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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不気味系ボッチJKと車椅子少年 病院からの脱出劇

夏のホラー2019企画向けに作りました。

既存の発表している作品とは世界感も共通していない完全に独立したお話です。

 クラスメイトのイケメン、早川君が入院した。

 理由はサッカーでの怪我。

 クラスで居場所がなく、トイレでお弁当食べている便所飯なう。な私には全く興味もない話だ。


 それよりも私は明日のお昼ご飯をどこで食べるのかという方がよっぽど重要。

 普段はいじめなんて気にもしない教師共も、なぜか空き教室や屋上でご飯を食べることには張り切って取り締まる。

 要は目立つのはダメなんでしょうね。ああ、いやだいやだ。だからいつも落ち着いてごはん食べる場所がトイレになるのだ。


 クラスに戻ると

木南こなんさぁ」

 小林さんが声をかけてくる。

 私は便所飯とかやっているが、いじめられてはいない。孤立しているだけだ。

 いじめとか受ける存在感すら発揮しないように生活しているのだが。

 代わりにこのクラスでは別の子が凄惨ないじめを受けている。

 彼女と彼が潰れたら次は私かもなぁ。ああ、怖い怖い。

 で、だ


「……なに?」

 我ながら幽鬼のような声。

 ボサボサの髪も併せて不気味スタイルを構築している。わざとです。

 下手にいじめたら呪うぞー的な。


「……オカルトって、詳しい?」

 オカルト? まあ、こんななりをしていますからね。

「……まあ。それなりに」

 この小林さんは他の人をいじめたりする集団のリーダー格。関わりたくない指数マックス。


「……あのさ、早川入院してるじゃん」

「うん」

「……なんかね、病院に幽霊がでるって」

「は?」

 病院に幽霊? なにそれ? 確かに死体もあるだろうしオカルト話には困らないにしても、そういう怪談は基本的には廃病院だ。

 現役の病院で幽霊。

「……まあ、ないことはないよ。夜の病院とかね」

 怖いからね。そら幽霊ぐらい見えちゃう人もいるでしょ。


「……最初は笑ってたんだけど、わりとマジでこわくて……」

 で?

「オカルト詳しいなら、解決してほしいって。早川が呼んでるんだ」



 私はどんなキャラにされているのかさっぱり分からない。

 いや、こういうの霊媒師とか除霊する人とか、専門の人いるんじゃないの?

 こんな不気味なだけのJK連れてきてどうするのじゃ。


 病院。

 少し古臭い感じ。

 確かにオカルト話とかでそうなぐらいにはボロッちい。

 なにしろこういうオカルト話って、不気味なところで起こるものだからね。

 小林さんと一緒に病室に着くと

「ね? 不気味でしょう?」

 病室の入り口には、真っ赤な手形がべっとりとつけてあり

「……あのさぁ」

 鉄の臭い。

 病室の入り口に真っ赤な、まるで血を連想させる手の形

「こんなの、オカルトがどうこうじゃない。警察に言う話でしょう」

 明らかな嫌がらせ。

 幽霊のせいにしようとする魂胆が見え見え。


「いい、よく見てて」

 小林さんはペンキを取り出す。

 え?なんでペンキなんて持ってるの?

「目をそらさないでね」

 白いペンキでドアを塗っていく。

 すると

「……はあ?」

 あり得ない。白く塗ったのに、また、真っ赤な手形がつけられていく。

 目の前で。まるで魔法を見ているかのような衝撃。

 そしてこの臭い。

 今血を流して手形を作っているかのような無気味な臭い。


「……小林さん、ペンキ貸して?」

 私は新たに浮かび上がった手形を塗っていくが、それをあざ笑うように、上から手形が増える。

「塗った真上にできているわけじゃないんだ」

「そう、塗れば塗るほど増えていくの」

 ふむ。


「早くこんな不気味な病院から出ていくのが一番のお勧め」

「それがね、とっくに届け出を出しているけど、受け入れ先がないのよ。小林君だけじゃないわ。病院中で起こっているの。今入院している人たちみんなが移動したがっているの」

