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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第二章 姉たちがイーノックが大好きで過保護になったワケ
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ロッティはそこまで危なくないよ

 メルセデスお姉ちゃんの部屋に行くとシャズナお姉ちゃんが先にいた。


 初めて入ったメルセデスお姉ちゃんの部屋は可愛いヌイグルミがいっぱいあってちょっとお姉ちゃんのイメージには合わなかったけれど、きっと子供の頃に貰ったのを今でも大切にしているんだろう。

 ロッティもヌイグルミは欲しいけど、触ろうとすると燃えちゃうので諦めている。


「あれ? お母様は?」


 お父様は療養で王都に行っているけれど、お母様は家にいるはず。


「母さんには声をかけていない。むしろ母さんには聞かれたくない話をこれからするんだよ」


 さっきからお兄ちゃんが死ぬとか、お母様には聞かれたくないとか……なんだか今日のメルセデスお姉ちゃんは怪しい。


「ロッティはここに座って」


 お姉ちゃんはロッティが座れるように椅子にエンシェントドラゴンの革を敷いてくれた。

 この革なら魔力耐性がかなり高いのでロッティが座っているだけなら三時間は耐えられる。


「さて、可愛い妹たちにご足労願って恐縮だが、今夜は大切な話合いをしたいと思う。先に議題を述べておくが、話し合う内容は『どうやったらイーノックを死の運命から救えるか』だ」


 死の運命?


「次期当主に指名されたからって舞い上がって私たちに偉そうなことを演説するつもりなのかと思ったら、それ以上に不快な話題でビックリだわ。なんなの? なんでそんな不吉な事を言うのよ」


 さっきからずっと黙っていたシャズナお姉ちゃんが不機嫌さ全開でメルセデスお姉ちゃんに強い言葉を投げつけた。そしてその言葉の中に気になる事が混じっていた。


「次期当主? メルセデスお姉ちゃんが? ウチの跡継ぎってお兄ちゃんじゃないの?」


「今日の昼に母さんから次期当主は私にするって指名された。王都にいる父さんと連絡を取り合って決めたらしい」


「え? じゃあお兄ちゃんはどうなるの? 追放? いらないのならロッティが飼いたい」


「イーノックが捨て犬みたいに放逐されるわけじゃないからそんな心配はしなくていいよ。あと、兄を飼うというのはやめなさい。その発想はまるでシャズナだ」


 ロッティはそこまで危なくないよ!?


「イーノックを廃嫡するなんて、まさか私のイーノックに不満があるとでもいうのかしら、あの毒親は」


「親をそんなふうに言ったらダメだぞシャズナ。ロッティが真似したらどうする。母さんたちの話では、イーノックに対する評価が低くなったせいで私が次期当主に指名されたわけではない。むしろ逆なんだそうだ」


「逆? どゆこと?」


「イーノックは勇者の託宣を受けている。託宣通りなら将来イーノックは人類と神の敵である魔王を倒す偉業を成し遂げることになる。その功績は普通の貴族であれば爵位が二つほど上がる巨大なものだ」


「でしょうね。それで?」


「しかしバーグマン家は既に臣下では最高位の侯爵位に就いている。これ以上の陞爵しょうしゃくは望めない。だから母さんたちは魔王討伐の功績をもってイーノックと現王の一人娘と結婚させようと企んでいるそうだ」


 えっと……話が難しくてロッティにはわかんないんだけど……。


「つまりイーノックを次期当主に指名しないことで、いつでも王家に婿入りできる状態にしているってこと? それでバーグマン侯爵家次期当主の座がいつまでも空席だと問題があるからメルセデス姉さんに座らせた?」


「そういうことだ。表向きな理由は『戦姫』と呼ばれるようになった私の方が能力的に次期当主に相応しいという声明を出すようだけれど、父さんたちの本当の思惑はイーノックと王女との結婚、そして王位継承を狙っている」


