完璧超人の天音さんは今日もバイオレンスで尊いです。
深夜テンションが自分でも怖い。
予想外の二作目です。
ああ、天音さん尊い
(作者はアルコール類は摂取していません)
柔らかな日差しが射し込む店内は、ほのかな明かりとコーヒーの匂いで満たされていた。そんなに広くはなく、年季を感じさせる。
自分達の他に客がぽつぽつといる程度。ウェイトレスの格好をした女性店員二人がよほど暇なのか、会話に勤しんでる。
「私、完全に社会不適合者です」
僕が尊敬し、敬愛申し上げている目の前に座る彼女《天条院天音》は、ぼそりと呟いた。あなたが社会不適合者なら、あなたが生み出す生産性の百分の一も満たせない僕はなんなのだろうか。不思議だ。
おそらく光合成で毎日酸素を作り出している葉っぱにすら劣る。
まぁ冗談は置いといて……あながち冗談でもないか。あ、自分で言ってて悲しくなってきた。
彼女は、某大手企業に勤めるバリバリのキャリアウーマンだ。そして天下の天条院財閥グループのご令嬢様でもある。それに比べ、僕は中小企業の歯車に無事組み込まれている。
同い年でこうも差が出ますか。小中高と同じ学校で席を並べ、僕が赤点の答案用紙とにらめっこしている横で、満点のテストで一生懸命見直しをしていた。当たり前のように不動の主席。運動神経も抜群。インターハイも優勝総なめ。
何?嫌みですか?そうですか。わかりました。はい、はい、すごいすごい。これでいいですか?……つらたん。
そんな彼女が常に隣にいたものだから、こんなに僕はひねくれてしまったんだ。そうに違いない。
おっと、愚痴っぽくなってしまった。
今は彼女とカフェでお茶の時間である。決してデートではない。ないったらない。
高学歴エリート連中すら羨むほどの完璧超人である彼女ではあるのだが──
ネガティブを痛いくらいに拗らせている。どうしてこうなった?それほど仲の良くない者であれば、馬鹿にされてると思うレベルである。しかし、これが彼女なのである。
「取引先の人にまた迷惑をかけてしまいました」
またか。まただな。どうせ、彼女の色香に惑わされた哀れな子羊を盛大に屠ったのだろう。ああ哀れ。いと哀れ。
この完璧超人、性能がハイスペックであるのはもちろん、容姿においても国宝級である。道を歩けば男の二人に一人が振り向いて二度見する。これは驚異的な数字だ。そして隣の俺を見て殺意を抱く。これもいつものことだ。
絹のような滑らかさを持つ漆黒に輝く髪を腰まで伸ばし、おめめは「あんたどこの二次元から来ましたか」というくらいデカい。そして、170近いスラッとした体型に「お前グラビアやってんのか」と突っ込みたくなる見事なメロンが2つ、王のように堂々と鎮座している。
これはもう大事件ですよ、奥さん。
とまぁ、彼女は非の打ち所のないスーパーガールなのである。
しかし、よほどショックなのか目が潤んでいる。可愛い。反則負けを抗議したい。
「まぁ誰にでもミスはあるし、次頑張ればいいいんじゃないか?」
「トモくんは、いつも優しくしてくれて天使くんです」
天使はお前だ。それに男子に天使って、褒められてる気がしないんだが。
──チャリチャリーン
新しい客が来たようだ。珍しい。いや、別にお店の悪口言ってるわけではない、決して。
扉の方を見ると、いかにもがらの悪そうな三人組がいた。これは立ったな。旗が。
「おっー!あっち見ろよ。めちゃくちゃ綺麗な別嬪さんがいるぜ?」
やっぱり。
「ほんとや。隣のにいちゃんはなんか普通やな」
やかましいわ。自分が一番分かってるわい。今後の展開を見越して席を立つ。
「あん?にいちゃんなんか言いたそう顔しとるけど、文句でもあるんか?」
「彼女をナンパするのは止めておけ」
「はい?何言ってるか、よう分からんな兄ちゃん。そんな強そうには見えんけど」
僕の言葉を無視して、彼女の方に向かう三人組。すかさず、間に割って入る。
「おい。邪魔すんな。痛い目に遭いたいのか?」
同時に先頭に立つ男が拳を振りかぶる。
──一陣の風、いや突風が後ろから吹き抜けた。
「あぎゃ!」
目の前の男が漫画のようにぶっ飛ぶ。後ろの二人も巻き添えを食らったようで、押し倒されていた。一撃が、のぞみもこだまも脱帽の速度である。
「あなた達?死にたいようね?私のトモくんに手を出そうというのだから覚悟はできてるんでしょうね、この愚図共」
豹変である。やはり止められなかった。
「ここから十秒以内に消えなさい。さもないと貴様らの大事なものが二度と活躍できないようにしてやる」
目が本気だ。怖すぎ。
「ひぃいいい!」
男達は一目散に逃げ出す。良かった。大事なものが守れて。僕はほっと肩を下ろす。
「お怪我はありませんでしたか!」
ペタペタ身体中をまさぐられる、恥ずかしいの、くすぐったいの、やめて。変な声が出ちゃう。
「天音さん、僕は大丈夫だから」
「本当ですか?」
「ああ」
「それなら良かったです。しかし、またやってしまいました……」
「よしよし」
とりあえずなでておく。間違って喰いちぎられるのは避けたい。
「トモくん……」
少し恥ずかしそうに上目遣いをする彼女は、あざとい。だが天使のように可愛い。堕天しないでね?
言い忘れていたが、彼女は柔道黒帯の、剣道も師範レベルの腕前である。ほんとどこのチート野郎だ。異世界でも生きていけそう。
周りの客と店員の口がお魚さんのようにお口パクパクしていた。弱々しい拍手つきである。さすがに気まずい。
「天音さん、そろそろ出ようか」
「分かりました」
「マスター会計をお願いします」
「もう払っておきました」
彼女は完璧超人である。頭が上がらない。
「ご馳走様でした」
マスターに挨拶をする。もうここは使えないだろうな。つらい。気に入ってたのに。気まずそうな顔で会釈をしてくれた。苦笑いなのは仕方ない。
「おっと」
彼女が飛び込んで、腕を巻き付けてきた。あの……当たってるんですが、天音さん。ちょっとヤバいです。嬉しいけど。
「当ててんのよ……です」
小悪魔のような笑みを浮かべ、すぐに顔を赤くする。いや、器用だな君は。
──今日も変わらず、天音さんはちょっとバイオレンスで、そして尊い。
後愛読ありがとうございました
好評だったら続編書いてみたいです
ご感想、待ってまーす