 まあ、そらそうでしょうよ。

 わたしもビビってるもん。こんなの。


 すると病室から、声が響く。

「入ってくれ」

 やつれた感じの早川くん……いや、やつれてるかはよくわからないや。

 なにしろ私は活発な早川君との絡みゼロでしたからね。


「やっと転院先が決まったよ」

「本当に!? よかった!」早川君に抱き着く小林さん。ああ、そういう関係なのね。リア充爆発しろ。

「……俺はそれでいい。でも病院の人たちが……」

 ? どういうこと? 転院しました、めでたしめでたしでしょ?

「こんな状況じゃ誰も病院に来ない。看護師さん達も困り果ててるんだ。このままじゃこの病院は潰れてしまう。みんな職を失う」

 まあ、そらこんな病院みんな来たがらないわ。


木南こなんは名前がそれっぽいし、オカルトも詳しそうだから、連れてきてほしいって俺が頼んだんだ」

 名前がそれっぽいって

「コナンって、こと?」いや、コナンは作家名で、シャーロックホームズが探偵名なんですが


「でも、もういいじゃない。病院変えるんだからさ」

 ニコニコする小林さん。うん、そこは彼女の言う通りだと思いますよ、早川君。


「いや、いくらなんでも看護師さんたちが可哀そうだ」

なんだよ、その無駄な正義感。

「だから、小南こなん、この病院を助けてほしい」



 病院内をよく見たら、明らかにそれっぽいオカルトな人達がウロチョロしていた。

 お坊さんや神主さん、それにキリスト教っぽい人。あとテレビのコントでよく見るような「霊能者」って感じの格好の人々。

 それらの人たちを眺めながら


「早川君、君は彼女と病院離れて、あとよろしくは無いんじゃないかな」

 だからリア充は嫌いなのだ。

 なんで関係ない私が、病院に残って解決しないといけない。


「これ、あれでしょ。本人は病院から逃げ出すけど、代わりに私を呼んだから正義みたいな感じでしょ?」


 私がこの現象を解決すれば、呼んだ早川君偉い。正義。

 解決できなかったら、私無能。

 逃げ出したら私は人でなし。


「だーかーらー、リア充とはかかわりたくなーーーい」

 早川君、お父さんはRUMとか言う外資系の1流企業なんだったけ? 良い教育されてますなぁ。けっ!


