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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
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ロッティ、お兄ちゃんと一緒にいたい。お兄ちゃんにギューって抱っこしてもらいたい

 私たちはウルルマルカ川と魔王城の中間ほどにある森の中を行軍していた。


 これより少し前、私たちが本体から離脱することを告げに行ったときに護送隊の母隊である赤竜騎士団の団長から意外な提案を受けた。


「実は選抜隊を組織してちょっと暴れてこようと思っている」


「ちょっと暴れてくるのですか? ……すみません、どういう意味でしょう」


 真意を量りかねて首を傾げると、団長は私を見ていた目をちょっと大きくして頬を赤らめながら苦笑いをした。


「あの勇者を魔王城に行かせたら戻って来れない気がしてな。だから俺たちで手ごろな武功を立ててやろうってわけだ。俺たちの戦力で魔王をやるのは無理でも四天王を一人くらいなら倒せるだろう。その成果があれば魔王と戦わずに王都に帰っても怒られることは無い。どうだ、一緒に行くか?」


 団長は良い人だった。


「お心遣い感謝します。ですが私たちは独自に周辺の偵察に出るつもりです」


 その後団長に「もし良ければ、王都に戻ったら一緒に食事でもどうだろう」と誘われたので、弟のことを思いやってくれた優しい団長からの誘いだから「一度だけなら」と受けておいた。イーノックの味方になってくれそうな人は一人でも多い方が良い。


 部隊を離れる報告を終えて幕舎を出る。


「カラム! 俺、この戦いが終わったら超美人とデートするんだ! ひゃっほぉ!」


「団長、縁起悪い事言わないで下さい!」


 背後から聞こえてきた話声にちょっと悪い予感がしたのだけれどきっと気のせいだ。




 本隊から離れてウルルマルカの川岸沿いを上流に向かって行軍。


 川面に白い飛沫が見える浅瀬を渡って西進すると前方に魔族の民が暮らす集落を見つけたので、余計なトラブルを生まないように集落の南にある森を進むことにした。


 私と行動を共にしているのはシャズナ、ロッティ、そしてヒヨコ騎士団の精鋭七名。

 その七名のうち一人が王都出発直前にロメオにすり替わっていたのだけれど、何度言っても懲りないロメオを叱るのが面倒なので見なかったことにした。


 道無き森の中を進むので先頭を歩く団員が手斧で木の枝を払いながら後続のための道を作りつつ進む。


 順調だ。すこぶる順調に当初の予定が進められている。


 しかし、そんな順調な行軍は時間経過と比例して膨らむ不安材料があるせいで、行動を共にする団員たちの緊張がこれまでになく高まっている。


 私の自慢の精鋭たちはもちろん、ロメオすら口数を減らすほどの不安材料は……妹の機嫌がすこぶる悪いということだ。


 魔王城を目指して森の中を歩いている私の五メートルほど後ろについてきているのだけれど、口をへの字にひん曲げて不貞腐れた様子で路傍の小石を蹴ったり、近くの木の枝を折ったりしている。


 それだけならまだ良いのだけれど、蹴った小石は一メートルほど転がった先でパァンと爆竹のように爆ぜる。手折った枝は黒い炭になって時々枝を折る前に木そのものが枯れる。

 爆ぜた小石の破片がビシビシと足や背中に当たってけっこう痛いのだけれど、どういうふうに注意をしたらいいのか悩む。


 これが私の部下ならば無言で腹に拳を突き入れて制裁を加えるところなのだが、それを実の妹にやったらマズイことぐらいはいくら私でも分かる。


「ロッティ。魔王を捕まえてくればイーノックに会えるんだから、もう少しだけ我慢してくれないか?」


 私は肩越しに振り返りながら提案してみるがロッティの機嫌は良くならない。


「やだ。もう疲れた。魔王の城吹っ飛ばして、魔王焼いて、すぐ終わらせたい。もうお兄ちゃんのところに帰りたい」


 不機嫌さをさらに膨れさせた妹にどう言ってきかせようか言葉を選んでいたら、もう一人の妹がロッティに負けないくらいの不機嫌さで言い返した。


「そのお兄ちゃんを助けるために来たんでしょ? どうしても行くって言い張るから連れてきたのに、ロッティのせいで作戦を台無しにされたらたまらないわ」


 ロッティに対して全く遠慮しない唯一の人物であるシャズナが盛大にため息を吐いた。


「だ、だって、お兄ちゃんが魔王殺しに行くってゆーから、ロッティお手伝いするつもりできただけなのに。お兄ちゃんゴツイおじさんに囲まれてて一緒にいられないし、今もお兄ちゃんと別行動だし……。ロッティ、お兄ちゃんと一緒にいたい。お兄ちゃんにギューって抱っこしてもらいたい」


「はぁ!? そんなの私もされたいに決まってるでしょ! イーノックにギューってされて、私もギューってお返しして、それからベロチューってなって、ギシギシアンアンしたところでビューってされいたいのよ!」


「シャズナ、いろんな意味で言い過ぎだ。あと妄想がダダ漏れになっているぞ」


 イーノック欠乏症が深刻なのはロッティだけじゃなかったようだ。


 母さんと話し合ったあの日からシャズナはすぐに王都に入って暗躍していた。

 その期間があったせいでシャズナはイーノックと離れていた期間が長い。

 ……まぁ、私もそろそろイーノック分を補給したいところだが。


「とにかく、魔王は殺しちゃダメなの。死なないように加減して捕まえてこないとマズイの。方面魔王程度を殺すだけならメルセデス姉さん一人で充分なのに、こうしてみんなで来ている意味をちゃんと考えなさい」


「……はぁい」


 全然納得してないようだけれど、とりあえずロッティから承諾の返事を引き出すだけでもたいしたものだ。

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