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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第二章 姉たちがイーノックが大好きで過保護になったワケ
58/100

お兄ちゃん、あのね、お兄ちゃんは本当は強いんだよ?

 もう三年目に突入する姉妹同盟の秘密会合。


 あと数日もすれば王城から使者が来て、お兄ちゃんが魔王討伐に向かわされるのが確実らしいので、今回の会合では『お兄ちゃんが実戦を経験する前に東方魔王をササッと拉致って来よう』計画が立案されました。


 魔王を拉致って来る実行部隊はメルセデスお姉ちゃんと、お姉ちゃんが統率しているバーグマン侯爵家の私兵ヒヨコ騎士団の精鋭数名。

 シャズナお姉ちゃんはお兄ちゃんが連れていかれる予定の護送隊にヒヨコ騎士団が同行できるよう根回しを担当。


 メルセデスお姉ちゃんに「ロッティはお留守番だ」なんて言われたので「ここでクシャミしてもいい?」ってヌイグルミが置かれている飾り棚を見ながら訊いてみたら、お姉ちゃんは口許をヒクヒクさせながら快くロッティが一緒に行くのを許可してくれた。


 お兄ちゃんと一緒に遠くまでお出かけするのは初めてなのでとても楽しみにしていたのに、王都を出るまでお兄ちゃんと接触するのを禁止だってシャズナお姉ちゃんに言われた。


「なんで!?」

「何回も同じこと言わせないでよ。王様に呼ばれたのはイーノックだけ。王の招聘だから家から王都までの道中はキッチリ管理されていて、王都へ向かう日程も、泊まる場所も、同行する人員も決まっているの」


「やだ! お兄ちゃんと一緒に王都行きたい!」


「あのねぇ、許可もなく割り込もうとしたら王命反抗の現行犯になるのよ。王都から出る護衛隊に私たちが紛れ込む許可はもぎ取れたし」


「やだ! 一緒がいい!」


「魔王を捕まえた後の凱旋時なら一緒にいてもいいみたいだからそれまで我慢し「やだ!」って、姉さんもこのワガママっ子に何か言ってやってよ! 私の言う事なんて全然聞きやしないんだから!」


「えっと……シャズナが誰かにワガママだって言うのは色々と感慨深いものがあるな」


「私への感想を言ってくれなんて一言も言ってないんだけど!?」


 どんなにお願いしてもお兄ちゃんとの同行はダメなったので魔族領に入るまでは色々ストレスが溜まったけれど、最終的にこの計画は珍しく成功した。


 ロッティたちがさくっと東方魔王(臨時)を連れてきたのでお兄ちゃんは護送隊のキャンプ地から一歩も出ないまま討伐は終了。

 お兄ちゃんに実戦の経験をさせないというロッティたちの目的も達成です。


 討伐隊を率いていた隊長さんたちが肉団子になっちゃっていたので軍階級が一番高いメルセデスお姉ちゃんが護送隊を指揮して王都に帰還すると、勇者が魔王を従魔にしたという話題が王都であっという間に広がって「やっぱ勇者すげぇ!」って掌返しで町中大盛り上がりです。


 ところが、翌日になって実際はメルセデスお姉ちゃんが魔王をしょっ引いて来て、肝心の勇者はテントから一歩も出てないって話が広がると、返した掌をもう一度ひっくり返して「勇者、全然ダメじゃねーか!」って失望されて、最後には笑い話になったとか……。


 世評の変化の様子を聞いて「上げてから落とすって手段も有効よね」って含み笑いをするシャズナお姉ちゃん。

 一時的にお兄ちゃんの評判が良くなったのも、時間差で悪評が拡散したのも全部シャズナお姉ちゃんの『仕込み』だったようです。


 シャズナお姉ちゃんはこの後も色々と罠を張り巡らせるようだけれど、ロッティ的にはもう良いかな? って感じです。


 だってお姉ちゃんたちと遊ぶのは面白かったけれど、最近ちょっと飽きてきました。


 もちろんお兄ちゃんが死んじゃうのは絶対嫌。

 でも、なんだかんだでお兄ちゃんは死なない気がする。


 そう思うようになったのは、今回の道中が暇すぎて『もしロッティが魔王で、物理戦闘もメルセデスお姉ちゃんくらい得意だったらお兄ちゃんに勝てるかな?』って考えてたんだけど、何度考えても『あ、お兄ちゃん強すぎて殺せない』って答えになったからだと思う。


 逆に大魔王抹殺の方法なら一分も掛からず思いついた。

 お兄ちゃんが大魔王と戦っている真ん中にロッティが海を燃やしたときのような爆発を起こせば、爆発後の煙が晴れた爆心地には全裸になったお兄ちゃんだけが立っているはず。


 とっても簡単☆お手軽抹殺♡


 もし大魔王もお兄ちゃんと同じ体質を持っていたらいい勝負になるかもだけれど、それも今の時点では怪しい。


 魔王領に入るときに一緒にいた護衛隊の騎士たちは探知魔法で大体の強さがわかった。


 騎士の人たちの強さを数字にすると一〇〇くらい。んで、肉団子になってた団長さんたちが一二〇、魔族の四天王さんが三〇〇。メルセデスお姉ちゃんがたぶん四万オーバーで、お兄ちゃんが三万五千くらいかな。


 うん、桁がおかしいよね。

 強さの差が倍とか十倍とかならまだ分かるけど、百倍以上って……。


 単純な強さ比較ならまだまだお姉ちゃんのほうが強いけどお兄ちゃんには魔力完全無効化の体質があるので実戦だとたぶん無敵。

 ちょっとだけ弱点があるとしたら、お兄ちゃんが魔術を使うための必須アイテムになっている祝福の加護がついた金属武器を持っていないってことくらいかな?

