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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第二章 姉たちがイーノックが大好きで過保護になったワケ
55/100

ロッティにそんな知恵を求められても困る……

「メルセデスお姉ちゃん。なんで今まで教えてくれなかったの!?」


 託宣はロッティが産まれた翌日に伝えられているんだから、もう六年前の話だ。


「あの時は聞き間違いであってほしいと思っていた。それからずっとそうであってほしいと願っていた。だからお前たちには黙っていた」


「じゃあ、なんで今ごろになって言うのよ!?」


「私が次期当主に指名されたからだ。それで私が聞いたあの会話は聞き間違いではないと確信したし、父さんたちがあの託宣についてどう考えているのかが分かった」


 なんでそこで当主の指名の話に飛んだのか分からなくて首を傾げた。


「託宣の全文を聞いた父さんたちはイーノックがいずれ大魔王と戦って命を落とすことを知っている。勇者が魔王に挑む時期は決められていないけれど歴代勇者は早くて十七、八歳。遅くても二五、六歳で魔王との決戦をしている。であるならばイーノックが生きていられるのは長くても二五、六までということだ。侯爵家としてはそんなに若いうちに死ぬと分かっている息子を跡継ぎには出来ない」


 え、えっと、それはつまり……、


「父さんたちはイーノックが戦死する未来を託宣で知っているから、この家の次期当主をメルセデス姉さんに指名したのね」


 シャズナお姉ちゃんの声が少し震えていた。


「我が国において貴族の後継はよほどのことが無い限り男児が相続するという不文律が浸透している。継嗣(けいし)となる男児がいない場合や、いても身体的に跡継ぎが作れない場合に女児でも相続することもあるけれど、イーノックに健康上の問題がないのに長女の私が次期当主に指名されるのはあまりにも異常なことだ」


 メルセデスお姉ちゃんは爆発して細切れになっているヌイグルミの欠片をクズ籠に捨てながら深々とした溜息を吐いて肩を落とした。


「父さんたちはイーノックが大魔王と共に死ぬことを運命として受け入れている。父さんたちはイーノックを見捨てたんだ。大貴族としての責任を考えれば仕方のないこととはいえ、私を次期当主に指名したということがその(あかし)だ」


「お兄ちゃんにはもう話したの? このこと」

「言えるわけがない。私は可愛い弟の顔が絶望に歪むのなんて見たくはないんだ」


 メルセデスお姉ちゃんは身体を投げ出すようにソファに腰を下ろして頭を抱えた。


「みんなのお姉ちゃんである私が独力でどうにかできる問題ならなんでもやってのけるつもりでいた。けれど私にはもうどうしていいか分からない。頼む、おまえたちも一緒に考えてくれ。託宣で示されたイーノックの死を回避するためにはどうしたらいいかを一緒に考えて欲しいんだ」


 ロッティにそんな知恵を求められても困る……。


 お姉ちゃんもロッティには難しい課題だと分かってたみたいで、ツツッと横に向いた目の動きに引かれてロッティもシャズナお姉ちゃんへ目を向けた。


 シャズナお姉ちゃんは今の話に打ちのめされて仰け反るように椅子の背もたれに寄り掛かって天井を見上げていた。

 ロッティたちの視線なんて気にもかけないで、まるで海岸に打ち上げられたトドのようにぐったりと呆けてしまっている。


 どう見ても締まりのない顔をしているのにシャズナお姉ちゃんからは謎の緊迫感が漂っていて、なんとなく話しかけにくい雰囲気にロッティたちの会話は十秒近く途切れた。


 ロッティとメルセデスお姉ちゃんが視線を交わして『どうしようか?』みたいな無言のやり取りをしていたら、何の前兆も無く目に光を戻したシャズナお姉ちゃんが「託宣とは……」ボソリと呟き始めた。


「託宣とは未来に起きる事象の一部を神が人に伝える言葉のこと。人類を守護している神々が人類全体のターニングポイントになりえる大切な事件・事象についてあらかじめ教えてくれる。いうなれば託宣とは未来の歴史。私は教会で託宣はそういうものだと教えられたわ」


 シャズナお姉ちゃんが天井を見上げた姿勢のまま喋っているのでちょっと気持ち悪い。


「姉さんたちの託宣に関する知識もそれで間違ってない?」


「あぁ、託宣については私も同じ認識だ」


 ロッティはそこまで詳しく知らないけど、とりあえず頷いておいた。


「でも、おかしいのよ。その定義」


 仰向けのまま喋り続けているお姉ちゃんのほうがよほどおかしいと思うよ。


「姉さん、次期当主に選ばれた表向きの理由の中に『戦姫(いくさひめ)と呼ばれるようになった』って文言もんごんがあったわよね」


「あ、あぁ、そうだ。最初は魔物討伐に同行している騎士団の連中が仲間内で言っていただけなのだが、先日のワイバーン討伐で王国の公式記録に私のことを『戦姫』と称える記述がされたらしい」


「ふぅん? でも姉さんのことを『戦姫』と呼んだ最初の人物は騎士団の仲間じゃないよね」

「え?」


「覚えていない? 姉さんのことを初めて『戦姫』と呼んだのは、託宣を伝えに来た三聖人の一人、小人族のプピさんよ」

「……あ!」


「あの時の会話なら私も聞いていたけれど、確かこんなふうに言ってたわよね。プピさんが姉さんのことを将来『戦姫』と呼ばれるようになる子だと言ってて、それを聞いたおじいちゃんの聖人カンブリさんが怒ったのよね。未来が変わるから教えるなって」


「未来が……変わる!? そうだ、あの時確かにそう言っていた!」


 メルセデスお姉ちゃんの驚いた声を聞いてシャズナお姉ちゃんはにやぁと口を三日月のように曲げながら上体を戻して、舐めるようにねっとりとした視線で私たちを見る。

 その仕草はとても気味が悪くて、まるで絵本の中の『魔女』のようだった。


 そんな気味の悪いシャズナお姉ちゃんなのに、なぜかお外での評判はとても良いらしい。


 世間ではお姉ちゃんのことを『清らかな乙女』だとか『慈愛に溢れているシスター』だとか言われているそうで、最近じゃあ『聖女』とも言われているのだとか。


 こないだ家の中で「ふふっ、これであの教区の主要メンバーも私のシンパね。世の中ってチョロイわぁ~」って、まるで悪徳商人のような含み笑いしていた『聖女』さんは、あの時よりももっと悪どい顔で笑っている。


「託宣を運ぶプロの聖人が『未来が変わる』って言ってたんだから、託宣で示された未来は確定している未来じゃない。託宣は、未来は人の意思で変えられるのよ」

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