異世界へ
「さすが、鉈は、すげ~な。少しぐらい太い枝でもバッサリだ。
もうそろそろ着くころだぞ。たしかこの辺だったはずだが。」
タクトは鉈を片手に笹をどんどん切り分けながら進んでいき、この前の半分ぐらいの時間で現場に到着した。
「あれ、なんか、前の時より穴が少し大きくなってないか。
気のせいか。ま、いいや。」
タクトは超能力を身に付けたことにより気分が大きくなり、危機回避能力がマヒしている。
「よし、行きますか。」
鉈をリュックに入れ、次に懐中電灯を中から取り出し、スイッチを入れて、穴の中に入った。
「この前はどれくらい下ったんだっけな。こんなに歩いたかな。
そうだ。
あの時は何かに躓いて転んで、勢いよく転がって落ちたんだっけ。」
タクトは、前回の帰りに銀色の突起物を見たのを忘れている。
「結構、勢いよく転がったからな。距離感がつかめないや。」
タクトはどんどん降りて行く。
「あれ、いくらなんでも下り過ぎのような。気づかないで通り過ぎたか。
いやいや、そんなことは無い。
緑に光っていたから、あれは気が付かない筈はないけど。」
タクトは自分で乗り突っ込みをしながら、不安をごまかし、下って行く。
「結構、下ったぞ。こんなに深かったっけ。さすがに不安になって来た。
ん。あ、そう言えば、別に写真に撮らなくてもいいじゃね。超能力が手に入ったんだし。そうだ。もう十分だ。戻ろう。」
そう思い、独り言を言った時に洞窟全体が揺れ出した。
「やばい、地震か。大きいぞ。もしかして俺、穴が崩れたら生き埋めになるかも。」
タクトは身の危険を感じ、急いで穴から出るために身を返し、穴を登るために進行方向に懐中電灯の光を当てた。
すると、懐中電灯の光の先には、銀色の物体が穴を塞いでる。
しかも、だんだんと近づいて来ている。
「うそだろ。」
タクトはパニックになり、更に下に逃げた。
「あ、ちょっと待て、俺。
やばいよ。何で俺、下に降りているんだ。地上に出ないと。
でも、なんだ、あの銀色の物体は。帰る道を完全にふさいでいるし。
やばい。やばい。やばい。どうしよう。」
タクトは叫びながらどんどん穴を下って行く。
懐中電灯が穴の先を照らした。
「まずい。壁だ。行き止まりだ。」
タクトは立ち止まり後ろを振り向いた。
銀の物体は相変わらずタクトを追いかけるように迫ってくる。
「俺、ここで死ぬのか。うわーー。」
銀の物体が目前まで迫り、タクトはどうしようもなくなって叫んだ。
銀色の物体がタクトに激突する瞬間、緑の強烈な光が辺りを包んだ。
「ん」
タクトは気が付くと空中で仰向けになって、背中から下降している。
「ちょっと待て。何だ。なんで俺は空中に居るだ!!」
タクトは自分が置かれている状況を一瞬で理解したが、体は無情にも落下している。
「あ~。だめだ。これは、絶対に死んだな。」
バキバキバキ。
タクトは、森の木の上に落ち、いくつもの枝を折りながら落下し、地面に激突した。
「痛っつ~。やばい動けない。あっ」
銀色の物体が木と木の隙間から南西方向に飛んで行くのが見えた。
「あれ、UFOだよな。・・・。」
ヒロシは変な感情を抱いたが、先ほどの空からの落下のショックによって放心状態になり、しばらく何も出来ずにいた。
ふう。とりあえず、生きているよな。
体は動くか。
まず両手の指。
大丈夫、動く。
次は足の指。
大丈夫だ。
体は特に痛いところは無いぞ。
膝も動く。
よし。
タクトは上半身を持ち上げ起き上がりその場にあぐらをかいて座った。
「痛っ」
タクトの背中に少し痛みが走った。
「ん、そう言えば、リュックは?」
タクトは辺りを見渡した。
辺りには枝と葉っぱがあちこちに落ちているがリュックは見当たらない
タクトは上を見上げた。
「あった。あんなところに引っかかってる。」
リュックはタクトがジャンプすればギリギリ届く高さの枝に引っかかっていた。
「ふ~。木の枝がクッションになって奇跡的に大きな怪我はしていないようだ。
いくつかの打撲と切り傷はあるが骨折はしていないな。
とりあえずラッキーだが、何でこうなったんだ。」
タクトは今までのことを思い出した。
「ありえない。ありえない。ありえない。絶対にありえない。」
タクトは頭を両手で押さえ、頭を何回も振っていたがしばらくして止まった。
「現実だよな。」
ぼそっと言って、タクトは目を開けて、改めて回りを見渡した。
「ここはどこだ。」
タクトはしばらく周りの木や雑草を見ている。