 今の『祝福されし棒』だと一度の消費魔力量が多い魔術を使おうとすると強度が足りずに割れるので、使えるのに使えない魔術がいっぱいあるみたい。


 ロッティは戦闘訓練をしている人はお兄ちゃんたちくらいしか見たことが無いので、これが普通だと思ってたけど、比べられる相手をたくさん見たのでやっとわかった。


 お兄ちゃんもお姉ちゃんも普通じゃなかった。

 普通じゃないのはロッティだけじゃなかった。

 以前お父様が「私の子供に普通な子はいないんだ」って言ってたけどマジだった。


 メルセデスお姉ちゃんは戦闘力が普通じゃない。

 シャズナお姉ちゃんは普通に普通じゃない。

 お兄ちゃんは無敵っぷりが普通じゃない。

 ロッティは生まれた時から普通じゃない。


 お兄ちゃんが大魔王と戦う時はきっとロッティたちも一緒なので、大魔王はお兄ちゃんとロッティたち姉妹を同時に相手にしなきゃならないわけで……なんだかちょっと可哀想。

 大魔王がどんなに強い魔物なのか知らないけど敗北以外の未来が全く見えない。




 王都で魔王討伐の後処理を終わらせて、ようやく領地に帰る途中でお兄ちゃんは思いつめた様子で大きなため息を吐いた。


「どうしたの?」


 馬車の中でお兄ちゃんに腕にしがみついたまま見上げると、お兄ちゃんは弱々しく首を振りました。


「討伐に出たのに結局一度も戦わないまま帰って来てるからさ……なんだか自分が情けなくて」


 この大型の馬車の中にいるのはお姉ちゃんたちとお兄ちゃんとロッティと、あとペット兼従魔の元魔王。


 メルセデスお姉ちゃんお兄ちゃんの独白に痛ましそうな表情をしたけれど、シャズナお姉ちゃんはちょっとだけ口の端をニマッとさせていた。

 さすがシャズナお姉ちゃん。揺るぎない。


 でもロッティはこういうのはもう嫌なのでお兄ちゃんには本当のことを教えることにした。


「お兄ちゃん、あのね、お兄ちゃんは本当は強いんだよ?」


「――っ!?」

「ちょ、ロッティ!?」


 お姉ちゃんたちが慌ててるけれど、もう言っちゃったからしょうがない。


 本当の事を知ったお兄ちゃんは驚いた顔をしてロッティを見ていて、そしてふふっと優しく笑った。


「ロッティは優しいな。俺なんかを強いって言ってくれるなんて」


 あ、信じてない。


「違うよ? 本当にお兄ちゃん強いよ! 本気で戦ったら誰もお兄ちゃんには勝てないよ!?」

「そっか、ありがとう」


 頭をナデナデしてくれた。


 あ、全然信じてないよ。この感じは。


 私を撫でているお兄ちゃんの後ろでメルセデスお姉ちゃんは微妙な苦笑いをしていて、シャズナお姉ちゃんはホッと大きな胸を撫で下ろしていた。


 このままだといくらロッティが『お兄ちゃんは強い』と言っても信じてくれそうにないので、新しく飼うことになったペットにも証言してもらうことにした。


「ね、この中で一番強いと思う? 元魔王だからわかるよね? 誰が一番怖い?」

「え!? 怖い人? えっと……この人だよ」


 元魔王は指先を震わせながら指差したのはシャズナお姉ちゃん。


「違うの! そういう意味での『怖い人』じゃなくて、戦ったらヤバそうな人のこと!」


「あら、『そういう意味』ってどういう意味なのか気になるわね」


 シャズナお姉ちゃんからの冷たい目線を無視して元魔王に「ほら、誰?」ってせっついたら、元魔王はロッティたちを順に見てから「?」と首を傾げた。


  ……ダメっぽい。この子は元魔王なのに相手の力量を量る魔術を持ってないらしい。強さを察するほどの戦闘経験も無さそう。

 でもロッティがどんな答えを求めているのかを察して、元魔王はおずおずとお兄ちゃんを指差した。


 良い子。あとで角砂糖あげよう!


 それなのにお兄ちゃんはロッティに見せたのと同じ力のない笑顔を浮かべて元魔王の頭を撫でた。


「ネギは場の空気を読める子なんだね。ありがとう」


 あぁ、もう。どうやっても信じてくれない!


 もどかしくてイライラ。

 お兄ちゃんの横でこっそりと含み笑いをしているシャズナお姉ちゃんにもイライラ。


 ロッティがイライラしているのをお兄ちゃんは漏れ出ている魔力の多さで察したみたいで、もう一度ロッティの頭を撫でてくれた。


「ごめんなロッティ、兄ちゃんが弱音を吐いたばかりに変なふうに気を遣わせちゃって。兄ちゃんはこれからも一生懸命訓練して、いつか本当に強いんだって言えるようになってみせるよ」


 お兄ちゃんは決意を新たにしたキリリ顔でロッティを見つめながら拳を握った。


 ……あ、あれ? ロッティ、なんか余計な事をしちゃった?


 お兄ちゃんの横にいるシャズナお姉ちゃんが『ね、これどう責任取るのよ?』って言っているようなジト目でロッティを見てるし、向かいの席にいるメルセデスお姉ちゃんは「これ以上強くだと!?」って小さく呟きながら頭を抱えていた。


 ……うん。こうなったのはきっと託宣の強制力が働いた結果だよ。

 ロッティ悪くないよ。託宣のせいだもん。しょうがないね!


 この後ロッティは宿泊予定の村に着くまでずっとお外の景色を見ていた。

 お姉ちゃんたちからの視線をずっと後頭部に感じてたけど、きっと気のせい。

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