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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第二章 姉たちがイーノックが大好きで過保護になったワケ
56/100

お兄ちゃんはロッティとイチャイチャすることを頑張って

「そ、それじゃあイーノックの死の託宣は避けられるのかい!?」


 メルセデスお姉ちゃんが縋るように聞くとシャズナお姉ちゃんはゆっくりと首を横に振った。


「ううん、たぶん違う」

「どういうことだ? シャズナは今変えられるって――」


「このまま何もしなかったらきっと託宣通りの未来が待っているわ。だって神様がわざわざ人類に知らせた内容だもの。少しくらい状況が変わってもその変化に反応して周囲も変わるから結局は神が視た未来と同じ結果になるように収束していく。いわゆる『因果律』が作用するわ。別の表現をするなら『託宣の強制力』と言うべきかしらね」


「託宣の強制力……。イーノックを厳しく鍛えて大魔王より強くする方法はダメなのだろうか。そうすればイーノックもわざわざ自爆戦法を選ぶことはないだろう」


「その程度の変化なんて常識の範囲内よ。それじゃあ託宣の強制力から逃げられない。きっとイーノックをいくら強くしても大魔王が同じくらい強くなるから差は縮まらないでしょうね」


「常識の範囲内がダメなら、非常識な事をお兄ちゃんにすればいいの?」


 シャズナお姉ちゃんが得意そうに喋っているのがイラッとしたので、ロッティがからかい半分でそう言ったらシャズナお姉ちゃんはパチンと指を鳴らしてロッティを指差した。


「珍しく正解よ」


 ……イラッ。


 どうしてシャズナお姉ちゃんってばロッティの気分を逆なでするのがこんなに上手なんだろう。


「ロッティが言った通り、イーノックに対して普通では有り得ない、それこそ神ですら『ちょ、おま!? 何てことするんだよ!』って驚くくらい非常識な干渉をしてイーノックに影響を与えないと託宣の強制力からは逃れられないわ」


「具体的には?」


「簡単よ。姉さんがさっき言った常識的な事と真逆の行動をとればいいのよ」

「真逆?」


「イーノックをドロドロに甘やかして、勇者として、いいえ、人間としてダメなくらい一人では何もできないポンコツな子に育てるの」

「……はい?」


「そよ風すら当たらないほど保護された環境でぬくぬくと育てて闘争心を溶かしきるの。そうすればイーノックは大魔王と戦おうなんてしないわ。そして、間違っても人類のために自己犠牲を選ぶような高潔な精神を持つ勇者じゃなく、ゴブリンの子供を見ただけでも仲間を置き去りにして逃げ出すような卑怯で臆病な子に育てるの!」


「そ、それはイーノックのためにならないんじゃないかな……」


「でしょ? だからこそ有効なのよ。神だって『そんなの想定外だ!』って驚くはずよ。勇者に選ばれた子だけれど、魔物と戦わせない、実戦経験は積ませない、それを基本方針としてイーノックを甘やかしながら育てれば『託宣の強制力』の射程範囲外に逃げることができるはず」


「お兄ちゃん勇者なのに一度も戦わせないの?」


「そうよ。イーノックには一生実戦童貞でいてもらうわ」


「そんなふうにイーノックを育てて大丈夫なのだろうか? もし『託宣の強制力』とやらで無理矢理大魔王と戦うことになったらどうするんだ」


「そういう時こそ『託宣の強制力』が私たちにとって有利に作用するわ。託宣ではイーノックと大魔王が戦うと相討ちになるんでしょ? 甘々な環境でゴブリンにも負けるくらいヘナチョコに育てたイーノックと『互角』に戦う大魔王って存在するのかしら?」


「あ、なるほど。イーノックが弱くなると逆説的に大魔王も弱くなるのか……。確かにそんな弱い大魔王なんているはずがないし、もしいたとしてもそれなら私が瞬殺できる」


「どお? 完璧じゃない?」


「シャズナお姉ちゃんすごい! 賢いよ! 成長してるのおっぱいだけじゃなかったんだね!」


「褒められるのは嬉しいけれど、妹に『成長してる』って言われるのは微妙な気分になるからやめてくれる?」


「では姉である私が褒めよう。シャズナのおっぱい凄い勢いで育っているじゃないか。良い発育っぷりだ。私もそこそこ育っていると自負しているのだがそろそろ追い抜かれそうだよ」


