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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第二章 姉たちがイーノックが大好きで過保護になったワケ
45/100

姉さんに対してワガママを押し通せる圧倒的な力が欲しいんです

 翌日。


 朝食を運んできたメイドから三聖人は朝早くにそれぞれ別の場所へと旅立ったと知らされた。


 私はその報告を「ふーん」と聞き流した。

 そんなの私にはどうでも良いことだった。


 重要なのは今日も私の側にイーノックがいないという非常事態にどう対応するか。である。


 昨日の宣言通りイーノックはあれからずっと妹の世話をしている。

 そして私以外の家族全員が頑張るイーノックを支えようとしている。


 ここで私が反対しても私の思う通りにならないことは流石にわかる。

 それどころかそんなことをしたらイーノックに嫌われる危険性すらある。


 ダメだ。そうなったら私は生きていられる自信が無い。


 だから私は考えなくちゃいけない。


 私が望む生活を実現するにはどうすればいいのか。

 私が望む生活の障害になるものはどう排除すればいいのか。

 もっと踏み込んで言えば『どうやったらワガママを通せるか』を真剣に考えた。


 とりあえず、私の願いを拳一つで粉砕したメルセデス姉さんが最初に越えるべき壁であり、最大最強の難関だ。


 ……どうしよう。あの姉さんに勝てる要素なんて私には無いんだけど。


「どうしたのシャズナ。難しい顔をしてるけど」


 食後の紅茶を見つめたまま黙考していたら母さんがやってきた。


「母さん。もう体の方は大丈夫なの?」

「ええ。あなたのおかげでね」


 席に着いた母さんの前にメイドがナプキンとシルバーを置いて朝食の配膳を始めようとしたけれど母さんはそれを止めて紅茶だけを持ってくるように頼んだ。

 メイドが慣れた手つきで紅茶を淹れると一礼して部屋から出て行く。


 母さんはマーマレードを一匙掬って気怠るげにスプーンを回しながら話を切り出した。


「それで何を悩んでいたのかしら? 昨日父さんからあなたとメルセデスが衝突したとは聞いてるけれど、それに関係する事?」


「……そう。だけど、今はもうちょっと深いところまで考えてるの」

「深いところ?」


「『どうやったらメルセデス姉さんに勝てるか』よ」


「あらまぁ。思春期の男の子がどうやったら父親に勝てるとか兄に勝てるとかを悩むことがあるって聞くけれど、まだ十歳にもなってない女の子が姉にそういう感情を持つのって珍しいわね」


 母さんはまるで珍獣の生態観察をしている学者のような思案顔で私を見ている。


「どちらも私の娘だから母親としては仲良くしてもらいたいところだけど、競い合うのも悪くないわ。で? 何か案があるのかしら」

「何も思い浮かばないから悩んでいるんでしょ!」


 八つ当たり気味に強い言葉を吐き出した後で『あ、母さんになんてことを』と後悔したけれど、母さんは少し意外そうな顔をしただけ。

 私はすぐに「ごめんなさい」と謝った。


「真剣なのね。気持ちは分かるわ……なんて無責任なことは言わないけれど、人生の先輩としてシャズナの立場に立って考えることはできるわ。正直言ってメルセデスに勝つのはかなり難易度高いわよねぇ」

「そうなんです」


 シャズナ姉さんは今年でまだ十歳なのに物理戦では国内最強と噂されている。

 魔術に関しては治癒系や支援魔術こそ初級止まりだけれど、攻撃魔法だけなら魔術師として冒険者に登録できるほど使いこなせるのだとか。

 防御面では物理攻撃ならほぼ完全に見切って躱せるし、毒や麻痺などの状態異常への耐性もかなり高いらしい。


 ……まるで弱点が見つからない。


「シャズナが言うところの『勝つ』は『回復系魔法ならシャズナの方が得意よね~』で済ませられるようなゆるい勝敗の決め方じゃないのよね? きっと」


「そうです。意見が対立した時に有無を言わせず相手を従わせる力が欲しいんです。昨日はワンパンで私は姉さんに黙らされました。姉さんはその気になればいつでも私を黙らせることができます。どんな理不尽な事でも強要できる力を持った強者なんだって理解しました」


「え? あ、あのね、メルセデスはそんな傍若無人な悪い子じゃないわよ? 聞いた話だとシャズナがワガママを言ったからあの子が怒って――」


「でも私はそんな姉さんに『勝てる力』が欲しいんです。姉さんに対してワガママを押し通せる圧倒的な力が欲しいんです」


「えっと、母さんちょっとこの相談に乗った事を後悔し始めているんだけど……」


 母さんと話をしていると段々と頭の中が整理されてきた。

 深く考えるほど姉さんの天才っぷりは異常だと分かる。


 そんな天才が実の姉だから私は常に劣等感に苛まされていて、ボロボロに傷ついたアイデンティティをイーノックの存在で癒されていた。


 それなのに、それなのに、また私は人外レベルの天才と向き合わなくちゃいけなくなった。


 今度ばかりは姉さんから目を背けて逃げることはできない。


 今度は自分のアイデンティティを守るためではなく、命より大切なイーノックを奪い返すための戦いで、私はあの姉に勝てるようにならなくてはいけないんだ。


 そして私は悟る。


 きっと姉さんは私の人生のおいて避けては通れない最大の障害で、いつかは突き破らなくてはいけない最強の壁なのだと。

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