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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
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第117話「Voltage:31%」

 外でゾディアックたちを待っていた3人は、噴水近くで待機していた。

 露店を眺めるわけでもなく、ただ黙って、ゾディアックが入っていった建物を見ていた。


「あの子、大丈夫かな?」

「大将がいるんだ。大丈夫だろ」


 ビオレがゾディアックたちを心配する言葉を口にするのは、これで3度目になる。周囲にいるラビット・パイの団員から放たれる、刺さるような視線を誤魔化すためだ。亜人を商品かそれ以下にしか見ていない者たちが大半であるため、ビオレに向けられる視線は非常に排他的なものであった。


「失礼」


 声をかけられ、ベルクートは自分の背にビオレを隠した。

 視線を向けると、さきほどの宣伝屋がいた。ニコニコとした笑みを浮かべているが、目元が笑っていないため、月光も相まって非常に不気味だった。


「ベルクート・テリバランスさんですよね? あなた」

「だとしたら?」

「いえね。銃を売っている、キャラバンの中では異質な存在のあなたに釘を刺しておこうと、前々から思っておりまして」


 男が言うと、周囲にいた団員が3人を取り囲むように動き始めた。

 3人は身を寄せ合う。ラズィは殺意のこもる視線を団員に向ける。

 ベルクートは男から視線を切らない。ガーディアンの危機的察知能力であろうか。果たしてそれはベルクートを救っていた。


 男はベルクートが視線を切った瞬間に、懐にしまってある”武器”で仕掛けるつもりであった。


「おまけに、あなた以前、勝手にラビット・パイの名を使った経緯がおありだとか」

「知らねぇな?」


 鼻で笑って言うと、男の口元から笑みが消えた。


「面白くない。その冗談は面白くない。ガーディアンなのかキャラバンなのか、風見鶏(かざみどり)を気取っているあなたが、私たちの名を騙る。まったく不愉快です」

「頭に来ているなら謝るよ。ごめーんね」


 煽るように笑って謝罪の言葉を口にする。周囲の怒気が高まった気がした。


「ただお前ら……随分とガーディアンに対して風当たりが強いじゃねぇか」

「そりゃあ強くなりますよ」


 男がカッと目を開く。視線はビオレに向けられた。


「亜人なんかを仲間にしている方々に、払う敬意は持ち合わせておりません」

「ほう。言うじゃねぇか。こっちもうちの仲間馬鹿にするような糞野郎に、払う礼儀はねぇなぁ?」


 一触即発の雰囲気が漂う。ベルクートが手に魔力(ヴェーナ)を流し、ラズィは腰にあるサバイバルナイフに手を伸ばした。


「ベルクート」


 兜のせいで若干こもっている、ゾディアックの低い声が聞こえると、ベルクートはふっと笑った。


「よぉ、大将。遅かったな」

「……何もされなかったか?」

「おいおい。俺らを邪険に扱うわけねぇだろ? 大手のキャラバン様がさ。楽しくお喋りしていたよ。なぁ?」


 見下すような視線を向ける。ベルクートよりも身長が低い男は、にっこりとした笑顔を向けた。


「ええ、ベルクート様は一応同業者でもありますからね。素晴らしい意見交換ができました」

「そうだろそうだろ」


 ヘラヘラと笑う。取り囲もうと動いていた団員たちは、恨めしそうな視線をゾディアックに向けながら、元の位置に戻った。


「で、話は済んだのか?」

「ああ。もうここにいる必要はない」

「……今、ボスから話を聞きました。商談成立ですね、ありがとうございます、ゾディアックさん」


 男は頭を下げた。ゾディアックはその頭部を睨む。


「ラルに言っておけ」

「は、言伝(ことづて)でしょうか。なんなりと」




「仲間に手を出したら殺すぞ」




 冷ややかな声だった。その言葉は巨大な鉄球の如き重さを持っていた。

