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ディア・デザート・ダークナイト  作者: RINSE
Dessert4.エクレア
114/264

第111話「Voltage:13%」

 ゾディアックが住んでいるという家の情報は、マーケット・ストリートで直接出会う前から手に入れていた。セールスマンのように直接押しかけて銃の宣伝を行おうと考えていたからだ。


 しかし、マーケット・ストリートで運よく出会い、そうして今は仲間として活動するまでになっている。利用しようとしていた当時からは考えられない関係になった。

 ベルクートはそれからゾディアックを利用するのはやめようと考えていた。


 しかし、今回の問題は自分ひとりではどう考えても打開策が見つからなかった。

 あくまで、相談という体で、ゾディアックの家に押しかけるのだと、ベルクートは誰かに言い訳するように頭の中で呟きながらインターホンを押した。

 そして、出てきた相手は、本当に同じ人種かと思えるほど美形の男性だった。




★★★




「ぴえん」


 髭面で緑髪のコートを着たおっさんこと中年男性、ベルクートがふざけたことを言ってきた。

 ゾディアックは困惑した。「いったい何を言っているんだろうこの男は」という顔をする。

 だが、困惑していたのはベルクートもだった。


「……あ、すいません」

「……はい」

「ここは、ゾディアック・ヴォルクスさんのお宅でしょうか?」

「そう、ですが」

「ゾディアックさんの、ご家族の方?」

「……いいえ」


 ゾディアックは頭を振った。


「自分が、ゾディアック、です」

「……えぇ?」


 ベルクートは顔をひきつらせた。昨日も似たような反応があったなとゾディアックが思ったところで。


「家の前で何しているんですか〜?」


 のほほんとした声が聞こえた。ゾディアックは視線を向けるとシャツワンピースを羽織ったラズィがいた。スキニーのデニムが、彼女の長い足を強調している。


「おや。ベルクートさん」

「おお、ラズィちゃん! 聞いてくれよこの兄ちゃんが自分のことをゾディアックだどうだと言うんだぜ?」

「本当ですかー? いささか信じられませんねぇ〜」


 ラズィはからかうような笑みを浮かべた。素顔を知っているというのに。ゾディアックは歯噛みした。


「ゾディアック様〜、どうされましたか?」


 今度は後方から声が聞こえた。振り向くと口ゼが立っており、ゾディアックともうふたりの視線がロゼに注がれる。


 ゾディアックのこめかみに、一滴の汗が伝う。


 ビオレにはバレなかったが、今回は元ランク・ダイヤモンドというベテランのベルクートが相手だ。バレる可能性が高い。

 隠そうとしたがもう遅かった。ベルクートが目を見開き、次いでゾディアックを見た。


「……あなた様の?」

「……同居人、です」

「同居人?」

「か……彼女、です」


 ベルクートは、乾いた笑い声を上げた。




★★★




「なるはど。あなたもゾディアック様の」

「パーティメンバーやらせてもらってます、ベルクートです」

「よろしくお願いしますね、ベルクートさん」


 リビングに案内され、ダイニングテーブルの椅子に座ったベルクートは、テーブルを挟んで対面に座るにっこりと微笑むロゼに対し、笑みを返す。


「素敵なお嬢さんのお名前は?」

「ロゼと申します。ゾディアック様の身の回りのお世話を行っていると言いますか……」

「恋人?」

「……はい」


 頬を赤らめはにかむ可憐な少女。


「ははは。そうですか。それはそれは。ハハハ」


 ベルクートは優し気に微笑むと、隣に座っていたゾディアックの肩を掴み引っ張る。

 ふたりはロゼに背を向けるように顔を背け、小声で話し始めた。


「お前どういうことだお前……!!」


 頭がぶつかりそうだった。ベルクートの眉間には皺が寄っている。


「み、見ての通りです」

「恋人だぁ?」

「可愛い恋人です」

「確かに可変いけどよ。あれか。あれがお前の女か」

「う、うん」


 横目でロゼを見る。小首を傾げて口元に笑みを蓄えている。


「なんなんお前。本当。なんなん? コミュ障お化けだと思っていたのに、中身は超絶イケメンで金髪美少女恋人にしているとか。なんなんお前。ギャップ萌え狙い変身願望アリアリの恋愛ドラマの主人公か」

