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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
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嫌だ嫌だ! いくらボクがサキュバスでもこの流れから初めてを経験するのは嫌すぎだよ!

 なかなか見る機会のないモノが見れたので今のうちにしっかり目に焼き付けておこうとじっくり観察していたら、ボクはまるでボールのように主様に頭を鷲掴みにされて離された。


「そんな近くで食いつくように見るなよネギ。いくら男同士でもさすがに恥ずかしいぞ」


 主様が言葉通り恥ずかしそうに苦笑いしている。


 ほほぅ? いくら『男同士』でも恥ずかしい。って?

 タオルを巻いただけのボクをこんなに近くで見ておきながらまだそんなこと言いますか。


 ふっふっふっ、本当はボクが女の子だと知ったら今の反応がどう変わるか見物ですねぇ。

 ちょっとしたトラウマになるんじゃないかなぁ?

 むしろトラウマになれば良いのですよ、くっくっくっ……。


「さ、ここに座って」


 心の中で呪いの言葉を呟いていたボクは主様に手を引かれるまま高価なガラスの鑑が付けられている壁側に座らされて、主様自身はボクの横に腰を下ろした。


 そして目の前の壁に沿って設置されている二本の木製のといを指差す。


「この樋に流れているお湯を手桶で汲んで使うんだ。上の樋が熱湯で、下の樋が冷水。自分の好みの温度になるようにこっちの桶で混ぜて――」


 主様は貴族育ちだけれど幼い頃から妹のロッティ様の育児をほぼ一人でやり遂げた経験があるので人の世話をすることに慣れているらしい。


 懇切丁寧にここの使い方をレクチャーしてくれる様子はまるで主様のほうがボクの従者であるかのようで、なんだか落ち着かない。


「あ、あの。ボクは従者だから、その、お世話をする側とされる側が間違ってる気がするんだよ。いえ、するんです」


「気にするなって。風呂の中まで立場の上下を気にしてたら気が休まらないだろう」

「でも……」


「ネギだって魔王の子だったんだから元々は人に世話される立場だったんだろ? 急な環境の変化で色々と思うこともあるだろうけど、ここなら誰の目もないんだ。畏まった言葉遣いはナシにしよう。無礼講ってやつさ」


「無礼講……」


 ボク知ってる。


 宴会の席で最初に「今日は無礼講だから身分を気にせず言いたいことを言い合おう」って父上が言って、それを本気にしたザバルダーンって四天王が父上を批判したせいで大変なめに遭ったんだ。


 主様はボクに何を言わせたいんだろう? これって何を狙った罠なのかな?


 どんな言葉が一番無難にこの場を切り抜けられるかを考えていたら、主様が自分の体にお湯を掛け流しながらまた苦笑いをした。


「そんなに警戒しなくてもいいって。俺、ネギには悪い事をしたと思っている。だからこれは俺なりにお詫びのつもりなんだ」


「えっと……意味が分かんないです」


 もしかして今日のトレーニングという名の拷問のことかな?


「今回いきなり魔王討伐で俺が送り込まれたのは完全に人間側の都合だった。魔族と人類が遥か昔から敵対しているとはいえ今回のはこっち側の政治的理由だ。そんなくだらない事でどちらの側も死人を出す結果になった。死んでしまった人たちを除けば一番貧乏くじを引いたのはネギだと思う」


「あ、そっちの話ですか」

「ん? そっちって?」


 主様が顔についた水を手で拭い落しながらキョトン顔でボクを見る。


「今日のトレーニングという名の拷問の事を謝られているのかと思いました」

「うん? そんなに嫌だったのか。本当に嫌なら言ってくれれば……」


 は? 今なんて?