 いじめも怖いけどさ、それ以上にこういう人たちと一緒にいるとろくなことが起きないのだ。だったら便所飯の方がいいわな。

 そんなことをブツブツ言いながら病院内を放浪すると


「わあ、お化けが堂々と歩いてるー」

 廊下から明るい声。

 見ると、クリクリとした大きな目、キレイな肌の美少年が微笑んでいた。

 10歳ぐらいだろうか。でも、両足がない。車いすだった。


「残念ながら、生きている現役バリバリのJKよ」

「わあ。そんなお化けスタイルでじょしこーせーって本当に残念」

 がっかりされる。


「あのね、この病院賑やかになったよねー」

 賑やか。まあ確かに。

「僕寂しいの嫌なんだ」

「でも、そのうち誰もいなくなるかもね」

 歩いているが病室は空が多い。確かにこんな不気味な病院いたくないでしょうね。


「ええー。お化けがたくさんで楽しいのにー」

 楽しい。いや、わたしそこまで割り切れないなー。


「みんなお化けが怖いのよ。もうみんな逃げる。なんか私はそれを止めるらしいわよ」

 そんなこと可能なのか? そもそもなんで私がそんなことせなアカンのだ。

 とか色々突っ込みどころしかない。

「わーい! いっしょに止めよー」

 少年ははしゃいでいる。

 なんなんだろうね、一体。10歳ぐらいなんてこんなに無邪気じゃないと思うんだけど。


 その少年と二人で病院を歩く。私が車いすを押しているんですが。

「あのねーここが庄司さんの部屋でねー。飯がまずいってよく怒るんだー」

 ふーん。と思いながら車いすを押していると、病院の入り口にカメラを構えた人たちがいっぱい来ているのが見えた。

「ああ、マスコミ」

 こんな奇怪な現象が起こっているのになんでマスコミ来てないの?と不思議だったのだ。


「ねえ、この現象起きたのいつから?」

「うーん、一週間前かな?」

 一週間。

「ギブアップ早すぎでしょ!!!???」

 なんだよ、一か月ぐらい怪奇現象に悩まされたんじゃないのか。

 いや、そういえば早川君が入院したのは一週間前でしたね。そういえば。


 そら一週間じゃすぐ転院先決まりませんわな。


「本格的に騒がれたのは3日前だよー。僕の部屋にも、いーーっぱい色んな落書き書かれて楽しかったなぁ」

 そうですか。

 しかし、手形だけじゃない、いろんな形で病院中に不気味な模様が描かれている。

 でも内壁ばかりだ。外壁はそんな物はなかった。多分。


「せっかくだし、外も見ましょう」

「うん♪」


 中庭に出る。不気味な模様は無い。内壁だけだった。


「そういえばお名前は? 私は小南こなんしずく

「僕は大槻おおつき栗栖くりすって言うんだ」

 クリス。真っ先にアガサクリスティが浮かぶ。

 コナンドイルにアガサクリスティ。まあ豪華な組み合わせ。性別逆だけど。


「推理なんてしないけどねー」


 お化けみたいな不気味系JKと、車椅子に乗った美少年。

 なんだろうね。この組み合わせ。


「部屋に戻りましょう」

「うん♪」

 少年を押して戻る最中、除霊している人に会う。

 汗をかきながら真剣な顔で柱に向かっていた。


 まだ遠いから何を言っているかもわからない。

 でも念仏かなにかだろう。数珠もっているし。

 除霊の光景なんて初めてだなぁと立ち止まり見ていた。


 私は、オカルトなんて心から信じていなかった。

 あの血の手形も、心のどこかでなにか手品かなにかなのかぐらいは思っていた。


 でも


「……ぁああっっ!!!」

「わあああっっ!!!」

 二人同時に叫び声をあげる。


 除霊をしていた柱から、半透明な狼のようなものが現れた。あり得ない。

 除霊していた人は驚き目を見開く。

 そして

『DYUGOOOOOOOOOO!!!!!!』

 すさまじい叫び声が響き

 その人は頭を食われた。


「逃げるわよ!」

 血しぶきがあがる。首が無くなった死体はゆっくりと倒れこんだ。

 あり得ない。この病院は、やばい。

「しずくーーー!!! こわーい!!!」

「私も怖いわ!」

 あり得ない。白昼夢か?

 でも、血の臭いがした、あんなのあり得ない。


「ふむ、栗栖君か」

 走った先。

 そこには白衣を来た医師がいた。

「本村せんせー!」

 嬉しそうに笑う栗栖。

「この先生は信用できるよ! 雫!」

 信用?

 見た感じボサボサ頭で、すっごい胡散臭いおっさんにしか見えない。

 そして今どきの医師ではありえないと思うのだが、咥えタバコ。


「君は、なかなかアバンギャルドなファッションだな」

 アバンギャルド? なにそれ?


「本村せんせー! 大変なんだよ! 向こうで人が食われた!」

「食われた? なにに?」

 冷静に聞き返す医師に、私も少し落ち着いて


「……見たままを話せば、柱に向かい除霊していたお坊様が、柱から現れた半透明の狼のようなものに頭から喰われました」

「……ふむ。一笑したいところだが、今の病院の惨状は笑えないな。行こうか」

 元来た道を戻る。


 私は少し震えていたが、それでも目の前の医師はなにか頼もしかった。黙ってついていく

 現場に戻ると、頭が無く、倒れた死体があった。

 周辺は血まみれ。


「………」本村はなにも言わずタバコに火をつけた。

 一面にタバコに香りが立ち込める。

「……半透明の狼が見当たらない以外は証言通り。まあ栗栖が嘘をつくはずもないが」

 本村は私を見て

「この栗栖は変わり者でな。信頼できない奴には心を開かない。あなたは見た目はともかく信頼できる人だ。栗栖の人物眼はたしかだ。そのうえで伝えよう。この病院はやばい」


 まあ、やばいですよね。うん。それはわかりますよ。


「さっきマスコミが来たがな。あれを呼んだのは俺だ」

 え?

