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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第二章 姉たちがイーノックが大好きで過保護になったワケ
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え? 私は普通だけど?

「やれやれ、なんとか落ち着いたな」


 父さんが疲労と寝不足と魔力不足でフラフラになりながらリビングに入ってきたのは翌日の明け方だった。


「イーノックは?」

「シャズナらしい心配だけれど、できれば新しい家族のことも気に掛けてくれ。どちらも同じ部屋で眠っているよ」


 父さんの話によれば、やはりあの赤ん坊はイーノック以外触ることが出来ないらしい。


「結局あの光は何なんです? 私には密度の濃い魔力の塊のように見えたのですが」


 私と一緒に徹夜したメルセデス姉さんが朝食代わりのホットミルクを父さんにも渡しながら訊ねたら、受け取ったカップで指を温めながら父さんは長々と溜息をついた。


「見た通りだよ。あの子は異常に魔力が強いらしくてね、ずっと魔力暴走の状態が続いているらしいんだ」

「魔力暴走!? 生まれたばかりの赤ん坊なのに!?」


 それがとても信じ難い事なのかメルセデス姉さんは怪訝そうな顔になった。


 魔力暴走がどういうことか知らなかったので訊いてみたら、魔力を多く持つ貴族の子らに稀にみられる現象で、普通は成長期に体が大きくなるのに伴って魔力の生成能力も上がるのだけれど、魔力生成能力の成長が肉体の成長を超えてしまった場合、身体に貯蔵できなかった魔力が体外に流れ出る現象のことらしい。


「ある子爵家の嫡男が自慢げに『いやぁ、魔力が高まり過ぎて困ったよぉ~』って周囲に吹聴してるのを見たことがあるが、頭髪の一部がほんのりと明るくなっていた程度だった。あんなにまばゆく光っていなかったし、触れた者に致命傷を負わせるほどの高圧魔力を身体に纏うなんて一流の魔術師でも難しいレベルだ」


「そんな状態であの子は大丈夫なわけ? 魔力をあんなに溢れさせて体に悪影響とかないの?」


 神殿騎士だった父さんは待祭レベルの医療知識はあるので過去に学んだ知識を思い出しながら新しい家族として加わった妹が今どういう状態なのかを推し量った。


「普通なら数秒で魔力が枯渇して気絶しておかしくない量の魔力放出だ。しかしあの子はずっと魔力を垂れ流し続けている。さっき眠ったばかりだが眠っていてもまだ魔力暴走が止まらない。ベッドに寝かせたらシーツが焦げてしまったから私が昔使っていた魔力耐性付与がされている外套であの子を覆っている」


「そこまでしないと寝かすことも出来ないなんてどれだけ規格外な子なのよ。そんな子にイーノックだけが触れても平気なのはどうして? 血縁関係があるから?」


「血縁関係の法則が当てはまるなら母親のパネーは重傷を負わなかっただろうし、私の手もこうはならないはずだよ」


 父さんは火傷の痕が残る掌を私に見せた。


「イーノックだけが特別……。なんだか変な気持ちになるわね。家族の中でイーノックだけは人畜無害な平凡な子だと思っていたのに」


「長女の私が言うのは変かもしれないけど、イーノックまで普通の範疇を超えた特別な力を持っていたのなら、父さんの子は全員普通じゃないってことになるね」

「あぁ、本当にな」


「え? 私は普通だけど?」


 心外すぎて思わず咎めるように文句を言ったら二人は黙って私から目を逸らした。

 なんで?


「と、ともかく、魔力暴走が止まらないあの子をどうするかだね。父さんはこういうケースに精通している人に心当たりは? 神殿関係者なら回復系魔術に詳しそうな人がいそうだけど」


「神殿騎士をしていた頃の伝手つてを使えば司教クラスぐらいまでには声を掛けられるが、教会のお偉い方々は権力闘争に奔走するばかりで魔力についてそれほど詳しくないんだ。あまり期待はできないな」


「魔力のことなんだから王家に仕えている魔術師団の団員に見てもらうのはどうかしら?」


「あいつらはあいつらで無駄にプライドが高いから王家からの命令が無い限り他人のためには指一本動かそうとはしないよ。……まぁ、王に直接頼んで一人くらい来てもらえるよう工作してみるが、その工作がいつ効果を現すかわからないね。きてくれても『わかりません』の一言で終わりそうな気もするし」


「そうなると、魔力や神秘の研究を極めて『賢者』の称号を与えられた三聖人の誰かに来てもらうのが一番確実ということになるわね」


「この大陸のどこにいるかわからない三聖人を呼び寄せるなんて王にも難しい事だよ。父さんにそんな権力も伝手も――」


 二日連続の徹夜の疲労が顔に色濃く出ている父さんが目頭を揉みながら弱音を吐いていると、初老の執事が慌てた様子で三人がいる部屋に飛び込んで来た。


「旦那様大変です! 『三聖人』を名乗る方々が来られまして、旦那様に面会を求めておられます!」

「……え?」


 眉間を揉む姿勢のまま彫像のように硬直する父さん。


「父さん、まさかすでに手をまわして?」


 メルセデス姉さんが尊敬の感情が籠った目で父さんを見ているけれどそれは過大評価だと思う。


「姉さん落ち着いて。父さんに彼らを呼ぶ権力はないし、こんなに鮮やかな手回しができるほど頭の切れる父さんじゃないわ。三聖人は『神秘』を研究している賢者だからきっと今日の事を予見していたのよ」


「シャズナ、言っていることに間違いは無いけれど言い方に配慮してくれ。父さんちょっと傷ついたぞ」


 父さんががっくりと肩を落としているけれど今は相手をしている場合じゃない。


「父さんは応接室で待っていてください! 来客の出迎えは私が請け負います!」


 判断の早いメルセデス姉さんが素早く席を立って玄関に向かった。


「父さん、焦げついた普段着で賢者に会うのは失礼よ。部屋に戻って着替えをなさったら?」


 私は徹夜明けで頭の回っていない父さんに着替えを促して、次にメイドたちを呼んで応接室の準備を頼み、同時に応接係の選出と軽食の用意も指示した。


「おまえたちの対応の早さを見てると、とても十歳と八歳の子供だとは思えないね。末恐ろしいよ」

「そこは『末頼もしい』と言って!」


 感慨深そうに言う父さんの背中を突き飛ばすように押して着替えに向かわせた後、私は三聖人がどんな人たちか興味が湧いてちょっと見に行った。

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