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よしなさいアンタたち! イジメは最低な行為よ!

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ありがとクマ~(喜

 イーノックが召喚士ギルドから飛び出した、ちょうどその頃――、

 歩く爆弾ナタリアはバーグマン侯爵領の商業の中心地アイアンリバーに到着していた。


 そろそろ夕方という頃合いだったので工房や雑貨屋は店じまいを始めていて、早めに仕事を終えた鉱夫たちは路上の屋台で今晩の晩飯になるものを贖っていたりしている。


 徐々に日が傾くのに合わせて総菜系の屋台や酒場がだんだん賑やかになってきた。


「お嬢ぉー。部屋は取れたし馬車も預けてきたぞ。飯は宿の食堂でも出しているようだがどうする? せっかく知らない町に来たんだから名物料理を食べに外へ出るのもいいな。治安が良いおかげでけっこう遅くまで料理店が開いているらしいぞ」


 昔は冒険者として活躍していたウェーズリーは慣れた様子で宿泊の手配を終えて、宿屋の入口で待っていたナタリアに声をかけた。


「治安、良いの?」


 宿屋の窓からずっと外を見続けているナタリアが振り返りもせずにそんな疑問を口にした。


「そりゃ良いに決まっている。なにしろ『戦姫』が率いるヒヨコ騎士団が治安を担っているんだ。よほどの命知らずの死にたがりでもない限りこの町では大人しくしているさ」


「じゃあ、あれは命知らずの死にたがり?」


 ナタリアが窓の外を指さした。


「ん?」


 ウェーズリーがその先に目を向けると駆け出し冒険者らしき貧弱な装備を身につけた生意気そうな少年たちが人通りの多い道の真ん中で一人の気弱そうな少年を囲んでからんでいた。


「おいおいイジメかよ。気分悪ぃな」


「それだけじゃないみたい。あの子魔族よ。帽子で隠れてるけど頭から角が生えている」


 ナタリアが指摘した通り少年の帽子から捻じれたヤギの角のようなものがはみ出ていた。


「魔族……召喚士が使役している使い魔か? それにしちゃ首輪もしてないし召喚主っぽいやつも近くにいねぇな。主のところから逃げてきたのかねぇ……」


 もし本当にあの少年魔族が召喚士から逃亡した個体だとしたら、あの魔族の少年は冒険者のガキ共にとって都合の良いカモだ。


 召喚主の元から逃げた従魔は法的に逃亡奴隷と同じ扱いになる。


 逃げた奴隷は一番早く捕縛した者が新しい『所有者』になるので、新しい所有者は奴隷商に売り払ってって換金してもいいし、そのまま自分の奴隷として登録するのも自由だ。


 魔族の奴隷は希少価値が高く、子供の魔族でもそこそこの金額になるのでほとんどの場合は捕獲後即座に奴隷商に売ってお金にする。


 魔族の少年を取り囲んでいる冒険者たちは偶然見つけた臨時収入を目の前にして欲深そうな顔でニヤニヤと笑っていた。


 周囲の人たちも彼らの状況を察して、ある者は魔族の少年に憐憫の目を向け、ある者は取り囲んでいる少年たちを羨ましそうに見ている。


 ほとんどの者がすぐにこれがどういう場面なのかを察している中、一人だけ全く事情を理解しないで義憤に燃える者がいた。


「ひどいわ! あの子が魔族だからって大勢で囲んでイジメるなんて!」


「へ? 何言ってんだお嬢」


「周りの人たちも冷たいわ! なんであの子を助けてあげないのよ!?」


「いや、あれはイジメじゃなくて召喚主から逃亡した――」


「もう見てられない! とりあえずあの子を助けてくるね! イジメられてる子は保護して、イジメてる子はボコにしてやるわ!」


「ちょ、待てって! あれはイジメじゃなくて――っ、待つわけねぇよなお嬢は!」


 ナタリアが細腕をぐるんぐるん振り回して宿屋から飛び出していったのでウェーズリーは慌ててその後を追った。


「よしなさいアンタたち! イジメは最低な行為よ!」

「あ?」


 魔族の少年を取り囲んでいた駆け出し冒険者たちは突然乱入してきた少女に胡乱な目を向けた。


「イジメなんてバカなまねはよしなさい! あなたたちの行いがどれほど恥ずかしいことか分かっている!?」


「は? イジメじゃねーよ俺たちは「はいはい『友達とじゃれあっていただけ』って言うんでしょどうせ! あんたたちみたいな卑怯者は誰かに注意されたらそうやってヘラヘラ笑って誤魔化すんだから」