「不自然なぐらいマスコミが来ない。いいか、壁一面に血の手形がつくんだぞ?しかも塗った先からまたすぐ付く。こんな面白おかしいオカルト話、絶対に食いつくだろう? また病院は著名なオカルト研究家も呼んだんだ。解決したくてな。ところが、有名なのは誰も来ない。来るのはメディアには出てこない人たちばかり」

 どういうこと?


「明らかに変だ。俺はこの一連の騒ぎは相当大規模な実験だと睨んでいる」

「実験?」

「VRかなにか。知っているか?VRというのは今はまだ専用ゴーグルをつけないと見れないが、そのうち裸眼でも幻想が見えるようになるかもしれないといわれている。それの集団実験なのか? などな。別にオカルトでもいいんだが、もしこんな大規模なオカルト現象が過去に起こっていたのならば、もっと大問題になっている。こんな塗った先から血の模様が出るとか、目の前の人が食われるなどあればな」


 血の臭いが立ち込める空間。

「あのマスコミたちもすぐ帰った。警察もおざなりしか捜査しない。この病院になにが起こっている?」

 タバコを投げ捨て

「半透明な狼と言ったか。この病院は元は森だ。狼もいたかもな。さて、なにが原因か」

 三人、ゆっくり進む。

 その先はロビー、だったのだが。


「VR、俺はその確信で動いている。これは壮大な映像実験。だが油断すれば殺されるような、人でなしの実験」

 目の前には、大量の人形のようなものが吊るされていた。

「……見ちゃだめよ、栗栖」

 私は栗栖の顔を手で覆う。

 首が無くなり、身体が吊るされた大量の死体。そう、人形じゃない。死体だ。頭だけがなく、ロビー全体に吊るされていた。

 なにに吊るされているかは確認できない。そんなことをする気もない。


「逃げるぞ!!!」

 その死体の間からなにかが蠢いている。それを確認することもなく、本村とともに、車いすを押しながら逃げた。


 中庭。

 本村が逃げた先は先ほどの中庭だった。

「なぜかこの中庭には現象が起こらない」

 息を整えながら煙草をまたふかす本村。


「太陽に弱いんですかね?」

「夜もなにもおこらない。俺が壮大なVR実験を疑っているのはこれも理由だ」


 なるほど。

 私と本村は座り込んでいる。

 走るの疲れた。

「ねえねえ、なんで雫はこの病院に来たの?」

 栗栖は楽し気に聞いてくる。

「入院してるクラスメイトに呼び出されたのよ。いい迷惑だわ」

 二人に事の顛末を伝えると、二人とも笑っていた。


「そいつ知ってるー。うるさくてきらーい」

 栗栖が言うので「そうだ! 私も嫌いだ!」

 こんなやばいことに巻き込まれたわけですしね。


「雫はこの現象をどう思っている?」

 本村の問いかけに


「わかりません。あなたの意見に乗りたいですが、私の中ではこんな魔法みたいなVR、オカルトと差はありませんからどっちでもいいです」

 なんとなく、種も仕掛けもあってほしい。

 本村のVR説でもいい。ウイルスによる幻覚でもいいよ。

 理由があれば納得する。

 でもね、こんなハチャメチャ、例え理由がハッキリしようが納得なんてできそうもない。

 それは「オカルトです」と言われるのと大差ない。


「脱出しましょう」

 私は言った。

 原因なんて知らん。この異常な病院から抜け出す。


「そうだな。解明は後でもできる。人死ひとしにが出た以上、まずは脱出だ」

 本村の指示で外への最短距離を走り抜ける。


 その間も

『DYUGYUUUUUU!!!!!』

「ひっ!?」上の階からだろうか? さっきの狼の叫び声が聞こえる。

 私は中庭を出て、すぐ廊下を曲がり、駆け足で非常口にたどり着く。

