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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
7/100

我が妹ながら、なんてエロい身体なんだろう

今回は長女メルセデス視点です

 私が勤務する騎士団の屯所にシャズナが隼のような勢いで馬車を飛ばして飛び込んで来たのは昼過ぎの事だった。


 緊急に二人だけで相談したいことがあると血相を変えていたので、私は会議の進行を副官に一任してシャズナを私の私室でもある団長室に招き入れた。


 応接用のソファーで向かい合うように座るとシャズナは来訪の理由を前置きも無しに私へ告げた。


「イーノックが魔王討伐に派遣されるかもしれないって?」


「王都の御前会議でそういう提案がされたみたい」


 シャズナは顔から血の気を引かせてわずかに指先を震わせていた。普段からどれほどイーノックの身を案じているのかがその様子から汲み取れるというものだが私だって負けていない。その話を聞いてからずっと足が震えが止まらない。立った状態でそれを知らされていたら間違いなく腰を抜かしていた。


「念のため確認しておきたいのだが、その情報は信用できるのだろうか。情報源は誰だい?」


「西方教区司教トロントよ」


「西方教区司教……あぁ、あの美少年好きの色狂いろぐるい爺さんか。ならばそれは相当確度の高い情報だな」


 どのような業界でも大きな組織で出世している人の情報網は侮れない。

 ましてそれが国政に食い込んでいる宗教の司教ともなれば持っている情報の量も質も他とは段違いの確度だ。


「シャズナの様子から察するに、閣議での『提案』は『検討』だけで済まなかったということだね」


「そうなの。提案はその場で宰相に認可されて次の手続きに入っているらしいわ。認可の日時を逆算して推測すると、今頃は軍官吏がイーノックをダンジョン前まで護送する護衛団の編成案を生成している頃よ」


「へぇ? どんな提案がされても『検討』ばかりで決断出来ない事に定評があるルブラム宰相にしてはやけに手際が良いな。それで?」


「編成案が完成して王様に提出されれば即日勇者招聘の勅使が派遣されるわ。そうなったらもう手の打ちようがないの。けれど今から何か対抗策を講じるとしても時間がほとんど無い。早ければ六日後には勅使が王都を出発するから」


「なるほど、状況は把握した。シャズナが私の帰宅を待たずにわざわざ屯所にまで告げに来たということは、司教がくれた情報がどこまで本当なのかの確認と、それに併せて現在の王都の政情を調べてくれって事か」


「話が早くて助かるわ」


 あの好色司教がくれた情報は正確だろうけれど、その情報をそのまま鵜呑みにするのは危険すぎる。与えられた情報には必ず何かしらのバイアスがかかっていると見るべきだ。


「了解だ。騎士団の情報将校を至急王都に派遣しよう。いや、それよりも……ロメオ!」


 パチンと指を鳴らすとメイド執事のロメオが私の執務机の下からヌッと顔を出した。


「お呼びですかお嬢様」


 シャズナが『なんでこの人ここにいるの!?』って顔をしている。

 その気持ちは私にもよくわかる。実は私も内心でビックリしているくらいだ。


 本来なら家でメイド本来の仕事をしているはずのロメオ。そんな彼女がこんな所にいるはずがないと思いながら『あのロメオのことだから、もしかしたら……』くらいの気持ちで呼んでみただけなのに本当に潜んでいたなんて……。


 今さら「なんでこんなところに居るんだ? というか、そこで何をしていた!?」と問い詰めるのも面倒だ。だから私は詰問きつもんしたい気持ちを飲み込んで話を進めることにした。


「ロメオ、話は聞いていたね? 今の話にあった情報の再確認とその後の王都の動きを現地に行って探ってきて欲しい」


「お断りします。ほんの数日であってもお嬢様の側を離れるなんて私には耐え難き苦痛で――」「もちろんタダでとは言わないよ。私が満足できる働きをしてくれたなら、褒美としてキミの手の甲にキスをしてあげよう」


「お嬢様の仰せとあらば!」


 ロメオは残像を残すほどの速さで外に飛び出して行った。


「……相変わらずねロメオは」

「いや、むしろ変わり過ぎだ。最初のロメオはああじゃなかった」


 シャズナは昔のロメオを思い出して「あぁ、そう言えばそうだったっけ」と肩をすくめた。


「ロメオの事はいいんだ。それよりも御前会議で突然勇者招聘が提案される事に至った経緯について聞かせてくれ。そんな話が出る前兆なんてなかったはずだが?」


 シャズナが司教から得た情報によると、どうやら王国全土に被害を及ぼした集中豪雨が発端だそうだ。


 王都の魔術院による調査の結果、今回の災害は人為的に発生させたものだということが判明したらしい。その証拠に雨の中から極微量ではあるものの自然界には存在しない配列を持つ魔素が検出されたそうだ。


「う~ん……魔法に疎い私にはあまりイメージできないのだが、天候を変えるような魔法なんてあるのかい? しかも王国全土という広大な領域で数日間ぶっ続けで効果を持続できるほど大規模な術なんて私は聞いたことが無いのだが」


「天候を少し弄る程度の魔術ならあるわ。けれど地面を湿らせる程度の雨雲を作るのがせいぜいね。でもそんな魔術すら実際に使うには人並み以上の魔力を持った魔術師が複雑な魔力制御を行ってようやく発動させられるレベル。王国の全土に行き渡る規模の雨雲を長時間維持させらる魔術なんて人類には無理。並の魔族にだって不可能な大魔術よ」