「ちょっと待てよ。見たこともない木だし、植物だってそうだ。
いったいここはどこなんだ。
ここは森の中の様だが、田舎の実家の近くの山ではなさそうだ。マジで。
全部見たことが無い植物なんだけど。真っ赤な木もあるし。」
タクトは立ち上がり、改めて木や植物に近づき調べた。
「あ、そうだ。スマホで位置を確認しよう。」
そう思ってタクトはお尻のポケットからスマホを取り出して画面を見た。
「あ~あ。画面が割れてら。電源も入らん。」
ウオ~ン。
遠くの方で何かが吠えた声が聞こえてきた。
「獣か。明るいうちにこの森から出た方がいいな。」
タクトは立ち上がり、枝に引っかかているリュックを取り、担いて獣の声とは逆方向に当てもなく歩いた。
しばらくすると、運よく森から抜け出せた。
「よかった~。とりあえず安心だ。もうこれで森の獣には襲われないだろう。」
それにしても、マジで訳が解らん。全然見たことが無い植物に木の実。
ドングリっぽいのも落ちていたけど、俺が普段見ているドングリより、5倍ぐらい大きいし。
よく見たら、どんぐりに穴が開いていて、きっとドングリを食べている虫だと思うが、その穴も5倍ぐらい大きかった。
ま、とりあえず歩くか。ひょっとしたら、町があるかもしれない。
タクトは、森から出ると岩肌に沿って歩いた。
そこは、右側が岩の様な崖山になっていて、左側は下にさがっていて木が生い茂っている。
どうやらどっかの山の中腹らしい。
人なんているのか。
それすらも怪しくなってきた。やばいな。
遭難したら食料と水は少しリュックの中にあるから、何とか1日は持つがその後がまずい。
早く町を探さないと。
ヒロシはひたすら歩いて山を下りた。
すると、山を下りている途中で前方から人が歩いて来た。
「あ、人だ。」
タクトは嬉しくなって、足取りが早まった。
「あれは女の人。え、金髪。それにあの服装は。」
タクトは、女を見て疑問に思った。
その女の髪の色は金で、服装は、簡単に言うと麻のずた袋を頭から被って着た感じだ。
実際はもっと体にフィットしているが。
あ、目が合った。
女は、不思議そうにタクトを見ている。
その時、岩肌の上の方からガラガラと小さい石が落ちて来た。
「ん。」
女は落石に気が付いて、上を向いた。
「あぶな~い!」
タクトは叫んだ。
小石を追いかけるように頭ぐらいの大きい岩が女に向かって落ちた。
「キャー」
女は頭に手をやり、しゃがみ込んで動けないでいる。
タクトは、両腕をかざし、女に向かって落ちている岩を睨んだ。
すると、岩は女の頭に当るぎりぎりの所で止まった。
「早く、その場所から離れて! 」
タクトの口調は強い。
「あっ」
女は空中に止まっている岩を見て確認し、その場から逃れた。
タクトは、こめかみに青筋を立て、鼻から血を垂らしている。
「よかった。」
タクトが女を気遣うと、岩はその場に落ちたと同時にタクトは前かがみに倒れ、そのまま気を失った。
「うぅ~」
「大丈夫ですか。」
タクトを心配するように上から覗き込む女。
あ、そう言えば、俺、この子を助けたよな。
でもその後の記憶が無い。
気を失ったか。
ん、これは腿の上か。
よく見ると可愛いなこの子。
「あ~ごめん。」
そう言いながらタクトは上半身を起こした。
「謝らないでください。もう大丈夫なのですか。
鼻血も出ていたみたいですけど。今はもう止まっています。
あ、私はリーゼ。本当に助けていただいてありがとうございます。」
「お怪我は無かったですか。」
「はい。おかげさまで。それよりあなた様は・・・」
一瞬、リーゼは言葉を飲んだ。
「服やお体が傷だらけですが、大丈夫ですか。」
「あ、これは気になされずに。それより、ここはどこですか。」
「どこと言われましても、ラスベニア領の南の方ですが。」
「ラスベニア領?」
「ええ、ラスベニア。あなた様はどちからいらしたんですか?」
「あ、ごめん。俺は稲葉拓飛。気が付いたら、この山の中の森に居たんだ。」
リーゼは怪訝そうな顔をして、「儚き人」と呟いた。
「ん、儚き・・・」
タクトはその言葉を聞いて疑問に思った。
「いえいえ、こちらの話です。タクト様、私の村はこの近くにございます。良かったらどうぞいらしてください。」
「え、いいの?」
「ええ。もちろん。でも、その格好だと村の人たちは驚いてしまうので、ちょっとここで待っていてください。絶対に動かないくださいね。」
そう言ってリーゼは村に走って戻って行った。