 しかし、なんで車いす押しているのがずっと私なのさ。


 非常口の扉は開いていた。

 外に出て、振り向くと


「……」

 本村があんぐりと口を開いていた。

 私もだ。

 窓という窓から、人が吊るされている。

 すべて顔がない。


「……あ、ありえない。こんな光景、絶対に通報されるし、騒ぎになっているはずだ……」

 震える本村。

 幻想。私もそう思う。あり得ない。

 こんなことはあり得ない。


 窓の外に死体がある。つまりだ。

「本村さん! 逃げますよ!」

「あ! ああっ!」

 もう本村の言った法則性も破られた。この超現象は建物の外にも浸食している。

 なにが原因? わからない。

 それよりも生き延びること。

「おねえちゃんっ!車椅子がっ!」

 え? と思ってみると、車輪が外れかかっている。

「これ、病棟内を走る予備のやつだから……」

 乱暴に扱いすぎたか。


「仕方ない! 背負うわよ!」

「わあ!」

「いくぞ!」

 もとむらー! 行くぞじゃない! あんたが背負えーーー!!!


 そんな罵詈雑言を飲み込んで、外に向かって走りだしたが

「……うそでしょ?」

 門の入り口には、マスメディアらしき人々の死体が山となって積みあがっていた。



 日常をいつ踏み外した?

 この病院に来る前までは当たり前の生活だったはずだ。

 陰キャだが、いじめられないよう、存在感を無くして生きてきた女。

 それがなんでこんなことに巻き込まれる?


 大量の死体。

 本村の説明にすがりたい。

 これはVR。虚構幻想。そうでしょ?


「あ、あれか!?」

 本村が叫ぶ。

 病院の屋上には、半透明な狼。そして、首なしの死体。

『お前らは生かしてやる』


 突然、その狼がしゃべった。

 って、え? しゃべった? それになんでこの距離で聞こえるの?


『本村、栗栖。お前らは味方だった。それとそこの女、お前は私に似ている』

「ま、まさか!? お前美絵か!?」

 本村の絶叫。

 そして

「ああっ!!! うん、この声は美絵ちゃんだ!!!」

 美絵。あの狼の正体?


「自殺したんだよ、この病院でのいじめを苦にな」

 いじめ? 病院で?

「看護師さんだったんだ。美絵ちゃん。でもすっごい酷いこと言われてて……」

 いじめを苦にした看護師の復讐。

 それはありふれた話だけど


「……あの狼の姿は?」

「知らん。そもそもあり得ない」

 本村は

「この惨事がお前の仕業にしてもだ! マスメディアへの抑えなどできるはずもない! なんだこれは!? なんの現象だ! 単なるオカルトで終わる話じゃない!!!」

 その言葉に

『現実よ。架空ではない。VRじゃない。でも似たようなもの』

 つまり?


『壮大な実験。私は命をかけてこの腐った病院に復讐をした。その為に協力を得た』

「だ、誰に?」

『ロダン・ジェームス』

 誰?と首をひねる私と栗栖。

 でも本村は震えていた。


「ま、まさか」

『人工知能、AI研究の最先端はメディアでも報じられている。でも実際の実験はもっと先をいった。そう。AIであるが故に人間の倫理と禁忌を踏み越えた。』

「こ、この惨事は」

『その盛大な実験。人を殺すという禁忌を乗り越えた先にしか掴めないものがある。あのドアや壁の種明かしなんて簡単。あの壁やドアを破壊すればすぐに分かったはず。中にはチップと赤い塗料が入っていたのだから』


 つまり、あの手形は。壁やドアに事前に塗料が用意されていて、ある衝撃や、なにかのタイミングで自動的に塗料が染み出るようになっていたってこと?

