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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
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ボクに惚れると良いのですよ主様!

 ボクの名前はカモ・ネギ。十三歳。

 東方魔王カモ・ノハシの一人娘で種族は淫魔サキュバスだよ。


 魔族領の東領地で平和な日々を送っていたら、突然人間の勇者たちが魔王領に侵攻してきました。


 東方魔王だった父上はボクを置き去りにして一人でスタコラサッサと逃げたので、城に残された幹部の四天王にボクは臨時東方魔王に担ぎ上げられて、四天王が負けそうになってボクが生贄として勇者側に売られました。……魔族って本当にひどい。


 魔族はひどいと思ってたら人間はそれ以上に非道でした。生贄として売られたボクに、毎日拷問されるか処刑されるかのどちらかを選べ。って迫るんです。


 世の中ってとっても生きづらくできているんですね。滅べば良いと思います。


 こんな腐った世界の終末を見てから死にたいと願ったボクはとりあえず生き延びるために従魔になりました。

 その瞬間からボクの従魔ペット生活が始まったのです。


 さて、ボクの主様あるじさまになった勇者イーノックは人間の貴族でした。

 思わず「あー」って声が出そうなくらいに納得です。


 だって魔族領に侵入してきた人間の冒険者を何度か見たことがあるんだけれど、みんな刃物ようにギラギラした危ない目をしてて、獣のように隙のない危ない空気を纏っていたんです。


 でも主様にはそんな空気が全然ありません。普通の冒険者たちと違ってガツガツしてないというか切羽詰まった必死さが見当たりません。身に纏っている雰囲気がとても柔らかくてフンニャリという擬音が似合いそうなくらいです。最初から恵まれた環境で育ってたらそりゃ危機感の無い子に育つよね。


 そんなフンニャリ主様は王都から領地に帰る途中の馬車で、まるで初めて宝物を手に入れた子供のような無邪気な目でボクを見ながら告白しました。


「実は俺、従魔契約したのって初めてなんだ」


「え? 主様は召喚士になって長いんですよね? それなのに一昨日ボクにしたのが初めてだったんですか?」


「いやまぁ、そうなんだけど……」


 主様は恥ずかしそうに目を逸らしました。


 これ以上突っ込んで話を聞かれるのは困る。みたいな空気を出していたのでボクは突っ込んで聞いてみました。だって気になったんだよ。しょうがないね。


 聞くと主様は今まで一度も実戦を経験したことが無いって白状しました。


 うええぇ? そんなんでどうして『勇者』なんだろう?


 しかし、これは良い情報をゲットです。


 実戦経験が無くてボク以外に従魔のいない召喚士なんて弱いに決まっている。

 というかザコです。


 ふっふっふっ……そうと分かれば、下剋上だよ!

 弱い主を叩きのめしてボクは自由になるんだよ!


 そんな野望を胸に秘めたボクはバーグマン侯爵家のお屋敷で粛々と従者の仕事を始めました。

 従順な従魔として働きつつ確実に勝てる隙を狙うのです。


 従魔が契約主に反逆できるチャンスは一度きり。

 一撃で契約主を殺すか、意識を刈り取って契約魔力の縛りを断ち切る。そうすれば従魔は自由になれるのです。


 逆に一撃で決められなかったら死ぬより恐ろしい制裁カウンター魔法が自動発動します。だから絶対に失敗できません。


 主様は実戦未経験でボク以外の従魔のいない召喚士だけれど、あの『魔女』の二つ名を持つ妹に全力ハグをされてもノーダメージでいられる『完全魔力無効化』の体質を持っているので魔術での攻撃は利きません。


 そうなると物理攻撃しか選択肢は無いんだけれど、淫魔のボクは種族的に物理攻撃が苦手なので一撃の物理攻撃で主様を葬り去るような武力も筋力も技も勇気も無いのです。


 じゃあどうするか?


 答えは簡単。


 ボクは淫魔なので淫魔らしく主様をボクの恋の奴隷にすればいいのです。

 主様がボクの魅力にメロメロになって完全に警戒心を解いたところでズバッと寝首を掻くんだよ。


 ふっふっふ~。完璧な計画ですね。


 幸いなことにボクの日々のお仕事は主様の身の回りのお世話なので、主様をボクに惚れさせるには最適な環境と言えるでしょう。


 甲斐甲斐しくお世話をされてボクに惚れると良いのですよ主様!


 そんな事を考えながら一生懸命執事のお仕事を頑張りました。


 そして四日が経ち、遂に主様から「ネギは働き者だね。偉いね」って頭をナデナデしながらお褒めの言葉をくれました。


 ……あれ? なんか違う。惚れた感じの反応じゃないですよ?


 ボクは「どうしてこうなったんだろう?」と首を傾げながらポキュポキュと靴を鳴らして使用人の控室に戻りました。


「あ、ネギ君。ちょうど良かった。キミ用の執事服が出来上がったわよ。これからはこれを着てお仕事してね」


 このお屋敷で使用人のスケジュール管理をしているメイド長さんがそう言って薄灰色のズボンや白シャツなどの制服一式をボクに渡してくれました。


「この白手袋と革靴もつけなきゃダメなんですか」

「そうよ、それが決まりだから。なにか問題でも?」

「淫魔の子供は手足を冷やすとすぐ風邪をひくから、ボクずっとこれをつけてるんです」


 ボクはずっと前から肌身離さずつけている着ぐるみパーツのようなモキュモキュの手袋と靴を見てもらいました。


「あぁそうなの? それでそんなモコモコなのをつけているのね。種族がそうなら仕方ないわ。でも一応アナタのご主人のイーノック様にも言って了解を貰っておいてね。他に何か不都合な事はあるかしら」


「不都合ってほどじゃないですけど、ボクの制服って執事服なんですね。メイド長みたいなメイド服なのかと思ってました」


 メイド服が可愛いかったのでちょっと楽しみにしてたのに……。


「あらあら。ネギ君なら中性的で可愛いからメイド服も似合いそうだけど男の子の制服は執事服なのよ。でも個人的には男の娘のメイド服姿はすごくツボだし、ぜひ見てみたいから着たいのなら言ってね、全力で協力するわ。うふふふふ」


 ……あ、そうだ。ボクは男の子だってことになってるんだった!


 ボクが生贄として差し出されたときにちょっとした行き違いがあって、そういう設定になっていることを忘れてた。


 あ、だからだ!


 ボクはやっと気づいた。


 ボクがこんなにも献身的に主様にご奉仕しているのになかなか惚れられないと思ったら、ボクが男の子だと思われていたからだ!


 そっかぁ、意味深な目で主様を見つめながら微笑んでみたり、あざとく小首を傾げてみたりしたのに「どうしたの? 思い出し笑い?」とか「肩凝った?」とか、期待外れの反応しかされなかったのはそのせいなんだね。

 決してボクに魅力がなかったからじゃないんだね。


 ふぃ~。危うく淫魔としての自信を無くすところだったよ。

 安心してボクは胸を撫で下ろしました。


 原因さえ分かればこっちのものだよ。ボクが女の子だって分かればいいんだから簡単、簡単。




 ――と、その時のボクは楽観的に考えてた。


 この後にいろいろあって、最終的に『ドキッ! 浴場に入ってきた俺の従魔が実は女の子だった!?』作戦を決行しなきゃならないハメになるなんて全く予想できなかったんだ。

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