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あなた可愛いわね!

突然の活動休止から約1年。いろいろありましたがまた少しづつですが創作活動を再開できそうです。とりあえず週に2,3回の更新を目標に書こうと思っていますのでよろしくお願いします。

本日は再開初日なので2話更新!

(再開を機にペンネームをマルクマからマルシラガーに変更しました)

 駆け出し冒険者たちからネギを買い取ったナタリアとウェーズリーはひとまずネギを連れて宿の酒場に戻って来た。


「あなた可愛いわね! 目がクリクリ大きくて、まつ毛長くて、子供だけどすっごく美形! もしも誰かに『可愛い』の意味を聞かれたら私は迷わず『ネギ君のことよ!』って回答するわ!」


 ナタリアはネギのことをめちゃくちゃ気に入ったらしく、まるで拾ったばかりの子猫を可愛がるかのようにミルクを勧めたり、癖っ毛の頭をワシャワシャと撫で繰り回したりしている。


「あの、ボ、ボクなんてそんな可愛くなんてないんだよぅ。あうぅ……」


 褒められ慣れていないネギが体を捩じってナタリアの抱擁から逃れようとしているのを、ウェーズリーがテーブルの対面から面白くなさそうに眺めている。


 ナタリアがネギに夢中になっていることに彼がジェラシーを感じているとかのそんな青臭い理由ではなく、今回の任務のために預かった資金の大半をこんなことに使ってしまったことを悔やんでいるのだ。


「お嬢。一息入れたなら早くそいつを奴隷商のところに売りに行くぞ。もう日暮れまで間もない。急がないと営業が終わっちまう」


 明日でも売ることはできるが一晩手元に置けば、一泊分の宿泊代がよけいにかかるのが嫌なのだ。


「は? 何言ってるのウェーズリー。バカなの?」


 ナタリアはネギを胸に抱きしめたまま真顔で頭に疑問符を浮かべる。


「こんなかわいい子を奴隷商に売るという暴挙を見逃せなかったからウェーズリーはお金を出してくれたんでしょ? いまさらになってあの小悪党たちと同じことをしようとするなんてどうかしてるわ」


 ぷんすかと頬を膨らませるナタリアを見てウェーズリーは額を押さえて長々と嘆息した。


「どうかしてるのはお嬢の頭ン中だ。勘違いしてもらいたくないんだが、俺があの小僧どもからそこのフニャけた愛玩動物を買い取ったのはお嬢が見境なしにあいつらに喧嘩を吹っ掛けたからだ」


 ネギが「フニャけた愛玩動物……」と呟きながら凹んでいるのを無視してウェーズリーは主張する。


「暴発直前だったあの場を治めるには騒ぎの素になっているそのフニャ動を買い取るのが手っ取り早かった。だからそうした。はっきり言えばお嬢さえ無事なら俺はそのフニャ動がどんな目に遭おうが、どこに売り飛ばされようがどーでもいい」


 さらに『フニャ動』なんて略称までできてよけいに凹んだネギだったけれどウェーズリーは全く相手にしていない。


「問題はあの小僧どもに支払った金は俺たちにとって必要な資金だったってことだ。あれがなけりゃ例の任務を遂行できないんだぜ? わかっているのかいお嬢? あの方(姫様)のことはもうどうでもいいのか?」


「そ、それは……」


 どんなことを言われても反抗する気マックスだったナタリアだが王女殿下のことを持ち出されるとさすがに怯んだ。


「そのフニャ動を売り払って資金を取り戻すか、お嬢の大切な人をお助けするのを諦めるか。実にシンプルな選択だ。さぁ、どっちにする?」


「う……でも……」


 お気に入りのぬいぐるみを取り上げられそうになっている幼女のようにナタリアはぎゅっとネギを抱きしめている腕に力を込めた。


「勢いと思い込みだけで人生渡ってきているお嬢にもそろそろ優先順位ってものを知ってもらわなきゃいけねぇ。良い機会だ。この機会にちったぁ大人になるんだな」


「大人に……、私はこんなむさ苦しいオジサンに無理矢理大人にされちゃうのね」


 ナタリアはネギを胸に抱いたまま不服そうに唇を尖らせた。


「おいこらお嬢、言い回しに気をつけろ。もし何かの間違いで俺のカミさんにそのセリフが伝わって誤解が生じたら俺は一生お嬢を恨むからな!?」


「気にしすぎぃー。ベリーさんはなんのかんの言ってもおじさんのこと大好きだし」


「知っている。だからこそ少しでもカミさんの機嫌を損ねるようなリスクは避けたいんだよ!」


 二人がネギのことを忘れてぎゃいぎゃいと言い合いしている最中に、ネギ本人がボソッと根底を揺るがすことを言い放った。


「あのさ、そもそもボク、逃亡従魔じゃないんだよ」

「……は!?」


 ナタリアとの口論をピタリと止めたウェーズリーは目を見開いて固まった。


「さっきの冒険者たちにも言ってたんだけど全然聞いてくれなくてさ。ボクの主様は召喚士ギルドで用事があって「用事が終わるまで町の見物してていいよ」って、それで町を散歩してただけなんだよ。ほら、お小遣いまで貰ってるし」


 ウェーズリーは魔族の少年ネギがテーブルに置いた三枚の小銀貨を見てさらに目を大きく開いた。


「おいおいおいおい、それじゃ何か? おまえにはまだ従魔契約が残っているのか」


 冒険者が奴隷商に魔族を売りに行った場合、奴隷商は最初にその魔族が従魔契約で縛られていないか検査する。


 もしその魔族に有効な従魔契約張り付いていた場合、魔族は盗品扱いとなって取引ができないどころか、売りに来た客は窃盗犯として衛兵にしょっ引かれるハメになる。


「でもお前『従魔の首輪』をつけてねぇじゃねぇか。その状態で主人のところから逃亡してないって主張するのは苦しいだろ。嘘つくんじゃねぇよ」


 ウェーズリーが顔を強張らせながら問い詰めたが、ネギは魔族とは思えない無垢な瞳をパチクリと瞬かせて首を傾げた。


「うーん、そのへんの詳しいルールとかボクには分かんないけど、後でその『従魔の首輪』っての? 主様から貰えるんじゃないのかなぁ。主様はボクの従魔登録をするために召喚士ギルドに行ってて、手続きが終わるまでの間ボクに遊んできていいよって別行動しているだけだから」


「し、信じらんねぇ。首輪もつけてねぇ従魔に単独行動を許す召喚士とかあり得ねぇだろ。従魔が街中で暴れ始めたらどうするつもりだ……」


「こんな可愛い子が街中で暴れている場面って想像できないけど?」


 ナタリアの言う通り「ほぇ?」と大きなタレ目で見つめ返すネギにはそんな凶暴性があるとは思えないし、むしろ庇護欲をそそられる。この子と比べればニワトリのほうがよほど狂暴だろう。


「なるほど。こいつの飼い主もそう思って放置したのか。くそっ! 大事な金をこんなことに使って、これから先どうすりゃいいんだ……」


 ウェーズリーは売るに売れない不良在庫を抱えた商人のように頭を抱えて机に突っ伏した。


「えっと、なんかゴメンなんだよ」


 ネギは自分が悪いわけではないけれど、なんとなく申し訳ない気分になってぽきゅぽきゅとウェーズリーの頭を撫でた。


「やめろ、優しくされると余計に切なくなるぜ」


 このまま途方に暮れていても何の解決にもならないので、本気でどうしようかと悩み始めていると、


「すみません。ウチのネギが何かご迷惑を?」


「あ、主様」


 ひょいっとネギの保護者がやってきた。

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