 少年冒険者たちは全員目つきの悪いやさぐれた面相をしていて、ちょっとしたきっかけがあれば簡単に犯罪者になってしまいそうなチンピラ感があった。


 他の職につけなくて、なるべくして冒険者になったような少年たちの集まりに向かってナタリアは微塵も怯むことなく指を突き付けている。


「てめぇ、何勝手に決めつけて「あーでたでた、やってることはまんまイジメなのに『勝手に決めつけるな』とか言って今度は自分たちが被害者ぶるんでしょ! どこに行ったってクズのやることは同じね!」人の話を聞けよクソ女!」


 いつもの調子で相手の言葉を遮って自分の言いたいことを言いまくるナタリアににイラついた少年は拳を振りぬいた。――が、


 バシッ!


 それはナタリアの顔面寸前に差し込まれた掌で遮られた。


「あ? なんだよおっさん、邪魔すンなよ」


 自分よりも体格の良い男に拳を握られても少年は怯まずにケンカ腰の言葉を吐いた。


 ウェーズリーは少年の気合の入った尖り具合に過去の自分を見ているようで内心ムズ痒くなった。


「悪いねウチのお嬢が。世間知らずなうえに出しゃばりなせいで不快にさせちまった」


「何よ! 悪いのはあっちムグウッ!?」


 ナタリアを後ろから抱きかかえるようにして口を塞いだウェーズリーは少年たちからナタリアを離すように体の位置を代えた。


「お詫びに君たちが先に見つけたこの魔族は俺が買い取ろう。金貨四枚でどうだ」

「ムグゥー!?」


 ウェーズリーが勝手に交渉を始めたので怒ったナタリアが手足をバタつかせたけれど、仮にも子爵領で私設騎士団の団長を務めるウェーズリーは全く揺るがなかった。


「いきなり出てきて勝手な事言うんじゃねぇぞおっさん! とりあえずそこのクソ女を殴らせろ。話はそれからだ!」


 ナタリアに侮辱されたのがよほど腹に据えかねたのか、少年はナタリアを痛めつけることにこだわった。


「あーそりゃダメだ。俺の仕事はこのお嬢を守ることだからな」


「それはそっちの都合だ。なんで俺たちがてめぇの都合に合わせなきゃなんねぇんだ!」


 リーダーらしき少年が食ってかかると仲間たちも「そうだそうだ」と乗ってきた。


「ははっ、元気が良いな少年たち。確かに今のはこっちの勝手な都合だわな。だがお前たちも世間を知っておけ」


「は? 何言ってやがるグダグダ言ってねぇで――」


 ブン!


 ウェーズリーの固く握りしめた大きな拳がリーダーの鼻先で止まった。


「おいガキ共。冒険者は強ぇ奴こそ正義だってことを忘れてるんじゃねーか? 冒険者になりたてのひよっこ共がぴよぴよと理屈を抜かすな。お前たちよりもはるかに強ぇ俺の言うことに黙って従え」


「……(ゴクリ)」


 鼻先に触れそうなくらいに迫った拳を見せつけられて冷や汗を垂らしたリーダーは唾を飲み込む。


 ナタリアを片手で拘束している不安定な体勢で放った拳なのに彼らは全く反応できなかった。


 それだけで目の前のおっさんがただ者ではなということが嫌でもわからされた。


「わ、わかった。おっさんが言った通り金貨四枚でその魔族を渡す。しかし俺だってこいつらのリーダーとしてのメンツがある。さっきの金額に俺たちへの詫び料で追加して金貨五枚だ。この条件を飲まないというのなら俺はどんな目に遭わされてでも絶対にそのクソ女を殴る! いくらおっさんが強くても全面降伏はあり得ねぇ。それじゃあスジが通らねぇし、ここですごすご引き下がったんじゃ他の冒険者にも舐められるからな!」


「ははっクソ生意気だが良い気合だ。嫌いじゃないぜ」


 生意気なチンピラ少年がようやく頭を垂れたのでウェーズリーは内心でホッとしていた。


 腕の中で『モガモアガガガガァー!(何勝手に和解してんのよー!)』と暴れ続けているナタリアがこれ以上事態をややこしくしないうちに和解できてウェーズリーはホッとしていた。

いつも読んでくれてありがとクマ!

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