 メルセデスお姉ちゃんの話を聞いたシャズナお姉ちゃんは音もなく立ち上がった。


「ロッティおいで。これから一緒に、お姉ちゃんと一緒に、母さんを殴りに行こうかぁ」

「うん。ロッティ全力出す。やぁーやぁーやぁー」


「待て。気持ちは分かるけど話はまだ途中だ。座れ二人とも」


「イーノックが私以外の女と結婚とか、これ以上不快な話を聞く気にはなれないんだけど?」

「あ、うん。今の発言の内容はとりあえず流しておくけど、母さんが私に説明した『王座狙い』もフェイクの可能性が高いんだ」


「……は?」


「それについて詳しく話すから二人とも座ってくれ」


 元々まじめなメルセデスお姉ちゃんが真剣な顔を向けてきたので、ロッティたちはその無意識の威圧に負けたような感じで座り直した。


「なるべく簡潔に伝えたいので先に私の推論を言っておく。今回私がバーグマン侯爵家の次期当主に指名されたのは、私の能力が高いとか、イーノクの婿入り狙いとか、そんなのは全く関係ない。イーノックが魔王との戦いで死ぬことが分かっているから母さんたちは私を後継者に据えた。ということだ」


「はぁ!? 『死ぬことが分かっている』ってどういうこと!? なんでそんなことが分かるのよ!?」


 シャズナお姉ちゃんが反射的に声を大きくして聞き返した。ロッティは驚きすぎて喉が詰まって声も出せなかった。


「未来にどんなことが起こるかなんて誰にも分らない。普通ならそうなのだが、私たちは分からないはずの未来を知っているだろ?」


「なんのこと? 未来のことなんて――」


「分からないなんて言わせないよ。私たちはイーノックが将来魔王と戦うことになる未来を知っているじゃないか」


 メルセデスお姉ちゃんが何を言おうとしているのかロッティには全然分からなかったけど、シャズナお姉ちゃんはハッと何かに気づいて口を半開きにした。


「まさか……託宣が関係している話なの?」


 メルセデスお姉ちゃんは頷いた。


 それならロッティも三聖人という人たちが来てお兄ちゃんが勇者だって託宣を伝えに来たという話なら知ってる。


「託宣を三聖者から直接聞いたのは父さんだけだ。私たちは父さんから託宣の内容を聞かされた。その場にいた家族は私とシャズナとイーノックの三人。ロッティを産んだばかりで意識が回復していなかった母さんには翌日になって父さんから知らされた。でも、その時父さんが母さんに話していた託宣の内容は私たちに伝えた託宣とは違っていたんだ」


「待って。なんで姉さんがそれを知ってるのよ」


「私は託宣がもたらされた次の日の朝、日課のランニングを終えて着替えを取りに部屋に戻った。その途中、母さんの容体が気になって様子を見に母さんたちの部屋に寄ったんだ。その時ちょうど父さんが母さんに託宣の内容を伝えているところだった」


「その内容が私たちに教えた内容と違っていた?」


「あぁ。正確には託宣の一部を父さんは意図して私たちには隠していた」

「どんな内容? 早く教えて。お預けされるの嫌い」


 体をうずうずさせる動きに合わせて身体の表面にまとわりついている魔力がバチバチ弾ける。あぁ、やっぱり先にお兄ちゃんに抱きついて魔力をぶち撒けてから来るんだった。


「『なんじの息子イーノックは勇者となりて四人の魔王を下し、最後に大魔王をも打ち破るであろう』そこまでが私たちが知っている託宣の内容だ。けれど父さんが母さんに伝えた託宣はそこで終わらない。『しかしその功績は報われることなく、大魔王が命を落とす同じ日に勇者イーノックもまた尊き人生を終えるであろう』と続いていたんだ」


「イーノックが大魔王と戦って相討ちになるってこと!?」


「わからない。考えられるケースは強すぎる大魔王との戦いで命と引き換えで発動するような強力な技を放ったとか……。イーノックの真っ直ぐすぎる性格を考慮すればそれが一番可能性が高い」


「お、お兄ちゃん、死んじゃうの!? やだ、そんなのやだよ!」


 ロッティの周りで魔力がパパパンと弾けた。近くにあったヌイグルミが何個か爆散して「あああぁ! チャーリーが! パーシフルがぁ!」って姉さんは悲鳴を上げたけれど、そんなの気にしていられない。

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