 そんな無駄なことをなんで?


「そこまでして恐怖心を煽った理由は?」本村が問いかける。

『短期の入院患者に罪はないわ』

 短期?

『長期入院患者はダメ。私をいじめた。酷いことをした。しなかった、守ってくれたのは栗栖君だけ。医師では本村さんだけ。患者を追い出したかった』

 その為に? でも


「でも! いっぱい殺したじゃない! 無関係な人いっぱい殺したでしょ!? 霊能者とか!」

 目の前で殺された。そして目の前に積みあがるマスメディア関係の死体。


『こいつらの殺害は依頼』

 依頼?

「ロダン・ジェームスの依頼か?」

「ねえねえ、ロダン・ジェームスってだれ?」栗栖が聞いてくれる。

「海外の有名な会社のCEOだ。人工知能、AIの研究では世界最高峰だが」

『そうよ。日本だけじゃない。これから同じことは世界中で起こる』


 顔を青ざめる本村。

『あなた方はこの惨劇の目撃者。ロダンに言われたの。3人生き残らせろって』

 3人。

『2人は決めていた。最後の1人は適当に決めようと思っていたけど、きっとこれは運命』

「その姿はなんなんだ!? なぜ狼だ!? そしてなぜ実際人を殺せる!? そんな姿にAIもクソも無いだろう!?」本村の絶叫に

『全ては答えられないわ、だって私も全ては知らないもの。ロダンと取引した。この惨劇を起こした。それでお終い』

 狼は吠える。


『復讐はなった!!! 私は! 私を侮辱した人間を殺した! もう十分だ! 裁きを!』

 その声に


 突然狼が燃え上がる。どこからともなく炎が出てきて包まれる

『GYGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!』


「……な、なんなんだ。これは、なんなんだ」

 本村は座り込む。

「美絵ちゃん……」

 ぎゅうっと私の手を掴む栗栖。


 私はなにもできない。単なる傍観者として、その惨状をただ見ていた。




 その事件は「病院が炎上した」だけで終わった。

 死亡したマスメディア関係は火災に巻き込まれた焼死。

 死んだ霊能者たちも同じ扱い。

 不自然に少ない記事。


「……ね、ねえ」

 小林さんに声をかけられる。

「なに?」

「……その、ずいぶん雰囲気変わったね?」

「……そうね、おかげさまで」


 あの事件で、私の価値観は変わった。

 存在感を消して、ことなかれで生きていても、突然とんでもないことに巻き込まれる。

 私はあの事件では傍観者だった。

 でもあんなのはもうだめだ。私は自分で、自分の運命を切り開く。


 髪は整え、身だしなみは整えた。まずは形から。形から変えることにした。 


 早川君と小林さんはあの病院の惨劇には巻き込まれなかった。

 出て行った後起こったらしい。早川君の怪我も転院したらすぐ治療が終わり普通に通っている。


 彼から見れば、私に託したミッションは失敗の筈だ。なにしろ守りたかった看護士さんと医師は本村を残して全滅した。

 でもそれには全然触れない。あんな惨劇想定外(表向きは火災だが)だからか、元々大した事だと思っていなかったのか。


 校庭で怪我などなにも無かったかのようにハシャぐ早川君を見るに、後者な気がする。

 ああ、だから私はリア充が嫌いだ。



 病院に見舞いに行く。

 栗栖は別の病院に転院。本村もそこに移動した。

「雫お帰り!」

「ただいま」

 微笑む。最近はいつもこういう挨拶。あれから栗栖に乞われて、毎日のように顔を出している。

 そこに本村が来る。


「中国での類似事件だ」

 学校での焼死事件。

「3人生き残らせろ。それは俺たちにこの暴挙を止めろという挑戦状だ」

 本村は無精ひげで、会った時よりもますますワイルド化していた。


「止めなければ人類は滅びる。ロダンは生き飽きているんだ。各事件にも必ず生き残りがいる。彼らに言っているんだ、『止めろ、さもなくば滅ぼす』と」


 いやいや、ヘビーで怖い。しかし不良医師に、車いすの少年に、不気味な格好のJKって、人選べよ。

 本村は今でも咥えタバコだ。よく看護士から怒られているのを見る。


「ロダンは作ったAIに人類を滅ぼす計画を作らせている。奴にとっては壮大な暇つぶしだ。人類とAIどちらが優れているか? そんなくだらない話を証明するために実験を行っているんだ」

