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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
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ポキュッ!

「父上ぇー! 父上ぇー!」


 幼い声が魔王城の中を巡った。


 プラチナブルーのふわふわな癖っ毛から雌山羊のような二本の角を生やした少女は魔王城の階段を駆け上がって上へ上へと進んでいく。


 魔王城の名を持ってはいるが正確には東方魔王城という。

 魔王領の四方にある大砦の一つという位置づけだ。

 魔王領中央にある大魔王城塞群に比べれば砦程度の大きさでしかない。


「父上ぇー! 父上ぇー。どちらですかー?」


 辺りをキョロキョロと見回す少女の目は赤色で目を縁取る上下の睫毛が長くて目尻は垂れている。


 十歳ちょっとの小さな体と対比したらアンバランスなくらい大きな手袋と大きな靴をつけているその少女はポキュポキュとコミカルな靴音を鳴らして城の中を走り回って、城の最上階にあるテラスでようやく自分の父を発見した。


「父上こちらでしたか。ずっと呼んでいたのに返事をしてくれないなんてひどいです」


 ぷくっと頬を膨らませて怒る少女の横をセクシーな犬耳メイドが慌てて下着をつけながらすれ違って逃げていった。


「あぁ、すまなかったネギ。見ての通り返事をしていられる状況じゃなかったのでな」


 少女の頭に生えているものよりも太くて捻じれた山羊の角を生やした男が布面積の少ないブーメランのような黒パンツをパチンと履いて振り返った。


 その男の顔には柔和な爽やかさを浮かべているけれど、首から下の細マッチョな体は汗とか体液とかの淫靡な汁に濡れてテカテカといやらしい艶を出している。


「またですか父上。最近はお仕事をしている時間よりアンアンしている時間の方が長いようですけど? あと、今すれ違ったメイドさんは西門の衛兵さんと結婚したばかりだと記憶してますが」


「それがどうした。魔王の地位に就いてはいても我はインキュバス、女性を誘惑し堕落させるのは本能だ。『もう私は人妻ですのでこれからは今までのような……』なんてモジモジしながら言われたら、そりゃもう堕落させるしかあるまい。全力で堕落させるに決まっておろう。『なんだその人妻アピール。誘っているのか?(自問) 誘っているのか!(自答)』って押し倒さずにはいられない。そうだろう?」


「実の父親にそんなことで『そうだろう?』って同意を求められても娘としては『は?』って疑問符を返すしかできないよ」


 ネギが呆れたように肩をすくめてみせると、魔王は全く悪びれることもなくムフンと胸を張った。


「あえてもう一度言おう。我はインキュバス。魔族が本能に身を任せることのどこが悪い」


 娘を小馬鹿にするような表情でブーメランパンツを履いた腰をグリングリンと回して見せた。

 あからさまな挑発をしてくる父にネギはイラッとする。


 いつものように怒鳴り散らしてやろうと口を開きかけたが、ふと思いなおして自分も意地悪な事を言って父を挑発し返してやることにした。


「へー、そゆこと言うんだ? だったらボクも通りがかりに見かけた男子と本能のままスナック感覚で気軽にアンアンしていいですね? ボク、サキュバスだし」


 ネギはポキュッと大きな靴で一歩踏み出して膨らみ始めたばかりの胸を反らしてみせる。

 彼女なりに精一杯頑張った挑発のポーズだが、父はハフッと変な声を出して失笑した。


「おぉ、やれるものならやってみろ。いつもエロ小説を読み漁って知識だけはしこたま蓄えているくせに、いざ本番となると誘い文句の一つも言えないビビリの処女ビッチが。まったく情けない娘よ! ふはははは痛あーっ! ヒギィー! ちょ、悪かった、もうからかわないから涙目になりながらの股間キックはよせ!」


 魔王城のテラスからは父の股間を蹴り上げるポキュッ、ポキュッ、ポキュッという音が暫く鳴り続けた。




「で? 何ぞ用でもあったのか。よもや小言を言うためだけに我を探していたわけではあるまい」


 体を斜めにして王座に座る魔王の姿はどこか物憂げで奇妙な貫録を感じさせるが、ネギに蹴られまくった股間がいたくてそこを庇いながら座っているだけだと知っていると単に間抜けなおっさんにしか見えない。


