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この人どんだけ俺を鞭打ちしたいんだよ!?

ブクマしてくれている人が200名超えてたクマ!

ありがとクマー!

 バーグマン領で最も栄えているアイアンリバーに到着したイーノックとネギは町の食堂で一緒に昼食を摂ってから召喚士ギルドに赴いた。


 受付でイーノックが従魔登録と講習の案内が来たことを告げると受付のおじさんは慣れた様子でこの後の手順を説明してくれた。


「まずはこちらの書類に召喚主の氏名と従魔の種族、名前を記載してください。登録料は公用銀貨一枚です。その他に講習費が別途に銀貨三枚必要です。はい、確かに頂きました」


 受付のおじさんは淡々と事務処理をこなしてあっという間に登録を終えた。


「従魔の確認とかしなくていいんですか?」


「あぁ、せっかく召喚して頂いているのに恐縮ですが登録に従魔の同行は必要ありません。従魔が誰のものかを明確にしておくだけの書類ですので、従魔の能力などはここでは問いません」


「じゃあこれで終わりですか?」


「はい、登録は終わりです。講習も座学だけですので夕方前には終わりますよ」


「ボク、来なくてよかったの?」


「そうみたいだな。ネギ、悪いけど講習が終わるまでどこかで暇つぶしでもしててくれ。夕方くらいに馬を預けた宿屋の前で合流しよう」


 用事もないのにずっと待たせるのも悪いと思ったイーノックはネギにお小遣いを渡して自由にさせた。


「了解だよ。じゃあボクは町の見物でもしてるんだよ」


 思いがけずお小遣いを渡されたネギは三枚の銀貨を嬉しそうに握りしめてポキュポキュと足音を鳴らしながらギルドから出て行った。


 そんな二人のやりとりを見ていた受付のおじさんは唖然としてネギの後ろ姿を見ていた。


「何か?」


 その視線が気になったイーノックが問い掛けると受付のおじさんは微妙な苦笑いをして「いえ、なんでもありません」とあからさまに誤魔化した。


『やっぱ召喚主が従魔とタメで話すのはおかしいことなのかな……』


 なんだかもやもやした気分になりながら従魔登録の書類を書き終えると、ちょうど講習の準備ができたと別の職員がイーノックを呼びに来た。


「げっ!?」


 案内された受講室に入ったイーノックは教壇に立つ職員の顔を見て思わず呻いた。


「私の顔を見るなり『げっ!?』とは何ですかイーノック受講生!」


 そこにいたのはイーノックに召喚士の基礎を教えたサード女史だった。


「なんですその嫌そうな表情。私を興奮させるためにわざとそんな顔しているのですか? とりあえず一発叩いていいですか?」


 愛用している乗馬用の鞭でパシンと机を叩く自称二十九歳のサード女史(32)。


 頭の輪郭がわかるくらいピシッとひっつめた髪と両端が吊り上がった形の眼鏡がトレードマークの彼女は「あぁ良い表情です」と息をハァハァ荒げながら鞭を素振りしている。


「挨拶みたいなノリで叩かれたくないですよ! ていうか全然変わってないですね先生」


「ほぉ、私が相変わらず若くて美しいと? しばらく会わないうちにお世辞くらいは言えるようになったんですねイーノック受講生。悪くないですよ」


「いえ、そんなことは一言もイッテェ!?」


 久しぶりに味わう鞭の痛みは懐かしさなんて欠片も感じられなくて、とにかく痛いだけだった。




 数組の学習机と小さな黒板がある受講室でサード女史とマンツーマン状態になったイーノックはめちゃくちゃ緊張しながら講習を受けていた。


 なにしろ少しでも隙を見せるとサード女史が嬉々として鞭を振ってくるので一瞬たりとも気が抜けない。


 そんなイーノックが知る(よし)もないことだが、サード女史は一度メルセデスたちに拉致られた経験がある。


 それはイーノックが召喚士としての勉強を始めたばかりの頃、イーノックはその日初めてサード女史の講習を受け、そして初めて彼女の鞭を受け、その二時間後にサード女史は手足を縛られた状態で冷たく硬い石牢の床に転がされていた。


 過保護な姉たちはイーノックを痛めつける者の存在を決して見逃さないのだ。


 普段通りならサード女史の生存確率は蚤の目玉ほどの大きさもなかったのだけれど奇跡的に彼女は許された。


 サード女史の処遇についてメルセデスとシャズナの間で少しばかりの衝突があったが、それはまた別の話。


 ともかく姉二人の許しを得てイーノックを痛めつけることのできる唯一の存在となったサード女史はイーノックの天敵となった。


「まずは召喚士という職能(ジョブ)の復習からです」


 イーノックから向けられる視線に多少の『怯え』が含まれているのを感じてサード女史は気分を高揚させていた。


 彼女は魔獣の調教に定評のある召喚士で、調教の能力が高すぎて性癖を変な方向にこじらせてしまったが彼女が優秀な召喚士であることは間違いなく、召喚士ギルドは彼女を講師に招き召喚士見習いの育成を担ってもらっている。


「復習といっても魔法陣の描き方とかではないですよ。そういったことは私がみっちり教えたのですから当然その頭の中に刻み込まれているはずですので……覚えていますよね?」


 サード女史が両手で鞭をしならせながら尋ねたのでイーノックはブンブンと勢いよく頭を上下させた。


「……チッ、では続けます」


『舌打ち! この人どんだけ俺を鞭打ちしたいんだよ!?』

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