 そういうのはハリウッド映画だけにしてくださいよ。

 それとだ、あの狼。あれはなんだったのか。


「本村さん、結局あの狼は何だったのですか?」

 すると本村はスマートフォンを取り出す。

 病室でスマホっていいんだっけ?

「バックにRUMがついている。それが分かればたどり着くのは容易かったよ」

 それは動画。有名なテーマパークの映像。

 真昼間にも関わらず、特殊な効果が目白押し。そして

「……あっ! これっ!」半透明なドラゴン。

 これはあの狼そっくり!


「最近のエンターテイメントの特殊効果はすごいな。これはRUMも協力しているものだ。この半透明なドラゴンだが、よく見ろ」

 ドラゴンは火を噴いている。

「この炎はドラゴンが吹いているように見えるが錯覚だ。実際はもっと奥の火炎放射機から出されている」

 指をさしてくれる。おお、なるほど。確かに。

「あの狼もそうだ。実際は狼が食っていない。遠くから攻撃し頭を吹き飛ばしただけだ」


吹き飛ばした?

「ロケットランチャーだ。現にすごい音が響いたはずだぞ。俺が自分の部屋を出てお前らと合流したのも、あの音に驚いたからだ」


 音。確か『DYUGOOOOOOOOOO!!!!!!』だったか。

 あれは狼の叫び声かと思ったが、確かに言われてみれば


「逃げている最中も音が響いていた。あれはランチャーで首を吹き飛ばしていたんだ」

「……なんで、そんなことを?」

「AIに聞け。だが想像はできる」

 病室の中なのに、堂々と本村は煙草に火をつける。


「あんな大量殺人。並みの精神じゃ無理だ。恨みがあろうともな。あれをやらかした絵美は確かに病院連中を恨んではいたろう。前からマスメディアや霊能者が嫌いだとも言っていた。それにしてもあんな徹底した殺りくなど不可能だ」

 そう思う。たとえ恨みがあっても、あんなに殺して回れない。

「そのための儀礼殺人。あの狼の姿はな。俺たちを驚かせるためのものではないと思う。殺して回る本人のためのものだ」


「……つまり、人間のままでは大量殺人は無理。自分が人間以外の存在になったと思わせれば可能になる、と」

「あんな徹底した殺りく、そうでないと説明不能だ」

「大量殺りくを可能にするやり方をAIは指示しているんですね」

「AIの汎用技術はすさまじい。今ではAI指示による手術も可能になりつつある。絵美はネット好きだった。調べたらインターネットにあったよ。英語のサイトだが、復讐計画をAIで作成するサイト。それは単なるお遊びだが、その書き込みから被験者を選んでいたのだろうな。そして、絵美の思考を解析して、彼女が可能な大量殺りくの計画を出した」

 怖い。要は人を殺人鬼、殺人装置に変えるってことじゃない。


「今回だけじゃない。これからも起こる。そのためには今回のことを見届け、対策を練れる俺たちの存在は重要だ」

「け、警察には!?」こんなの警察の仕事でしょう?