「そこまで言うことないだろ……」


 "コミュ障お化け“という初めて聞く罵倒に、ゾディアックは思わず笑ってしまった。

 ベルクートは溜息を吐くと、ロゼに向き直る。


「いやぁ、申し訳ない。急に押しかけて、お茶までご馳走になってしまい」

「ああいえいえ、お気になさらず。ゾディアック様の大切なパーティメンバーの方ですので、ゆっくりくつろいでいただければ、私も嬉しいです」


 魔法が上手く行っているおかげか、久しぶりの来客のせいか、それともゾディアックの仲間というワードに惹かれてか、ロゼは上機嫌だった。

 太陽のような眩しさを感じる笑顔に、ゾディアックとベルクートは目を細める。


「「わぁ〜まぶしい〜」」


 ふたりは同時に言った。

 そんなデレデレとした馬鹿なふたりを、ソファに座っていたラズィとビオレは冷ややかな目で見ていた。


「男って単純ですねー」

「でも、もしマスターがロぜさんみたいにコミュ力お化けだったら、私もあんな風にデレデレしちゃうかもしれません」

「えぇ〜?」


 イケメンに弱いのは少女ゆえの特性だろうか。ラズィはそう思いながらロゼを見つめる。

 見事に魔法をマスターしていた。自身の魔力(ヴェーナ)を丸ごと入れ替えるに等しい超高難易度の、絶級と同等の魔法をいとも簡単に使っている。

 確かに一度発動すれば、あとは微量の魔力調整と感情の起伏に気をつけることで変化している状態を維持することはできる。


 だがあれほど完成度が高く、おまけに人前で使っていて”ラグ“が生じないのは見事としか言えない。

 本当に3日でマスターするとは。ラズィの胸中に、嫉妬にも似た専敬の念が渦巻いていた。


「ところで、ベルさんは何しに来たの?」


 ビオレが聞くと、思い出したかのようにベルクートが手を叩いた。

 表情が渋面になり、唸り声が端く。


「実は、ゾディアックに相談があって」

「何?」

「簡単に言うと」


 ベルクートは一度息を吸った。


「露店、開けなくなっちゃった」


 それを聞いてゾディアックが思ったのは「あぁ、やっぱり」だった。

 この世界では邪な物として扱われ、悪党共が好む武器である銃を売っているベルクートの店は、近々潰れるだろうと思っていた。


「客が、こなさすぎて?」

「いや、違う」


 ベルクートは頭を振った。


「事件の首謀者。あのドラネコに俺が銃を売っていたところが見られていてなぁ」

「.....それはまぁ、客がいたら目立つし……」

「それで今日も開こうとしたら、国の連中が押し寄せてきやがって、店じまいよ。下宿先のじいさんからは「このアホンダラがぁ!」って言われてマジギレされるし」

「で、ベルさん迫い出されたんだ」

「ちげぇよ。逃げ出してきた。あのままいたら殴られるだけじゃすまなかった。だから今は冷戦状態を維持している」


 ラズィがカラカラと笑った。


「だっさ〜」

「うるへー。あの親父クソ強いから怒らせたくなかったんだよ」


 ただでさえ疎まれていたのに、今回の件で完全に信用を無くしたのだろう。ベルクートも自覚しているのか、口ぶりからして然程ショックは受けていないらしい。


「……頑張って信用取り戻すしかないね」

「信用? 真面目にガーディアンし続けるとか?」

「何か案が必要ですね〜」


 ロゼ以外が唸り声を上げる。

 その時、ロゼがパッと顔を明るくして、手を一度叩いた。


「じゃぁ! みなさんで案を考えませんか! そうですそうです、名案です!」


 テンションが高いロゼはウキウキとした様子で言葉を紡ぐ。


「ゾディアック様、ここにいらっしゃる皆様で、パーティメンバー勢揃いでしょうか?」

「え、ああ。そうだね」

「皆さんのこれからの予定は?」


 ベルクートとラズィが顔を見合わせる。


「特には〜」

「ないぜ」

「あ、私も」


 ビオレが手を挙げて言う。


「では、親睦も深めて我が家で飲み会なんていかがでしょう! 宅飲みってやつです!」

「へー! それ面白そう!」


 ラズィが感心するような溜息を出す。


「私の引っ越し祝いも兼ねてくれるなら、やりましょうか〜」


 どうやら乗り気らしい。ゾディアックは頷きを返した。


「ベルは?」

「いい案だけど、いいのか? 邪魔じゃないか、俺とかラズィちゃん」

「……全然。邪魔なんかじゃない。むしろ嬉しいよ」


 ゾディアックは楽しげな笑みを浮かべた。端正な顔立ちに綺麗な笑顔を見て、女性陣の視線が釘付けになる。


「俺……こうやって友達同士で、飲み会とか、家で遊ぶの、憧れていたから……」


 そのあまりにも切ない言葉に、ベルクートはゾディアックの肩に腕を回した。


「わかった! 俺が盛り上げてやるから、安心しろ大将! おいお前ら、買い出し行くぞ!」

「「行く行く〜!」」


 ロゼとビオレの声が重なる。


「え、全員でですか〜?」

「当たり前だろラズィちゃん」

「……子供じゃないんだから……」

「ようし。じゃあまずは酒だ酒だ!」


 小声だったラズィの言葉はすぐにベルクートの言葉にかき消された。


「ベ、ベル。俺、酒飲めない」

「いいんだよ、ノンアルコールとか買おうぜ」

「ロゼさん楽しそうだね」

「いゃ〜久しぶりにお買い物ですからね〜。お買い物、お買い物〜」

「はぁ……面倒臭いわ」


 それぞれ言葉を交わしながら、ゾディアックたちは玄関へ向かった。

 時刻は昼を回りかけていた。



お読みいただき、ありがとうございます。


次回もよろしくお願いします。

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