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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
9/100

お兄ちゃん、大好きぃいいいぃぃぃー!

ここからはイーノック視点です(頻繁に視点が変わってごめんなさい)

 太陽が西の山にかかり始めた頃になって俺はようやく館のあるホワイトヒルに戻った。


 今回も壮絶に従魔契約をしくじったので気が重い。そんな気分を感じ取ったからか馬も歩調を落として進んでいたため随分時間が掛かってしまった。


 この速度で進んでも日が落ちる前には館に帰れそうだから馬なりのまま俺は馬上でぼんやりとしていた。


 その時、不意に後方から微弱な魔力の圧を感じた。


 あ、この感じは――。


 身体に馴染みのある魔力の色。いや、色じゃないな。目に見えているわけじゃないから。

 色というか波長? いや、それもなんか違うな。

 語彙が乏しくて言い表すのに適した言葉が思い浮かばないので、便宜的に『味』と表現しよう。


 ともかく馴染みのある魔力の味を感じて俺は振り返って後ろを見た。


 背後には俺が通ってきたアイアンリバーに続く道と、途中から右に折れて王都に繋がる街道へ繋がる道があって、街道に繋がるほうの道の遥か先から『味』に覚えのある魔力の圧が続けて二度三度と連続して放たれている。


 まるで飼い主を見つけた犬が嬉しさのあまりキャンキャンと吠えているような、そんな感じで何度も繰り返される探知魔法に俺は思わず苦笑い。


 母さんとロッティが帰ってくるのって明日じゃなかったっけ?


 これから何が起きるのかを予測するのは簡単だった。


 俺は馬の手綱を操って道から外れると、道から十分離れた場所で馬を下りて近くに生えていた木に馬を繋いだ。

 装備していたブレストロッドや小物を入れてるウエストポーチなどを外して馬の鞍に括り付けて、俺はテクテクと歩いて馬から離れる。


 周囲に人がいない事を確認しながら俺は何もない空き地に移動し、そこで待つことにした。


 そうしている間にも探知魔法の圧がピンピンと飛んで来ている。

 間違いない。ロッティが俺を見つけたようだ。そして完全に捕捉している。


 俺は念のためもう一度周囲を確認した。


 うん、ここなら被害に遭う人もいないし農地が焼ける心配も無い。周辺の雑草が炭化して少しばかり地面が抉れるだろうけれど大きな問題にはならないだろう。


 あ、服を脱ぐのを忘れてた。


 慌てて上着を脱ごうとしたけれど遅かった。

 夕日の色に染まりかけていた空にキラッと青白い光が見える。


 ドンッ!

「ぐふっ!」


 青白い光を肉眼で認知した次の瞬間には俺の腹部にロッティがぶち当たる勢いで飛び込んできていて、幾条もの落雷が集中して落ちたかのように高圧の魔力が飽和し、爆発し、地面に大穴を穿って燃え上がった。


「ただいま! ただいま! ただいまぁー!」


 俺の腹にしがみついたロッティがグリグリと頭を擦り付けるので、上着もシャツも一瞬で燃え上がって飛び散った。


 くっ、帰って来るのが明日だと思って普通の生地の服を着ていたのが失敗だった。


「よ、よぉ~し、よぉ~し。嬉しいのは分かったからちょっと落ち着こうなロッティ」

「ただいま! ただいま! ただいま! ただいま! お兄ちゃんただいまぁー!」


 ロッティの体から盛大に漏れている魔力が大気中で飽和して、ドン! ドン! ドン! と臨界爆発を起こす。足元の土が細かく震えて熱を帯び、土が焼ける臭いが漂い始めている。


 あ、やばい! このままだと土が溶けて溶岩になってこの辺り一帯の土地が雑草も生えない不毛の地になっちまう! いくら何もない原っぱでもそれはマズイ!


 ほぼ半月ぶりに俺と再会したロッティの喜びようは天井知らずで、もしロッティがワンコなら確実に嬉ションを放っているレベルの喜びようだ。


 あぁ、これはちょっと無理だな。


 俺はロッティを宥めて落ち着かせるのを放棄して、逆の方向で解決を図ることにした。


「おかえりロッティ! 俺も久しぶりにロッティに遭えて嬉しいぞ!」


「うきゃぁー! ロッティも嬉しい! 寂しかった! 悲しかった! 会いたかった! 嬉しい! 嬉しい! 嬉しい! 嬉しいぃー!」


 パンッ!


 ロッティの体から洪水のように溢れ出した魔力に耐えきれず、俺のズボンとパンツが弾け飛ぶ。


 とうとう『全裸に靴だけ』というなんともコケティッシュなコーディネートになってしまった侯爵家長男の俺だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「ロッティ、俺たちの再会を祝って『祝砲』を撃ってくれないか? ほら、あそこに薄っすらと白い月が見えるだろう。アレに向かって全力の魔力をぶっ放して景気良く祝おう!」


「わかった! ロッティ魔力全開でぶっ放す! 気持ちを込めてぶっ放す!」


 喜び過ぎて涙目になっていたロッティはモモンガのように俺に張り付いていた状態から片手だけを離して、輝きの弱い月に向かって小さな拳を突き出す。


「お兄ちゃん、大好きぃいいいぃぃぃー!」


 思わず「グハッ!」と吐血してしまいそうなセリフと共に放ったロッティの魔力砲は凄まじかった。


 直径が俺の身長の五倍くらいありそうな巨大な光の帯が月に向かって一直線に伸びてゆく。


 雷鳴のような轟音を響かせながら大気を貫いて進む破壊エネルギーは少しも勢いを弱めることなく直進し、途中にあった薄雲を四散させ、明るい空に雹を降らせた。


 ……。


 いかんいかん。環境への影響とか考えるのはやめよう。

 考えても仕方ない事は最初から考えないほうが良いんだからさ。


 むしろロッティに「竜尾山脈に向かって撃て」と指示しなかった俺は良い判断をしたと思う。もしそんな指示をしていたらきっと今頃は竜尾山脈の標高がかなり削れていたはずだ。


「どぉ? どぉ? ロッティ、お兄ちゃんに言われた通りにしたよ。偉い?」

「あぁ偉かったぞ。さすがロッティだ」


 全力で魔力を放出したのでロッティの体から溢れていた魔力が随分と少なくなっていた。


 これくらいなら普通の人間でも三メートルくらいまでならロッティに近づけるだろう。地面が溶岩化する恐れもない。


 俺はロッティの頭を撫でながら街道の先に目を向けた。

 ロッティと一緒に王都に行っていた母さんの馬車がまだ見えない。


「ロッティ。母さんはどれくらいしたらここに着きそう?」

「ん~……あと一時間くらい?」


「そんな離れたところからロッティは飛んできたのか」

「探知魔法でお兄ちゃんの反応を見つけたから、嬉しくなって先に来ちゃった」


 えへ~。とゆるい笑顔で俺に抱きついて全く離れようとしないロッティ。

 こんなふうに抱きつかれるのはほとんど日常化しているので今更不便に感じたりはしない。逆にこの子がいないと体が軽すぎて違和感を覚えるくらいにこの状態が俺にとっての『普通』になっている。


「そっか。じゃあここで母さんが来るのを待つか」

「うん!」


 母さん早く来てくれないかな~。

 母さんの荷物の中に俺でも着られる服があればいいんだけど……。


 俺はロッティと一緒に母さんがやって来るのを待ち続けた。


 だって『全裸に靴だけ』っていうセクシーゲージを振り切ったファッションじゃ人の往来のある街道に戻れないからね!

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