「あほ。こんなこと言ったって笑われて終わりだ。それにあの事件は単なる火災になってるんだぞ。協力は不可能だ」

 そんな。


「だからな、俺たちはこれから団結して互いを守りあわないといけない。お前、俺の家に住め」

 突然、当たり前のように

「はあ!?」

 叫ぶ私。何言ってんのこのおっさん。


「お前に死なれちゃ困るんだよ。もちろん、栗栖もだ。三人で暮らすぞ」

 その言葉に

「わーーーい!!! 本当に!!! うれしいぃぃ!!!」

 大喜びをする栗栖。


「な、なにを言ってるの!? そもそも両親への許可は!?」

「栗栖の親は大丈夫だ。もう話はついてる。あとはお前だ」

 お前だ、って。

「雫! 一緒に住もう!!!」

 腕に抱き着いてくる栗栖。


「俺も家帰ったらお化けみたいな女いるのは不気味で勘弁してほしかったが、最近のお前は普通にJKっぽいからな、ならば良し」

 カチン


「お前が決めんな!!!」

 あー!!! もう!!!


「私は! これからは! 自分で運命を切り開くの! 流されてとんでもないことに巻き込まれない生き方するの!」

 流されてとんでもないことに巻き込まれた。

 だからこそ、自分の事は自分で決める。

「巻き込まれて、か。いや手遅れだぞ」


 本村は私になにかを渡してくる。

 それは会社のパンフレット。英語である。読めない。

「ロダンの会社のパンフレットだ。そこのAI研究の紹介で研究者が出てくる……ほら、これだ」

 知らないおじさんの顔。他は欧米の人だと思うが、その人は日本人だった。名前は

「……HAYAKAWA」


「病院で言っていたな。早川という親しくもない男に呼び出されたと。あの不自然さはずっと気になっていたんだ」


 早川。あいつが呼んだ。

 早川のお父さんは、外資系企業に勤めている。

 その企業、RUM。RUMは、ロダンの会社だった。

 

 あの惨劇がはじまったのは早川が病院から抜けた直後。

 つまりだ、すべては計算づくだったのだ。私があの病院にいたのは、偶然でもなんでもない。必然。


「さあ、栗栖。まずはこの病院から出ていこうか。在宅治療の許可はもらったからな」

「うん! 雫も一緒に住むんだよぉー! たのしみー!」

 頭を抱えながら


「なんでこんなことにぃ……」


「立ち向かえ、きっとそれが運命なんだよ」

 茶目っ気に笑う本村。

「ああっ! もう! 住むかどうかはともかく! 覚悟は決めましたよ!」


 なんで私を選んだのかはまだ分からない。でも

 完全に掌の上。ならばそれを覆そう。

 みてろ、この不気味系JKが、お前の目論見ぶっ壊してやる。

本編で明かされていない謎解き


・血の手形から臭いがしてたってあるけど、あれはなんだったの?

→あのドアや壁にはセンサーが仕組まれていました。なにかしらの衝撃で、人の手形がにじみ出るような赤インクが飛び出るようになっています。そしてそのインクが出ると同時に、血の臭いを思わせる鉄の成分を噴霧する仕組みになっていました。


・なんでそんなことしたの?

→本編で絵美は「短期入院患者を逃がすため」と言っていますがあれは嘘です。「木南雫を呼び寄せるため」です。


・なんであの3人が選ばれたの?

→AIが選びました。選定理由は「AIを凌駕した発想と行動力の持ち主」だからです。


・早川君はなんか黒幕の手先っぽいけど小林さんは?

→あれはイケメンの早川君の気を惹きたくて言いなりになっているだけの人です。あとあの二人付き合ってません(抱き着いた姿見て木南は勘違いしていますが)


・なんで狼(絵美)の声がクリアに聞こえていたの? なんで雫たちの声が普通に届いてたの? 屋上遠くない?

→マスコミの死体の下にスピーカーと集音マイクを仕込んでいました。冷静な状態なら本村が気づいたはずです。


・絵美が燃え上がったのはなんで?

→普通にガソリンまいて爆死したという話です。


・この話続くの?

→続きそうな終わり方ですが、これはこれで終わりです。この話は「理不尽な理由で呼び出されたJKが、病院で知り合った車椅子少年と、超常現象から逃げ回るお話」以上でも以下でもないです。


・これホラー?

→パニックホラーかサイコホラーっぽいと書いてる本人は思っています。


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