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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
127/264

第123話「Voltage:45%」

 レミィに言われるがまま、ゾディアックたちは掲示板の前に来た。

 掲示板と呼ばれるそこには、任務を受注するための貼り紙、通称「依頼書」が貼られている。


「なんだよこりゃ」


 ベルクートが頬を吊り上げて言った。掲示板に、大量の紙がひしめき合うように貼られていたからだ。

 依頼書はサフィリア宝城都市の住民やキャラバンからの話を聞き、セントラルの職員が任務に値するかどうかを話し合い、セントラルの管理者であるエミーリォの承認を得て、ようやく貼りだされる。モンスター討伐などはすぐに貼りだされるが、人探しや失せ物探しは、慎重に精査されることが多い。

 理由は取るに足らない内容がほとんどだからである。例えば飼い猫がいなくなった、眼鏡がなくなったから探してほしい……といった具合だ。


 ガーディアンは便利屋の雑用係ではない。もし人探しを行うとしても、駆け出のガーディアンが行うのが常である。

 そのためいつもであれば、掲示板の依頼書は、モンスター討伐の数が圧倒的である。

 しかし、今回は真逆の現象が起きていた。

 ゾディアックは一枚紙を手に取る。「うちの回復職を探してくれ」という題名だった。


「凄い数ですねぇ〜……」

「数もそうだけどさ、マスター。見てよ。ほとんどガーディアンが依頼書出してる」


 依頼書は街の住民だけでなく、ガーディアンも依頼人になることが可能である。といっても、今までは数えられるくらいしかガーディアンからの依頼書はなかった。


「明らかに異常だな」

「……ああ」


 ゾディアックは適当にもう一枚、依頼書を手に取る。キャラバンからだった。「赤い首輪をつけた獣人をどうか探してください」と書いてある。


「どうすんだ、大将」

「探す。全部は無理かもしれないけど。頑張ってみよう」


 ゾディアックは間髪入れずに言った。ベルクートが口元に笑みを浮かべる。


「了解、大将。なら、手分けして探そうや」

「じゃあ私、獣人探します! 同じ亜人同士だし、警戒されにくいかも」

「情報を集めながら足を動かしましょう〜」


 仲間たちもそれぞれ依頼書を手に取り始める。

 それでも数は圧倒的に足りない。そう思っていた時だ。


「おい、俺も手伝わせてくれ」


 声をかけられ、ゾディアックは振り向いた。重そうなプレートアーマーを全身に装備した大柄な剣術士(ソードマン)だった。


「数は多い方がいいだろ。できればゾディアック、あんたの連絡先を教えてくれ」

「え……?」

「悪用はしない。ガーディアン同士で情報を交換し合おう」


 フルフェイスの兜の奥から聞こえてくる声は、誠実さに溢れていた。


「あ、私も手伝うよ!」

「俺もだ! キャラバンには顔が効くから任せとけ!」


 後方から男女の声が上がると、徐々にセントラル内に活気が戻ろうとしていた。


「落ち込んでても始まらねぇか。人探しするベ」

「え〜面倒くさ〜」

「さっさと動くぞお前ら!」

「リーダー、うちのパーティ回復職いないから無視してもいいんじゃ」

「バカヤロウ! ゾディアックたちだって回復職いないパーティなのに、動こうとしてんだろうが!」

「ねぇ、そっちのパーティにいた獣人の特徴教えて」

「獣人探しとかどうでもいいだろうがよ」

「あんたねぇ! 仮にも仲間なんだからグダグダ言ってんじゃないよ!」


 ガーディアンたちが声を荒げ、動き始め、掲示板に集まり始めた。

 中にはゾディアックに近づく者もいた。


「ゾディアックさん、連絡先交換しましょう。何かあったら連絡してください!」

「え……あ……」

「指示飛ばしてくれれば動きますよ!」

「この前みたいな活躍、期待してるからね!」

