあたふたしながら仲を取り持とうとする。


「頑張れお父さん」


 ベルクートがケラケラと笑いながらヴィレオンに視線を移す。


「お。デザート特集やってんじゃん」


 その言葉を聞いて、ゾディアックたもの視線がヴィレオンに向けられる。


「こんな状況なのにデザートもなにも……」


 ラズィが呆れたような表情で、目を細めて言った。


「まぁいいんじゃねぇの。疲れた時には甘い物だろ、ラズィちゃん」

「呑気ですね~」

「焦ったってなにもできないしな」


 ふたりの会話が終わると同時に、上空から撮影された雪に覆われた街の景色が映し出された。


 雪国だ。ゾディアックはその光景に、なぜか懐かしさを感じた。


お読みいただきありがとうございます!


次回もよろしくお願いいたします。

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