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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
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イーノックの手記 1

 出陣式 当日


 勇者護送隊という名の看守たちに四方をガッチリ見張られながら俺は王都から連れ出された。


 五歳の時に三聖者から勇者の託宣を受けておきながら過保護な家族に囲まれて一度も実戦を経験せずに十五歳になり、気が付けばそのまま魔王討伐に向かわされる事態に陥っていた。


 どうしよう。どうしよう。どうしよう。

 もっと前にダンジョンとかに潜って経験を積んでおくんだった。


 ふと視線を感じて顔をあげたら、護衛隊の隊長である赤竜騎士団団長がまるで不出来な生徒を見る教師のような顔で残念そうに溜息を吐いていた。



 当日 午後


 王都を囲む最外周の壁を過ぎたあたりから、味に覚えのある探知魔法をピンピンと当てられた。

 不思議に思って馬上で振り返ると、見慣れたヒヨコ騎士団の旗が護送隊の最後尾についていた。


 なぜウチの私兵であるヒョコ騎士団が護衛隊に紛れ込んでいるのか分からなかったけれど、たぶん俺の身を案じたシャズナ姉ちゃんが暗躍したのだろうと予想する。


 相変わらず過保護だと思うものの、正直いってすごくホッとしている自分が情けない。



 当日 夜


 日没直前に到着した村の村長宅の一室に案内された。


 部屋の前には護衛の騎士が交代で立つことになっている。

 二階にある来客用の部屋に押し込められた俺は護衛騎士に明日の出発まで外に出てはいけないと言われた。トイレに行くもの許可が必要らしい。


 あまりの窮屈さにため息を漏らす。何気なく近づいた窓から外の景色を見ると、窓の下に見張りの騎士がいた。向かいの家の屋根にも弓を持った騎士がいて俺の動きを見張っていた。


 思わず反射的にカーテンを閉めた。


 もうこれ護衛じゃない、軟禁だ。

 俺を守るんじゃなくて、俺を逃がさないためのフォーメーションになっている。



 当日 夜 二


 部屋の前にメルセデス姉ちゃんが来ていたようだ。少し話をして元気づけてやりたいと言っていたようだが「魔王討伐が終わるまで許可の無い者は会わせられない」と追い返されていた。



 当日 夜 三


 部屋の前にシャズナ姉ちゃんが来ていたようだ。いろいろなローションボトルを籠に詰めてやってきた姉ちゃんが「旅の疲れでカチカチになった身体を優しくマッサージして上げたいの」って俺との面会を求めていたらしいけれど、ベテラン娼婦と勘違いされて追い返されていた。




 王都を出て二日目 朝


 朝。ようやく部屋から出してもらえた。


 外に出ると一軒の民家が半壊して黒い煙を上げていた。たぶんロッティがくしゃみでもしたのだろう。


 空を見上げたら青空が広がっていた。



 二日目 昼


 朝から何度も飛ばされていたロッティの探知魔法が急に止まった。


 騎士団の魔術師から苦情を言われたらしい。あまりにもしつこく探知魔法が繰り返されるのでそれを知覚できてしまう魔術師は昨日からずっとイライラしていたそうだ。

 俺は気にならないけれど、人によっては探知魔法の波は神経を逆なでするような不快感を与えるらしい。


 ロッティ自身も他人から探知魔法を当てられるのを嫌うのにロッティ自身は結構頻繁に使う。

 今度ロッティに「人にやられて嫌な事はロッティもやっちゃダメだよ」と教えてあげないといけないな。


 ……今度、という機会があればだけど。



 二日目 夜


 今日から野営だ。


 立って歩けるほど大きな天幕の中に簡易な寝床と椅子と机が置かれた。

 一度中に入れられてしまえば昨日と同じようにもう出られない。


 日に日に近づいて来る最期の時を考えると胃が痛くなる。食欲が出ないけれど無理に食べたら黄色い胃液と共に吐いてしまった。


 俺の吐瀉物を片付けてくれた騎士に「ごめんなさい、ありがとう」と言うと「……くっ」と言葉を詰まらせて何も言わずに出て行った。



 二日目 夜 二


 今日も俺との面会を求めてメルセデス姉ちゃんが天幕の前まで来ていた。「大事な弟なんです。せめて手紙だけでも」と食い下がっていたけれど「規則に反します」と素気なく帰されていた。



 二日目 夜 三


 今日も俺との面会を求めてシャズナ姉ちゃんが天幕の前まで来ていた。「大事な弟なんです。せめて手コキだけでも」と食い下がっていたけれど「倫理に反します」と素気なく帰されていた。




 王都を出て三日目 朝


 夜明けとともに出発準備。


 朝靄の中で天幕が片付けられているのを虚ろな目で見ていたら、耐魔力性の強い檻を載せた台車が部隊後方に向かって運ばれていくのが見えた。魔力の強い魔物を捕獲した場合に使う檻だ。


 予想だけれどロッティを乗せていた馬車が壊れたのだと思う。檻が運ばれて行った方向から黒い煙が上っていた。



 三日目 昼


 人類が崇める神々の加護が届きにくい魔族領に入った。


 俺にはまるで違いが分からなかったけれど、周囲を取り囲む騎士たちは筋力や魔力が二割ほど減少した気がすると言っていた。


 俺は加護の減少よりも不安と恐怖でずっと胸やけを感じている。

 途中、馬上で吐いたが水の入った革袋を渡されただけで行軍速度は変わらなかった。



 三日目 夜


 天幕の中で一人きり。不安と恐怖に苛まれてブルブルと震えていたら、少し離れた場所からドンッドンッドンッと連続して爆発音がした。


 突然のことで周囲が「何事だ!?」と騒がしくなったが俺には何が起きたのかわかっていた。爆発の衝撃からロッティの魔力の味がした。きっと魔力とストレスを溜めこんだロッティが駄々をこねながら魔力を撒き散らしたのだろう。


 この日はメルセデス姉ちゃんもシャズナ姉ちゃんも俺のところを訪ねてはこなかった。


 二人で必死になってロッティを宥めているのだと思う。

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