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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第二章 姉たちがイーノックが大好きで過保護になったワケ
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どこで間違えたのかしら!? 私、この子にどう言ってあげれば良かったのかしら!?

 そして私の思考は最初に戻る。


 どうやったらメルセデス姉さんに勝てるか。


 お互いの戦力を簡単に比較すると、

 姉さんは武術で国内最強、魔術で上級冒険者クラス。

 対して、私は武術も魔術も普通より良い程度。


 ……突破口が無さ過ぎる!


 私が頭を抱えると前の方からため息が聞こえた。

 顔を上げると母さんが呆れたふうに私を見ている。

 あ、お母さんがいたんだった。忘れてた。


「あのね、いい機会だから母さんはあなたの暴走を軌道修正したいと思うの。今は斜め上に突っ走っているからアレだけど、その一心不乱な突進力があればどんなことだって楽勝でできるようになるはずよ」


「何を言っているのかさっぱりわかりませんが、私は今メルセデス姉さんに勝つ事だけを考えているので余計な事は――」「メルセデスに勝つ方法を教えると言ってもあなたは無関心でいられる?」「さすが私のお母様。尊敬しています」


「う、うん。その切り替えの早さは大切よ」


「それで、姉さんに勝つ方法とはなんでしょう? 私のワガママが通せるほどの勝ち方が出来るんでしょうか?」


「そういう聞かれ方をされたら教えたくなくなるんだけれど、確かにその力を手に入れればどんな要求だって通すことができるわよ」

「なんですかそれは!?」


「『権力』よ」

「権力?」


「この国で一番強いのは誰だと思う? 武力を誇る騎士団の精鋭? 強大な魔術を操る宮廷魔術師? 違うでしょ、そんな彼らにどんな命令でも下せる人がいるんだから。そんな彼らより立場が上の人がいるんだから。さて、その人物とはいったい誰でしょう?」


「騎士団や宮廷魔術師よりも……王様?」


「正解。でもよく考えてみて? 王様は騎士団の精鋭と戦って勝てるかしら? 宮廷魔術師より強大な魔術を操れるかしら?」

「あ……そっか」


 目から鱗とはこの事だ。


 いくら武術や魔術を極めても勝てない力がこの世にはある。それが権力!

 権力さえあればどんな理不尽な命令でも押し通すことが可能!


「あなたがメルセデスに勝つには、あの子よりも上位の地位に就くのが最も確実な方法だと思わない? この方法なら武力や魔力なんて関係ないもの」

「確かに!」


 今はまだ私もメルセデス姉さんもバーグマン侯爵家の子供というポジションにいるから地位に差を感じることは無かったけれど、大人になればどうなるかわからない。


 あの姉さんなら易々と近衛騎士団の団長くらいにはなるだろうし、国軍を預かる将軍職にも手が届くだろう。


 それに対して私は特別な技能なんて無い。約束された役職も無い。

 けれどそんな事は関係ない。

 だって権力は運と世渡りの上手さで得られるものなんだから!


「権力を手に入れる一番お勧めの方法は王位に最も近い人との結婚よ。ウチの家格なら相手が王族だろうが問題なく嫁入りすることができるからシャズナはもっと積極的に社交界へ――あれ? ちょっと、シャズナ聞いてる?」


 権力を得るには二つの方法がある。


 一つはすでに大きな権力を持つ人の庇護下に入るという方法。

 もう一つは、多くの人からの支持を受けて大きな組織の中で出世するという方法だ。


「それでね、母さんはシャズナにお勧めしたいお見合いがあるんだけど……ねぇ、お願いだから母さんの話を聞いて?」


 権力者の庇護下に入る方法は迷うまでもなく却下。


 だって私が戦う相手はメルセデス姉さんだ。

 姉さんなら変に工作しなくても相当高い地位に登りつめるだろう。


 私が庇護を求める相手が常に姉さんよりも高い地位にいて、しかも私の都合で敵対することも受け入れてくれる権力者なんているだろうか?


 いるはずがない。普通の権力者なら庇護下にある部下の望みを叶えるよりも安定して高い地位にいる姉さんとの友好な関係を望むだろう。

 そうなると私は自力で権力を勝ち取らなければいけない。


 将来は国防関係で頂点に立つことが約束されているようなメルセデス姉さんと権力争いをして勝てるかと問われれば、それも難しい。


 けれど『権力』は一つしか無いわけではない。


 世の中には『王』の他に『教皇』という権力者がいる。

 王が政治権力の頂点だとすれば、教皇は宗教権力の頂点だ。


 王権の下で重陽されることが確実視されている姉さんと同じ舞台で権力争いをするのは分が悪いけれど、舞台の違う宗教権力の世界で出世を目指すのならば私でも勝負ができる。


 さすがに教皇になれないにしても地方教区の司教クラスになれば国軍を預かる将軍と同程度の権力。出世のスピード次第では私の方が常に姉さんの上に立てる状態に持ち込める。


 良い。

 これは良い方法だわ!


 今考えたばかりの案だけれど、これならもう一つの問題も片付けることが可能になる。


 もう一つの問題とは『近親結婚の禁止』だ。


 これは結婚を統括する教会が定めた決まり事で、これが禁忌とされている限り、私とイーノックはどんなに熱々の相思相愛でも結婚することが出来ない。


 こんな理不尽な禁忌も私が教会内で出世すれば変更することが可能!


 素晴らしい。

 実に素晴らしい。


 さっきまで暗闇の中に閉ざされていたような気分だったけれど、今はまるで天啓で進むべき道を照らされた使徒になったような気分。


「母さん。私、権力を望むわ」

「あ、ちゃんと聞いていてくれていたのね。それでね、私がお勧めするお見合いの相手は先代の王の――」


「だから私、教会に入ってシスターになる!」

「え!? ちょっと、どうしてそうなるの?!」


 私に素晴らしい未来を教え導いてくれた母さんはなぜか頭を抱えて悶えていた。


「どこで間違えたのかしら!? 私、この子にどう言ってあげれば良かったのかしら!?」


 さっきまでの私みたいに悩み始めた母さんだけれど、母さんのことだからきっと自分で解決するだろう。

 私はカップに残っていた紅茶を一気に飲み干して外出の準備に取り掛かった。


 よしっ、今日中に入信の手続きを済まそう。


 一日でも早く出世の階段を上って姉さんの上に立ち、禁忌を改正して一日でも早くイーノックとの結婚を実現させるのよ!

 一秒だってぐずぐずしている暇はないわ!


 歩き出した私は脇腹に鈍く痛みを感じたけれど、今はその痛みでさえ前に進む原動力に変換することが出来た。

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