 ただでさえミルクレープのように折り重なっていた主様への不満がここで一気に臨界点に達した。


 従魔魔法で多少の制約に縛られているけれど、心までは縛られていないボクはクワッと吠えるように大声を出して面罵した。


「ボクは嫌だって何度も言いましたし、やりたくない理由も思いつきかぎり言いましたよね!? でも主様はそれをことごとく論破してトレーニングさせたんじゃないですか!」


「あ、いや。あれは俺なりの善意で……」


「善意!? 主様は善意で従者を拷問にかけるんですか。なんて歪んだ性癖してるんですか!?」


「違う違う! 俺がネギにしてあげられる事って何か思いつかなかったからさ、それで自分がやっているトレーニングを一緒に出来るようになったら仲良くなれるかな……って」


「あーもうっ、これだから筋肉系は! いいですか、筋肉系の人はトレーニングも娯楽のように楽しめるようですけど、基本的に部屋の中でゴロゴロして本を読んでいるほうが好きなタイプがそれに付き合わされるのって拷問以外の何ものでもないですからね! 全然楽しくないです。苦痛です!」


「そ、そうなのか……でも、ネギの筋肉量に合わせた無理のないギリギリのラインで今日は終わらせたから、それほど大変じゃ――」


「『無理のないギリギリ』ってところで既に言葉が矛盾してるって気付いてください! なんですか『ギリギリ』って。そこがもう『無理』のラインに入っているんです! ほら、見て下さい。なんとか歩けるところまで回復してますけど、腕なんかまだプルプルしてますよ。ほら!」


 腕が上げられないのでボクは隣に座っている主様を見下ろすように立ち上がって、震えている腕を見せつけるようにグッと身体を寄せた。


 そんな大きな動きをしたためだろう。

 胸の前で合わせただけのタオルがハラリとほどけてあっけなく床に落ちた。


「……あ」

「…………え? ……ええっ!?」


 低い浴場椅子に座っている主様の目の高さはちょうどボクの腰あたりで、風呂の中はたくさんの魔力ランプがあって明るくて、つまり何が言いたいかと言うと……そういう事だ。


 主様はボクの股間を見て最初キョトンとしてて、次にギョッとしてボクの顔を見上げ、ボクが口を開いて『しまったぁー!』な顔をしているのを見たらすぐに顔を逸らして謝った。


「……ごめん。そういえばネギは自分の事を女の子だって言ってたよな」


 すっごい気まずそうに顔を逸らしたままタオルを拾い上げてボクに返してくれました。


「わ、分かればいいのです。こ、これも主様がボクの言葉を信用してくれなかったせいですからね」


 思わぬ形で『ドキッ! 浴場に入ってきた俺の従魔が実は女の子だった!?』が成功しました。

 成功はした……けど、逃げたい。恥ずかし過ぎてもう泣きそう。

 筋肉の疲労とは違う理由でボクの指先がプルプル震えた。


「そうだな。本当にすまん」


 ああもうっ、この空気どうしたらいいの?


 ボクは恥ずかし過ぎて逃げ出したいのに足に力が入らなくて、今足を踏み出したら間違いなく倒れてしまいそう。


 そうなったら至近距離で見られただけじゃなく、御開帳状態まで見せてしまうことに……。


 ダメだ。それをやったら絶対主様に「ネギ、もしかして誘ってる?」って誘惑している感じになるよ!


 嫌だ嫌だ!

 いくらボクがサキュバスでもこの流れから初めてを経験するのは嫌すぎだよ!


 いくら『ドキッ! 浴場に入ってきた俺の従魔が実は女の子だった!?』が成功したからってそのまま性交とかシャレでも嫌だ!

 ボクはキスだってしたことないんだぞ!?


 主様のほうからこの場を去ってくれたらいいのに、主様はじっと斜め下に目線を下げたまま動こうとしない。どうやらボクが出て行くのを待っているようだ。


 仕方ない。このままだとどっちも動けないから、ちゃんと言葉にして主様に先に出て行ってくれるよう頼もう。


「あの、主様。ボク今は歩きにくいので先にここを――」


「パンパカパーン! イーノックぅー。お姉ちゃんが背中を流しに来たわよぉー!」


「「――っ!?」」


 ボクの受難はまだ終わってないみたいだ。

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