「ここより東方、人類の生息領域に近い海上で強大な魔力が感知されたそうです。監視役のクラウドスパイダーが人類側の戦略級魔術攻撃かもしれないって不安がっているので、魔王の父上なら何か知覚出来ているんじゃないかって尋ねに来ました」


「強大な魔力か。確かに我には感じることができた。だがあれは失笑すべき大失敗の結果になったようだぞ」


「どういうことですか?」


「強大な魔力で海を焼いて大雨を降らすつもりだったようだが、風向きも考えずに使ったせいで雨雲はみんな人間領側へ流れて行った。今頃人間領は大混乱を起こしているだろうて。くっくっくっ、人間は本当に愚かであるなぁ」


「じゃあ、人間どもが侵攻してくる前触れというわけではないのですね」

「そうだな。それっきり気になるような大きな魔力反応は無い」


「よかった……。また凶悪卑劣な人間どもによって魔族の平和を乱らせるようなことになったらどうしようかと……あ、もしや先日からずっとテラスに出ていることが多かったのは――」


 ネギがハッと気が付いて父の顔を凝視すると、魔王はすこしだけ照れたふうに頬を掻いてぎこちなく笑った。


「父はこれでもこの方面の魔族たちの安寧を守る東方魔王だ。力無き民たちが心健やかに暮らせるように気を配るのは当然であるし、凶悪な人間どもの動向を察知しやすい場所で待機するのも我の責務だ。まぁ、長時間居続けるとさすがに退屈になってちょっとばかり本能の発散をすることもあるがな」


「父上……ただのエロおやじかと思っていましたが、ちゃんと責務を果たす立派なエロおやじだったんですね。ネギ、父上を見直しました」


「はっはっはっ、ついでに『エロおやじ』ってのも改めてくれると嬉しいのだがね」


「近衛隊の隊長の一人が『あの野郎は魔力の大きさだけで方面魔王になったラッキーボーイだ』とか言ってましたけれど、父上はちゃんと民たちのことを慮る立派な魔王でした」


「はっはっはっ、そうだろうそうだろう。とりあえずその隊長の名前を教えてくれるかい? お礼に素敵な牢屋へご招待してやるから」


「父上の腹心のザバルダーンが『あいつは基本ビビリだから人間どもが侵攻して来たら真っ先に逃げるだろうよ。ま、その時になったら俺様が命を懸けて民を守ってやるさ』って吠えて酒場で英雄になってたらしいけど、本当の英雄は父上なんですね!」


「はっはっはっ、そうだとも。それにしてもザバルダーンがそんなに戦いたがっていたとは知らなかった。今のポジションでは不満があるようだから最前線に栄転させて一兵卒として存分に活躍できるようにしてやろう」


「さすが父上です。民だけでなく配下の者にも細やかな気配りのできる心優しき支配者! ネギ、感動しました!」


 娘にキラキラとした尊敬の目で見つめられた魔王はニヤけていた顔をフッと真顔に戻して、まるでロクロを回すように両手を前に出して語り始めた。


「いいかいネギ、魔王とは大魔王様によって民の守護を任された大事な職務だ。自身の栄達を望んで就いて良い職務ではない。悪逆非道な人類がいつ身勝手な理由で攻め込んでくるか分からない。魔族に本当の平和は有り得ない。しかし、我は力無き民たちに一時でも長く安寧の時間を過ごしてもらいたいと思っている」


「父上……」


 感涙を流す娘の前に歩み寄った父はその肩を優しく包み込むように手を置いた。


「だからな、ネギ。もし我が人間との戦いで敗れ、この身が塵と成り果てるときが来たら……ネギ、お前は我の意思を引き継いで父の代わりに民たちを守ってやってくれ」


「わ、わかりました父上。でも、ネギは立派な父上にいつまでも長生きしてもらいたいと思っています」


 キラキラとした目で父を見上げる可愛らしい娘。父はその頬にそっと手を添えて微笑みながら頷いた。


「はっはっはっ、もちろん我は長生きするぞ。我は母さんの墓前で誓ったのだ。ネギの『親に見られながら『イヤイヤ、せめて二人きりの部屋でお願い』と泣き叫ぶ羞恥責めプレイ』を見届けるまで絶対死ぬものか! とな」


 ネギは頬に添えられていた父の手を叩き落とすとニッコリと微笑んで片足を浮かせた。


「ふふふっ、早く死ねばいいよゲス親父」


 ポキュッ!


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