「なるほど。並の魔族にも無理な魔術だから犯人は上位魔族、つまり魔王がやったのだと王都の連中は推測しているわけか。実にシンプルな計算だ」


 そう応じた後で私はある事に気が付いてゾワリと体が震えた。


「なぁシャズナ。私は今、一つの可能性に思い至ったわけなのだが……」

「それは私たちの妹に関係することかしら」


 私が懸念した事はとっくにシャズナも気付いていたらしく、すぐに返事が返ってきた。


「あぁそうだ。ロッティは魔力だけなら人類の限界を軽く突破している。人間はもちろん魔物でさえあの子に近づけば黒焦げになるほどだ。そんなロッティならその規模の魔術でも使えるのではないかと……いや、あくまでも一つの可能性としてなのだけれど」


「私もその可能性を考えたけれど、すぐにあの子には無理だって結論に至ったわ」

「そうなのかい?」


「だってロッティは魔力量こそ方面魔王をも凌ぐ魔神級だけど、魔力を全く制御が出来てないから雨雲なんて作れないの。雨雲を生成する魔術『気圧操作』は繊細な制御で火魔術と風魔術を同時行使する複合魔術だもの」


「複合魔術なのか。ならば魔力を力任せに暴発させる事しかできないロッティには無理だな」


 私は心底安堵した。今回の災害は王国全土に被害が及んでいる。もしあの災害を引き起こしたのがロッティだったのなら、いくらバーグマン侯爵家の権力があってもあの子を庇いきれない。


「ともかく、王都の大臣たちは今回の豪雨を恣意的に作り出した犯人を魔王、もしくは魔王に匹敵する魔力を有する魔族だと断定。このまま何も対策を立てずに放置しておけば再び同じ大魔術を行使される恐れがあるから魔王の天敵である勇者を向かわせようとしているの」


「魔王の天敵の勇者……か」


 私はその言葉を口にして、まるで苦みの強い果実を齧ったかのような気分になった。


「普段から『史上最弱の勇者』だって貴族間に嗤われているイーノックなのに、それでも王都の連中は魔王対勇者のマッチングが最適解だと信じているんだね」


「現実を見ずに古い固定観念で敵対勢力に対処しようとしているんだから無能もいいところよ」


「まったく度し難い連中だ。イーノックはまだ一度も実戦経験の無い実戦童貞。それなのに最高難易度の魔王ダンジョンに行かせようとしている。そこに勝算が無くても『とりあえず勇者送っとけ』という軽い考えなのが透けて見えるようだ。本当に愚かしくて度し難い連中だ」


「まったくよ……」


 私たちはふうぅと肺の中を空にする勢いで深くため息を吐き、私は項垂れ、シャズナは仰け反るように上を向きながらソファに背中を預けた。


「私たちがやってきた長年の工作は徒労に終わってしまった。泣いてしまいたい気分だ」


「私も。たっぷり時間と手間をかけた分、余計に虚無感がもの凄いわ。『当代の勇者は剣の才能が無い』『魔法適性も無い』『せいぜい使えるのは並程度の召喚魔法だけ』そんなネガティブな噂をこつこつと世間にばら撒いて、それをイーノック本人にすら信じるようになったっていうのに……」


 私たちは期せずして大きなため息をシンクロさせた。


「『イーノックの悪評を広めて勇者認定を取り消させよう計画』は間に合わなかった。『イーノックを甘々に甘やかして腑抜けな坊やにしてしまおう計画』もあの子の不屈の向上心のせいで頓挫しかかっている。このままではイーノックは託宣通りに『勇者』になって死んでしまう。あぁ、どうすればいいんだ。私は、私はイーノックを失いたくはないのに……」


 私は項垂れていた頭を上げて助けを求めるようにシャズナに目を向けた。


 シャズナは私の弱音など端から取り合わずに、ソファの背もたれに体を預けた脱力姿勢で天井を見上げながら何かブツブツと小声で呟いていた。


 まるで岩場に打ちあげられたトドのように脱力しきったあられもない格好だけれど、この姿勢はシャズナが策謀や謀略を考えているときの癖。


 下手に声を掛けて彼女の思索を邪魔しないように私は黙って彼女の脳内会議が終わるのを待った。


「…………」


 ソファの肘置きに体を傾けて頬杖をつきながら静かにシャズナを眺める。シャズナは天井を仰ぐエビ反り姿勢をしているのでただでさえ大きな胸が余計に強調されていた。


 この子、また大きくなった?


 私もあのお母様の娘だから平均女性よりもバストサイズが四、五割ほど大きい。けれどシャズナのは既に母を越える大きさにまで育っている。


 上向き姿勢なので柔らかくて大きすぎる胸がシスター服の中でスライムのように横に流れているから正確な大きさまでは分からない。少なくともバケツプリンくらいの体積はありそうだ。

 そんな柔らかくて甘そうなおっぱいが彼女の呼吸に合わせて静かに揺れている。


 我が妹ながら、なんてエロい身体なんだろう……。


 そんな他愛もないことを考えながら私はシャズナの思索が終わるのを静かに待った。

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