「なんで、PCR検査が進まないんだ」
「なんで、PCR検査が進まないんだ」
自称名探偵・藤崎誠は詰め寄った。
「なんでかな~」
若手総理候補ナンバーワンの現環境大臣・太田は頼りなく答えた。
藤崎とは官僚時代の同期で親友だ。
「俺にもわからん。
日本ってこんなにも遺伝子検査が遅れていたなんて。
当初は、検査で陽性が出たら、症状がなくても、
隔離のために入院させなければいけなかったが」
「症状が軽い感染者はホテルや自宅待機できるようになったんだ。
どんどん検査すべきじゃないのか」
藤崎はグラスを取り上げ、一口含んだ。
「俺もそう思う。
早期に検査し、感染者を発見すれば、
経済活動の再開も早くなる」
太田もグラスのバーボンをあおった。
グラスをカウンターテーブルに置く。
「とにかく、検体を取るのが手間がかかる。
完全防備しないと感染のリスクがある。
それに防護服も足りてない。
どうしようもない」
「ニュースを見ると、ドライブスルー方式でも1か所で1日20人程度?
海外に比べてどれだけ、遅いんだ」
藤崎は太田が担当大臣かのようになじった。
太田はうなだれる。
「でも、なぁ~」
藤崎を見つめる。
「何かいい方法でもあるのか」
藤崎の目は輝いていた。
だから呼び出したのか、と思った。
「ああ、簡単だ。
防護服なんていらない」
藤崎は言い放った。
「いらなって無茶だろう」
太田の顔が険しくなった。
「うつらないヤツが検査すればイイだろう」
藤崎は表情を変えずに言った。
「うつらないヤツなんていない・・・」
太田はハッとした。
「まさか、コロナ感染し治った人に・・・」
「そうだ。
抗体を持った人にやってもらえばいい。
院内感染した医者や看護師、
素人でも練習すればできるようになるだろう。
どうせ、コロナが治っても風評被害で会社にいけない人がいる。
そういう人が最前線で頑張っていれば、風評被害も収まる」
「一石二鳥か。
いやいや、まだこのウイルスには解明されていない面がある。
再感染の可能性がないとは言えない。
人道的に無理だろう」
「そうか、良い案と思ったけど。
無理か」
藤崎はニヤリとした。
「本命の案をだせよ」
太田は見抜いていた。
藤崎にはもっと良い案があることを。
「逆転の発想だよ。
そういうモノがなければ良い小説は書けない。
良い推理小説が」
藤崎は自称名探偵だが、小説家を目指していた。
自分の小説が映画化されて、その主演女優と・・・
だが、そう夢見ている間に堀北真希も竹内結子も結婚してしまった。
「逆転の発想?」
太田は首を傾げた。
藤崎はカバンから、それを取り出し、装備した。
そして綿棒を太田に渡した。
「は、はッ」
太田は藤崎の格好に失笑した。
「これなら検査に時間がかからないし、
コストも50円もかからない」
「特許を取ってもいいが、特許料は寄付してやろう。
でも、藤崎マスクって名称にしてくれ」
藤崎は真面目な顔で言った。
「その名称は逆に恥ずかしいぞ。
でも、ありがとう。
さっそく、仕事にかかる」
と言うと太田はスマホを取り出し、電話した。
太田は扉の前に振り返り、藤崎に深く頭を下げた。
2日後の月曜日、夜のニュースは新PCR検査で持ちきりだった。
スピーディで、経費がかからず、少し滑稽だった。
車でPCR検査を受けに来た人がビニール袋をかぶる。
マスクと手袋をした医者がビニール袋の切れ目から、
検査棒を通し、被験者の鼻の奥へ入れ、検体を取る。
検査終了後、ビニール袋を脱ぎ、所定の場所に捨てる。
それだけだった。
藤崎の言う逆転の発想とは、医者に防護服を着せウイルスを防ぐのではなく、
非検査者にビニール袋をかぶせ、ウイルスを飛ばさないようにすることだった。
その方法は日本各地に広がり、発展途上国にも広がった。
「やっぱり、特許をとっておけば・・・」
と後日、藤崎は太田にこぼした。