 男は今まで感じたこともないプレッシャーを感じ、なんとか口元を歪める。


「承知いたしました」


 ゾディアックは踵を返した。パーティもその背中についていき、噴水広場にはラビット・パイの団員だけが残った。




★★★




 セントラルに続くいつもの薄暗い細道で、ゾディアックは膝を抱えて蹲っていた。

 噴水広場を出ると同時にゾディアックの酔いは醒めてしまった。結果、今までの緊張と気恥ずかしさなどが一気に押し寄せてきた。


「おい、大将。しっかりしろって」

「そうですよ~。せっかくビシッと決まったんですから~」


 ベルクートとラズィが呆れ顔で蹲るゾディアックに声をかける。ベルクートは壁に背を預けため息をつく。


「酔いが醒めちゃいましたか~」

「……うん」

「うわぁー。ひ弱な声。ずっと酒飲んでおけばいいのでは?」


 しゃがんで両頬を手で挟んだラズィが半笑いで言った。ベルクートは煙草を口に咥える。


「とりあえず、解散すっか。これ以上やることねぇしもう遅いし」

「そうですね~」

「大将。明日何時から商談する気だ?」

「……時間は決めてないけど、朝一番に行こうと思ってる。多分あの場所にいる」

「なら、また明日合流しようや」

「あなた目の仇にされてますけど、大丈夫ですか~」

「ゾディアックが釘刺したんだ。そこまで馬鹿じゃねぇだろ」


 紫煙を口から吐き出しながら、視線を少し離れた位置で立っている亜人組に向ける。


「お嬢ちゃんたち、大丈夫か?」


 柔らかい笑みを向けた。ビオレは弱々しい笑顔を向け、少年は黙ったままだった。


「ビオレ」


 ゾディアックが立ち上がった。


「大丈夫か?」


 近づいて問いかける。

 ビオレは顔を上げ、不安げな視線を向ける。


「ちょっと、怖かった」

「早く帰ろう」


 ゾディアックは黙っている少年を見つめながら言った。


「君はどうする? 亜人街に帰るか?」

「……いや、俺は。ていうかさ」


 少年が口を開こうとした時だった。アンバーシェルの着信音が鳴り響いた。

 全員の視線がゾディアックに注がれる。ゾディアックはポケットのアンバーシェルを手に取る。

 画面に表示された番号に、見覚えはない。疑問符を浮かべながらも通話に出る。


「……」

『あれ、繋がっている? もしもーし』


 女性の声だ。どこかで聞いたことのあるような。


「も、もしもし」

『あぁ、よかった。ゾディアックはん?』

「そ、そうですが」

『なんか声がこもっとるなぁ。まぁええ。うちね、ジルガー』


 ゾディアックの脳裏に、金色の尾を揺らす狐の獣人の姿が映った。


『そこにうちのガキンチョいるやん。代わって』

「……わかった」


 聞きなれない言葉遣いを気に留めながら、ゾディアックはアンバーシェルを少年に差し出した。


「君の、同居人からだ」

「え!?」


 ふんだくるようにアンバーシェルを取ると、少年は耳元に画面をつける。


「もしもし!? ジルガー! ……うん、見つけた」


 少年は手短にさきほどの経緯を話した。簡潔にまとまっており、しっかりとした報告ができている。


「それでゾディアックが、金払ってくれるって……うるせぇな! ちゃ、ちゃんとお礼は……え!?」


 少年は信じられない、といった風に目を丸くした。


「ま、ちょっと待てよ!」


 あ、と少年は大声を上げた。


「もしもし!!? ちょっと!! あぁ、もう……」


 少年はアンバーシェルを顔から離し、画面を見つめながら後頭部を掻いた。

 沈黙が流れる。いったいどうしたというのだろうか。

 そして数分後、悩んでいた少年は申し訳なさそうな視線をゾディアックに向ける。


「あの、さ」


 ゾディアックが首を傾げる。


「今日、泊めてくんねぇ?」


 少年は気まずそうに、ゾディアックに言った。



お読みいただきありがとうございます!


次回もよろしくお願いいたします。

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