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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
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イーノックが望むならお姉ちゃんはなんだって叶えてあげるに決まってるじゃない!

「連れてきたのがダメだった? じゃあ殺す?」

「ひいぃ!?」


 さらっと死刑宣告された可哀想な魔王は本気で怯えてロッティから遠ざかろうとしたけれど、シャズナ姉ちゃんに捕まれている首輪の鎖でグエッっとなって引き戻される。


 それにしてもロッティが簡単に口にする『殺す』の一言が不穏に感じられて仕方がない。


 近づくだけでほとんどの植物や動物が死滅してしまうから命の大切さを実感できないせいなのだろうけれど、ちょっと不機嫌になるだけで死神になっちゃうこの性格をどうにかできないだろうか……。


 どう言ってロッティにそのことを伝えようかと頭を悩ませていると、メルセデス姉ちゃんが少し困ったように肩をすくめた。


「王の命令は魔王の『討伐』であって『殺害』じゃない。捕縛して連れてきたのだから十分に命令は達成している。それに私はこの子を殺すのは惜しいと思う」

「惜しい?」


「それがね、この子ってば凄いのよ。ロッティが触っても死ななかったの」

「!?」


 あまりの事に俺が愕然としていると、証拠を見せつけるようにシャズナ姉ちゃんは魔王の腕を掴んで俺に見せた。


 着ぐるみのような大きな手袋からしゅっとのびている白くて細い腕に、まるで焼けた火箸を押し付けたような痛々しい火傷の跡があった。


「ね? 火傷だけで済んでるの」

「本当だ。なんて魔力耐性だ」


 みんなで感心していると「ううぅえぇん……。なんですか、これなんの拷問ですかぁ? こ、殺すならひとおもいにサクッてやっちゃってくださいいぃ。でもボク痛いの苦手なので、できれば痛くない感じで一瞬でお願いしますぅ~……」と魔王ちゃんは泣き出した。


「あぁゴメン。別に拷問とかじゃなくて、ウチのロッティが近づくと普通の生物はみんな死んじゃうのに、キミはそれに耐えたっていうからビックリしたんだ。すごい魔力耐性だね」


「そんな子がこの世にいることのほうがビックリですぅう!」


 わかる。


「はっはっはっ。ロッティに触られても生きているなんて、さすが魔王の息子ってところかな」


 ん? この子って息子? 見た目女の子っぽいんだけど。あ、でも自分のことボクって言ってたな。


「へ? ボク、息子じゃなくて――」


 あ、やっぱり女の子か。って思ってたらメルセデス姉ちゃんがその子に冷ややかな目を向けた。


「おや、違うのかい? キミを捕まえてきた四天王とやらは東方魔王の息子だと言ってキミを差し出してきたんだが? じゃあ臨時東方魔王ってのも嘘なのかい? 嘘だったのならもう一度あの悪魔を締め上げなきゃいけないね。いや、わざわざ確めに行くのも面倒だから直接キミを締め上げたほうが効率的か」


「違いません、ボクは魔王の息子です。口答えしてすみませんでした」


 魔王(臨時)は震えながらもしっかりと指先を揃えて深々と頭を下げて謝った。


 なんだ男の子か。危ない危ない、もう少しで女の子扱いするところだった。少女顔の男子が性別を間違えられるのってけっこう傷つくって聞くし。余計な傷を負わせる前に男子だって知れて良かった。


「ね、ね、お兄ちゃん。この子ウチで飼いたい。ロッティが触っても死なない子ってお兄ちゃん以外初めてだから」


 ペットかな?  魔王ってペットにしていいんだっけ? 飼うのに届けが必要な感じ?


「でも、この子って王都に連れて行けば問答無用で打ち首になるんじゃない? 確か今までの魔王の末路ってそうなってるわよ」

「えー……。この子可愛いのに……」


「諦めるんだロッティ。こういうのは前例通りに処理を済ますのが役人の仕事だ。前例を覆すだけの材料もないし、我々バーグマン侯爵家にとっての利も無い」


「そんなぁ……」

「そんなぁ……」


 最初にしょんぼりと言ったのがロッティで、同じセリフを絶望感たっぷりに言ったのが魔王。


「お兄ちゃん……ダメ?」


 悲しそうに眉を顰めて俺を見上げるロッティ。兄としては妹の望みをかなえてあげたいところだが……。


「お姉ちゃん、なんとかならない? ロッティの情操教育のためにもペットはいたほうがいいと思うんだ。俺は命の大切さをロッティに感じてもらいたい」


「何を言ってるのイーノック」


 シャズナ姉ちゃんがきりっと眉を上げて俺に強い視線を向ける。


 そうだよな。さすがに魔王をペットにするのは――


「イーノックが望むならお姉ちゃんはなんだって叶えてあげるに決まってるじゃない!」

「当然私も出来るだけの事はしよう。少々非合法な事くらいならやってみせる覚悟はある」


 さすが俺の姉ちゃんたちだ。


「そうね、この子をイーノックの従魔にするってのはどう? 魔王との闘いの末に従魔契約で服従させたってことにすればいいのよ。魔王を従魔にして連れてきたってことになれば前例はないから、この子の扱いはどうとでもなるわ。そしてイーノックがこの子の所有権を主張すればいいのよ」


「魔王を俺の従魔に?」

「それは良いアイディアだ。しかし役人が強硬に魔王の処刑を主張したらどうする」


「勇者が従魔にした魔王をわざわざ権力で取り上げて処刑するということになったら、従魔契約を解除してこの子を司法省に預けなきゃならないわ。司法省に預けているのがたとえ半日でも、そこでこの子が暴れて少しでも被害が出れば処刑を主張した者の責任問題に発展する。そこを強調して『もし何かあったらあなたの責任ってことでいいのね?』って圧力をかければ誰も処刑しようだなんて言わないわ」


「ふふふっ、さすがシャズナだね。文官の弱いところをよく押さえている。王都の騎士団が処刑を主張するようなら私が黙らせよう。武官の抑えは任せてくれ」


 おぉう。流れるような速さで魔王のペット化計画が出来上がったよ。


「お姉ちゃん、ウチで魔王飼っていいの? ロッティ頑張ってお世話する!」

「ちゃんと散歩にも連れて行くのよ?」

「うん。毎日五〇キロは連れ回す! いろんな魔獣と戦わせて強く育てる!」


 命が助かる方法が見つかったはずなのに魔王は死にそうな顔になっている。


「えっと、話は聞いていたとおりなんだけど……俺の従魔になる?」


 迷う事の無い選択だと思ったのに、魔王はなぜか迷っていた。

 魔王は助けを求めるように周囲を見渡して、最終的には諦めの表情になって俺に目を合わせた。


「あの……。ボクが従魔になってペットにされたら、近づいただけで拷問のような痛みを受けるその子に可愛がられる毎日が待っているのなら、いっそ楽に処刑された方がマシかなぁって考えているんですけど……ボク、どっちを選んだ方が良いと思います?」


「……」


 やばい。どっちがいいんだろう?


「……と、とりあえず従魔になろうか。そしたらできるだけキミが無事にいられるよう俺が守るから。後はその都度話し合いで改善していこう、ね?」


「よろしくお願いします。あの、ちゃんと守ってくださいね? 本当にお願いしますよ? ミノさんみたいにボクを裏切らないで下さいね」


 首輪をつけられた魔王は俺に深々と頭を下げて従魔になる未来を選んだ。

 ……ミノさんって誰だ?

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