「あれ? さっきの褒め言葉の中から『賢い』って部分が抜けちゃっているんだけど? どういうことかしら」



 この後、ロッティたちはどうやってお兄ちゃんを甘やかしてダメにするかを話し合って、それぞれの役割を決めた。


 基本の甘やかしは全員が担当。

 その他の活動はそれぞれに出来ることを中心にやっていく事が決まった。


 お兄ちゃんが冒険者になっても活動できないようにギルドへ圧力をかけるのがメルセデスお姉ちゃん。


 武術にも魔術にも苦手意識を植え付けるために時々お兄ちゃんと模擬戦をして自信をへし折るのがメルセデスお姉ちゃんとロッティが担当。


 ロッティたちにボロ負けして自信を無くしたお兄ちゃんに「もう努力しなくても良いのよ。イーノックだけが辛い思いをする必要なんてないわ。イーノックは被害者なの。悪いのは魔王なんて存在がいるこの社会なんだから」って甘い言葉で堕落するように誘惑するのをシャズナお姉ちゃん。


「あまりに適材適所すぎて脳が震えそうだ」


 そう言ったメルセデスお姉ちゃんの言葉がやけに耳に残った。


 お兄ちゃんを託宣の死から守るための姉妹同盟が締結されたこの日からロッティたちはお兄ちゃんを全力で甘やかすようになった。


「そんなに頑張らなくていいんだ。無茶は良くないぞ」


「お姉ちゃんに何かしてほしい事はあるかしら? なんでも言ってね」


「勉強をしなきゃいけないの? それ明日じゃダメなの? それよりロッティと一緒にお昼寝しようよ」


「弟に厳しい事は言いたくないのだが、武術は嗜み程度でいいんじゃないだろうか。武術はある程度までいけばやはり才能が必要でね……それ以上は私の口からは言えない。察してくれ」


「わぁ、もう初級の火魔法が出せるようになったのね。偉い偉い。もう魔術の修得は十分でしょ。これ以上練習する必要はないわね。それじゃあ火魔法ができたお祝いに一週間ほど旅行でも行きましょうか」


「ほらね? 魔法じゃどんなに頑張ってもお兄ちゃんはロッティに勝てない。でも気にしなくていい。魔法の事ならお兄ちゃんの代わりにロッティが頑張るよ。その分お兄ちゃんはロッティとイチャイチャすることを頑張って」


「魔王を倒せるのは自分だけって考えるのはある意味で傲慢じゃないのかしら。人類はそんなに弱くないわよ。何かあってもきっとイーノックより強い誰かが何とかしてくれるわ。今日の訓練はもう終わりにしましょう? 次に頑張るのはヤル気になった時でいいんじゃない?」


 思いつく限りロッティたちはお兄ちゃんを甘やかして、時に厳しく自信を折った。

 そしてお兄ちゃんを堕落させるためのシャズナお姉ちゃんの誘惑が本気過ぎてドン引きだった。


 もちろんシャズナお姉ちゃんが考えた『ダメ人間計画』はこれだけじゃない。


 シャズナお姉ちゃんはお兄ちゃんの悪口が国中に広まるように工作を始めた。


 もし魔族軍が攻めて来てもお兄ちゃんが招集されないように『今の勇者は弱くて使い物にならない』という内容の噂をばら撒いて良くないイメージを定着させ、民衆からの期待を最底値に下げるのが目的らしい。


「『そんな弱いのなら俺に勇者の称号を寄越せ! 数々の武勇伝を持つ俺の方が勇者と呼ばれるべきだろう!』ってイキってくる人が現れるようになれば大成功ね」


 そう言って最高の微笑みを見せたシャズナお姉ちゃん。

 最近は『聖女』の通り名が定着しているようだけど、ロッティは魔王よりもシャズナお姉ちゃんのほうが悪どくて怖いんじゃないかなって思っている。


 シャズナお姉ちゃんは神殿で行われた適正職判定でも暗躍していて、適正値が最も低かった『召喚士』がお兄ちゃんの適正職だと示した偽の判定用紙まで用意していた。

 さすがシャズナお姉ちゃんである。やることが黒くて容赦がない。


 ちなみに、お兄ちゃんの本当の適正職は二十以上もあってその中でも一際高かったのが『聖戦士(パラディン)』と『魔導士【全属性】』と『主夫』だって事はロッティたちだけの秘密。

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