「やるときゃやる男ってのがわかったからな。今回も一緒に事件解決しよう」

「は、はい……よ、よろしく」


 あっという間に囲まれたゾディアックは、たどたどしい動作でアンバーシェルを動かし、必死に連絡先を交換し合った。

 それを尻目に、仲間たちもまた、他のガーディアンたちと動き始めた。


「なんだよ。すごいじゃん、ゾディアック」


 受付にて書類の整理を行っていたレミィは呟いた。黒光り野郎と馬鹿にしていた相手が、いつの間にかセントラルの中心人物になっていた。

 それを見て、レミィは自然と笑みを浮かべていた。




★★★




 マーケット・ストリートに来ていたビオレはキャラバンに声をかけていた。


「それで、獣人のガーディアンを探しているんですけど……」

「ん〜。わかんねぇなぁ。何か買ってくれたら思い出すかもなぁ」


 ニヤニヤとした下卑た笑みを浮かべる、無精ひげの男はそう言った。亜人を下に見ている者の目だ。


「そう、ですか。それでは」


 埒が明かない。物を買うより無視した方がいいだろう。

 ビオレは話を切り上げようとした。


「ちょっと! そんな熊度はないでしょう!」


 後ろから怒声が聞こえた。目を向けると、隣に怒りの形相を浮かべたカルミンが立った。


「カ、カルミン」

「な、なんだこのガキ」


 驚く男を睨みながら、カルミンは露店の棚に両手を叩きつけた。


「ただ人を探しているだけなのに、あなたのその対応はなに!? どこのキャラバン? 団体を言いなさい」

「カルミン、いいって」

「よくないわビオレ。店主、いいこと? よく聞きなさい。あなたが亜人を毛嫌いするのは勝手だけど、この国のために働くガーディアンを、私の友達を馬鹿にすることは許さないわ。それでもふざけた態度を取るなら"ラルムバート"の名を出すことになる」


 ラルムバート、という名をビオレは聞いたことがなかった。

 だが露店の店主はそれを聞いた瞬間、顔が青白く染まった。

 その名はサフィリアに置いて、絶対といってもいいほど無視できない名前であったからだ。


「ラルム……え? いや、ま、まさかあんた……いや、あなたは、(つるぎ)……」

「それの娘よ」

「も、申し訳ございません!!」


 男は平伏した。ビオレは状況が理解できなかった。

「とりあえず知っていることを教えてちょうだい。何も知らないならそれでいいわ。ただ、この子にまず謝ってちょうだい」

「は、はい! 大変申し訳ございませんでした!!」


 頭を下げ続ける男から、カルミンの横顔に視線を移す。

 その顔は、悔しさと悲しさに染まっていた。




★★★




『行方不明者の捜索を行っている。家の外に出るなら、ついでに探してほしい。充分に注意してくれ』


 愛しいゾディアックからの連絡を受けたロゼは、素早く身支度を終えると家の外に出た。

 霧が濃い。おまけに曇天と来ている。

 これなら傘も必要ないだろうと判断したロゼは大きく伸びをする。


「ふっ……んーーー!」


 小さな体が思いっきり伸びる感じがした。

 しかしガーディアンが行方不明になるとは。変わった事件が起きているらしい。

 散歩をしながら安全そうな人に声をかけてみるか、と思ったところで、ロゼは耳を澄ませ

た。

 同時に、大量の魔力(ヴェーナ)が動いているのを一瞬感じた。視線を感知した方に向けると。


「あら?」


 狐顔の少年が走っていた。フィンという子供は戻ってきたはずなのに、また必死に走っている。

 ――面白そうだ。ついていってみようか。

 ロゼは悪戯っぽい笑みを浮かべそう決めると、魔法を使用した。一瞬黒い靄のような物がロゼを覆いつくし、晴れると同時に、ロゼはその場から消え失せた。




お読みいただきありがとうございます!


次回もよろしくお願いいたします。

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