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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第二章 姉たちがイーノックが大好きで過保護になったワケ
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なんて事をするのよ! 許さない。この痛み絶対忘れないからね!

「僕が『勇者』?」


 まだ眠そうだったイーノックは託宣を聞いて目をパチリと瞬かせた。

 その仕草があまりにも可愛いので抱きしめたくなったけれどメルセデス姉さんに襟の後ろを掴んで引き戻されて「そろそろ場をわきまえる事を覚えようかシャズナ」小声だけれどわりと強めに怒られて近寄ることが出来なかった。


「間違い……じゃないのかな。昨日生まれた妹がそうだっていうなら納得だけど」


 イーノックも同じように考えたらしい。


「それは父さんも確認した。だが、勇者は我が息子イーノック。それで間違い無いそうだ」


「だ、だって、僕、まだ武術も習ってないし、魔術だってまだ使えないし……」

「キミが魔術を使えないは当然だ。キミの体質が魔術を使えなくしている」


 イーノックが無言で首を傾けるとバックショットは苦笑した。


「これは託宣の言葉にない事だから私が直々に教えてやる。キミには魔力完全無効化の体質がある」


「体質? 汗っかきだとか、いっぱい食べても太らないーとかの体質?」


「私がここで言う『体質』を別の言い方で表現するとしたら『常時発動型能力パッシブスキル』だ。意識しなくても効力が発揮して、意識しても効力が止められない。そんな能力のことを指す」


「パッシブスキル……魔力完全無効化……」


「具体的にどのような力かというと、大地を溶かすほどの大魔術の直撃を喰らってもキミは無傷でいられる。それほど強力な体質だ」


「僕にそんな体質が?」


 イーノックはとても信じられないような顔をして自分の掌を見つめた。


「疑ってるッチ? でもその証拠に、魔力大暴走中の妹ちんを抱っこしても平気だったッチ?」

「あ、それで僕だけ平気だったんだ……」


 妹を抱っこしていた名残りで今もイーノックの服からは焦げた臭いが漂っている。


「その事で聖人様方に聞きたいことがあるんです」


 父さんは声を上げた途端にふらりと上体を揺らしてテーブルに肘をついた。


「ご当主。無理をせずにもう休まれてはどうかな? 神からの指名があったとて一般人が託宣を聞いたのだ。相当疲労が溜まっておろう」


 聖人の中で一番年老いた外見をしているカンブリさんが父さんを気遣う。


「お気遣い感謝します。ですがこれだけは父親として聞いておきたい。昨日生まれた私の娘の魔力暴走はいつ止むのでしょう」

「あの子はずっとあのままッチよ」


 気遣いが出来無さそうなプピさんが素っ気なく答えた。


「ずっと!?」

「うん。ずっと」


「ごく稀にああいう子が魔族に生まれることがあるが、純血の人間であそこまでのレベルの魔力を出す赤子は人類初だと思うね。魔族でもあそこまではいかない。そして、ああいう子は通常だと誰も触れられないから一度も授乳できずに二日ほどで衰弱死するんだ」


「そんな!?」


 父さんが悲鳴のような声を上げるとバックショットは意地悪く笑った。


「なぜそんなに焦った声出してる。その赤ん坊には魔力完全無効化の体質を持つ兄がいるじゃないか。こんな子供に育児をさせるのは大変かもしれないが決して無茶な事じゃあない」

「妹のためッチ。頑張るッチよ、お兄ちゃん」


「お兄ちゃん……」


 イーノックは自分が神に選ばれた勇者だと告げられた時よりも驚いた顔をして、それから朝顔が花弁を開くようにゆっくりと喜びの表情を咲かせた。


「が、頑張る! 僕、お兄ちゃんだからね!」

「うんうん。偉い子ッチ」


「慣れないうちは色々と大変だと聞くが、できるだけ周囲の者に頼るようにするんじゃぞ。責任感が強すぎると一人で抱え込む傾向にあるらしい。おぬしはバッチリそのタイプじゃ。気をつけぃ」


「プピは子供を産んだことないから気の利いたこと言えないッチけど、ここには三人も子供を育てた育児のベテランがいるからしっかりサポートしてもらうと良いッチ」


「ちょっと待ってよ、イーノックが妹の育児するの? ダメよ。それじゃあ私とイチャイチャする時間が――むぐぐう!」


 思いがけない展開に驚いて猛然と反対したらメルセデス姉さんに腕を取られて口も塞がれた。


「シャズナ、そろそろ本当に周囲を見ることを覚えたほうが良い」


 そんな事を言われても今の話の流れは静観していられない事態だ。このままじゃ妹にイーノックを取られちゃう!


「はっへ! はっへぇ!(だって! だってぇ!)」


 姉さんに拘束された状態でも諦めずにジタバタもがいていたら脇腹に捩じり込まれるような痛みが突き刺さった。


「――っ!?」


 痛すぎて声すら出なかった。

 見開いた目で自分の脇腹を見ると、姉さんの拳が突き立っている。


「お、おい、メルセデス……」


「大丈夫です父さん。シャズナは少し疲れているようなのでそこのソファに寝かせておきます」


 痛すぎて気絶も出来ない私を軽々と肩に担いだ姉さんは壁際にあったソファに寝かせた。


 なんて事をするのよ! 許さない。この痛み絶対忘れないからね!


 痛みに悶えながら姉さんを睨み上げると、姉さんは何の感情も無い顔で私を見つめ返してきた。


 ……え? 何その無表情。すごい怖いんだけど!?


 姉さんは父さんたちに背中を向けたまま静かに膝をつき、寝かされている私と視線の高さを合わせた。


「ねぇ、さっきのシャズナの発言は生まれたばかりの妹を見殺しにするって事なんだよ。シャズナはそれを分かっているのかい? さすがにあれは聞き流せないよ。怒らずにはいられないよ」


 姉さんは鉄のように硬い無表情を近づけて小声で私を脅した。


「シャズナはね、もう弟と妹がいるお姉ちゃんなんだ。そろそろ我慢することを覚えようか」


 息がかかるくらいの至近距離から虫を見るような冷たい目で見つめられてそんな事を言われたら私はもう頷くことしか出来なかった。


 それからの事はお腹が痛すぎて断片的にしか覚えていない。


 父さんは聖人たちに色々と質問をして、聖人たちは本人すら知らなかった隠された事実を親切に教えてくれていた。


 父さんと母さんの間に生まれる子供が普通じゃない子ばかりになる理由とその因縁についてとか。

 特異体質の妹は睡眠時間を含めた生活のサイクルが普通とは違うって事とか。

 祝福の加護がついた武器は『運気』の上昇の他に『魔力貫通』の性質を持っているからこれを持てばイーノックでも魔術が使えるようになるとか。


 高名な学者でも知り得ないような裏知識がまるで世間話のような気安さで飛び交っていた。


 そんな話をしているうちに父さんの疲労がピークに達して気絶するように居眠りをしたので、それを潮時と見て聖人たちは会談を終わらせた。


 聖人たちが席を立つのを見計らって入室してきた執事たちに父さんと私が部屋から運び出された。執事に抱きかかえられて運ばれている私と目を合わせないようにするためか、メルセデス姉さんは不自然に私から顔を逸らしていた。


 イーノックがそんなメルセデス姉さんを見上げて「あとでシャズナ姉ちゃんと仲直りしてね」なんて可愛い事を言っているのを聞いて、ようやくお腹の痛みが少しだけマシになって私はやっと気を失うことが出来た。

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