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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
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長女 メルセデス A面 メルセデス姉ちゃんが男前すぎて輝いて見える

ブックマークしてくれた人が5人も! 嬉しくて続きを書いてみました。

 俺には二人の姉と一人の妹がいる。

 世間では『戦姫』『聖女』『魔女』と冠名をつけられて呼ばれるくらいにそれぞれが卓越した才能を持っているんだけれど……。



 目が覚めると夕方になっていた。

 徹夜の堤防補強作業を終えて屋敷に帰って来たのは明け方頃だったから、約半日眠っていたことになる。


 これだけ長く眠ったのにまだ疲労が抜けきらない。

 おそらく魔力回復ポーションを飲みまくって無理やり魔力補給を続けていたせいだろう。


 病み上がりのような気怠さの残る体を起こしてベッドから降りると、窓の外は夕焼けで染まっていて空には小さな薄雲が浮いていた。


 これならもう雨の心配はないな。


 部屋着のまま寝室からテラスに出た俺はデッキチェアに腰を下ろして外の景色を眺めた。

 四階建ての最上階にあるテラスからだと視界を遮るものが無いのでとても見晴らしが良い。


 遠くにそびえる竜尾山脈の雄姿。その手前には多くの野生動物が暮らすディーヌの森の深い緑。森の側には夕日を湖面に映しているアリシア湖の寂静じゃくじょうとした姿がある。


 まるで一枚の絵画のような風景をぼんやりと眺めていると凝り固まっていた疲れがじわじわと解けていくようだ。


 完全に気の抜けた状態で呆けていると屋敷の前庭の方から数頭の馬の蹄の音が聞こえてきた。

 ウチの次期当主であるメルセデス姉ちゃんのご帰還だ。


 ……あれ?


 俺は妙な違和感を覚えた。


 確か、メルセデス姉ちゃんは俺よりも一日早く災害対処の指揮に出ていたはず。

 ってことはメルセデス姉ちゃんは二日も不眠不休で働いていたのか!? 頑張りすぎだろ!


「団長お疲れさまでした!」


 屋敷の玄関まで付き添って来ていた二人の小姓騎士ペイジが敬礼している。


「あぁ、君たちもご苦労だったね。ずっと働き詰めで疲れただろう。明日の集合は正午にする、それまでゆっくりと体を休めると良い。解散」


「はっ! 失礼します!」


 馬を下りて馬丁ばていに手綱を預けた姉ちゃんはカッカッと乗馬靴を鳴らしながら屋敷に入っていく。


 玄関前へ迎えに出て頭を下げていた使用人たちの前を通り過ぎると、女執事のロメオが姉ちゃんの半歩後ろを影のようにピタリと付き従って姉ちゃんをあれこれと世話し始めた。

 歩幅の広い姉ちゃんと同じ速度で歩きながらロメオはまるで奇術のように姉ちゃんから汚れた外套や手袋を脱がせている。


 ロメオの『お世話術』にはいつもながら感心させられる。


 以前、ロメオが使用人仲間に向かって「私がその気になればお嬢様が歩いている状態のまま全裸にすることも可能です」と、なぜか勝ち誇ったような顔で言っていたのを見たことがある。


 ……本当かな?


 う~ん。メルセデス姉ちゃんのことが好きすぎる彼女なら本当にやれそうで怖い。


 ま、それはさておき。俺も姉ちゃんにお疲れさまの一言くらいかけておくか。


 部屋を出て無駄に広い屋敷を降りて行くと一階の階段の前でようやくメルセデス姉ちゃんと会った。


 二階か三階くらいで鉢合わせすると思っていたのだけれど、姉ちゃんは一階で上級官吏たちから渡された書類にサインをしていた。


「おや。もう帰っていたのかイーノック」


 階段の前で立ったまま書類を黙読していたメルセデス姉ちゃんは俺が階段から降りてくるのを横目で見て弱く微笑んだ。


「うん、朝には帰ってきてたよ。それよりもメルセデス姉ちゃんだいぶ疲れているみたいだね。書類仕事は明日にして、早く休んだ方がいいよ」


「私もそうしたいところなんだが、喫緊きっきん決裁けっさいが必要な書類が溜まっているらしいんだ」


 そう言いながら書類に目を通した姉ちゃんはサラリとサインを書いて官吏に戻す。


 あ、そうか。今は母さんが王都に行ってるから一級以上の決裁権を持ってるのは姉ちゃんだけなんだ。


「次は?」


 姉ちゃんが次の書類を催促すると官吏は書類の束の中から赤い付箋のついている一枚を引き抜いた。


「緊急性の高いのはあとこれだけですね。水害を逃れて避難所に集まった住民たちへの食糧配布について。備蓄していた非常食の何割かが水没していたので不足分をどうにか欲しいと。避難所の責任者からの陳情書が届けられています」


「そうか。ならば騎士団で備蓄している糧食を使え。そんなに量はないが急場を凌ぐには充分だろう……ん? ペンのインクが無くなったな。サインが擦れてしまった」


「すみません……どうぞ」


 官吏はすぐさま近くの事務机にあった羽ペンを取って姉ちゃんに渡した。


 俺たち家族が住んでいるバーグマン侯爵公邸はその名の通り『公邸』だ。


 床面積が最も大きい一階は住民からの陳情の受付や戸籍管理局などがあり、税務官や庶務行政官などの下級官吏が働く場所で、二階が中央政府との折衝や対応を専門に行う国務課と法務官、行政官らの上級官吏が机を並べる領地運営課が設置されている。


 俺の家族が生活しているプライベートスペースは三階と四階ということになっているけれど、三階も重要案件などを話し合う臨時会議室などがあるため、完全な私邸と言えるのは四階だけだ。


「ん……。これで終わりかな?」


 姉ちゃんが最後の書類にサインをして官吏に渡すと、書類を受け取った彼は深々と頭を下げた。


「はい、他は明日の朝でも問題ありません。お疲れのところお引き留めしてしまい申し訳ありませんでした」


「謝罪の必要は無い。渡された書類は本当に急いでいる案件ばかりだった、貴官の判断は正しい。良い仕事をしてくれていると思う」

「恐縮です」


 メルセデス姉ちゃんはサインをし終わってもすぐには立ち去らずに、周囲でせわしなく働いている官吏たちを見渡した。そして、みんなに聞こえるように大きな声でねぎらいの言葉をかけた。


「皆、そのまま聞いてくれ。今回の災害のせいで休む間もなく働き通している者が多々いることだろう。災害復旧作業に従事している全ての者に私は感謝をしているが、ここで働いている者たちだけにでも私は自身の声で感謝の気持ちを伝えたい。ありがとう。既に知っていると思うが川の水位は下がり始めている。あと少しだ、もう少しだけ領民のために頑張ってくれ」


 姉ちゃんが発した感謝の意と激励を受けた官吏たちは感動に打ち震えながら一斉に立ち上がってメルセデス姉ちゃんに向かって深々と礼をした。


 やべぇ……。メルセデス姉ちゃんが男前すぎて輝いて見える。

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