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めちゃくちゃ過保護な姉たちがチート過ぎて勇者の俺は実戦童貞  作者: マルクマ
第一章 童貞勇者と過保護なお姉ちゃんたち
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母さんとシャズナ姉ちゃんが黒い

 母さんたちと一緒に館に帰って来た俺は、緊迫した様子の姉たちに四階の談話室へ連行された。


 そこで聞かされたのは王都で進められている『魔王討伐計画』と、それに付随した『勇者招請』についてだった。


 へ? 俺が魔王討伐に行くの?

 そりゃ俺は勇者だからいつかは行かなきゃいけないって分かっているんだけど……もう?


 俺は瞬きをするのを忘れるくらいに目を見開いて焦った。


 俺、まだ一回も実戦経験ないんだけど?

 実戦童貞なんだけど?

 一匹のゴブリンすら倒した経験ないし?

 適正職は召喚士だけど一匹の従魔もいないし?

 冒険者ギルドじゃ最弱無能って悪評が定着してて誰もパーティに入れてくれないんだよ?


 そんな俺にいきなり魔王討伐とか……本気?


 俺は膝が震えるほどに焦って動揺した。

 けれど俺以上に動揺している人が二人いた。


 勇者としては弱すぎる俺をいつも気にかけている過保護なメルセデス姉ちゃんは、シャズナ姉ちゃん経由で司教から手に入れた情報を母さんに伝えているうちに段々と感情が昂ってきたらしく、切れ長の凛々しい目に涙を浮かべて最後に言い放った。


「勇者招請には全力で抵抗するべきです。もしこれでイーノックが凶刃に倒れ、死んでしまったら、私は……私はっ、この先の人生に意味も価値も見出せませんっ!」


 やけに熱量の大きな独演をぶち当てられた母さんはゆるりとメルセデス姉ちゃんから視線を切って俺に視線を合わせると『ほら、どうすんのよコレ』って言ってるふうな顔で俺を睨んだ。


 いや、俺のせいじゃないし。


「お母様。私もメルセデス姉さんと同じ気持ちです。私の可愛いイーノックを魔王討伐に向かわせようとしている大臣どもの家族を一人残らず魔王城に放り込めば愚かな大臣どもも少しは目が覚めるのではないかと……そんな仄暗い考えがさっきから私の頭の中をグルグルと巡っているくらいに私の中で怒りが渦巻いています」


 思わず耳を塞ぎたくなるようんシャズナ姉ちゃんの告白を聞いた母さんはスンと顔から感情を消して『ねぇ、本当にどうすんのよコレ』って言ってるふうな視線を俺に向けてくる。


 いや、だから俺のせいじゃないから!


 テーブルを挟んだ対面側にいるガチ切れ寸前の姉二人が怖い。

 ロッティは長旅の疲れのせいで今は部屋で寝ているからこの場にはいないけれど、目を覚ましたあの子がこれを知った時のことを考えると何をしでかすか予想不能で、それが余計に恐ろしい。


 けれど、最も恐ろしいのはこれから魔王と戦わされそうになっている俺の立場だ。


 いくらなんでも無謀過ぎる。


 ソファに深く腰掛けて、組んだ指で口元を隠すようにした姿勢で身体を固まらせていたら、並んで座っていた母さんに横から頭を叩かれた。


「こら、まるで私に童貞を奪われる直前の父さんみたいな顔しないの。情けない」

「ごめん。でもその例え話は父さんが可哀想だからやめてあげて」


 俺は談話室に飾られてある家族の肖像画を見上げた。


 絵は左から制作日の古い順に飾られている。


 最も古い絵が父さんと母さんの二人だけの絵で、その右の絵には赤ん坊のメルセデス姉ちゃんが加わって三人になり、その横の絵ではシャズナ姉ちゃん、その次の絵は俺、最も右に飾られている絵には赤ん坊のロッティが描かれている一方で父さんがいない。


 あ、誤解の無いように言っておくけれど父さんは生きている。

 母さんとの夫婦生活があまりにも過酷で、長年そのお相手を努めていた父さんはとうとう干物のようになってしまい、現在は祖父母の住まう田舎で療養中なのだ。


 肖像画を見比べたら父さんの変化の良く分かる。

 母さんと二人だけで描かれている父さんはそこそこマッチョなのに絵の中の家族が増えるほど父さんは痩せていく。


 俺は父さんが描かれた肖像画から目を離して、俺の隣に座っている母さんを見た。そして正面にいるお姉ちゃんたちを見て、再び父さんの肖像画を見上げた。


 俺は心の声で父さんに語りかける。


 父さん、早く帰って来てくれ。この家族の中で男が俺だけってのはわりとキツイんだ。


 俺が遠い目をして現実逃避をしていたら、シャズナ姉ちゃんが母さんの前に一束の書類を置いた。


「これは?」


 母さんが片眉を上げてその書類を手に取る。


「今の私が持っている『交渉材料』です。御前会議での発言権を持つ大臣たちのうち三名分しかありませんが……」


「つまり、これを使って大臣たちを『交渉』してイーノックの招請の決定を撤回させろ。と? ふふふっ。シャズナは随分と大人になったわね、育ったのは胸だけじゃないってところかしら」


 やばい。母さんとシャズナ姉ちゃんが黒い。そしてメルセデス姉ちゃんがちょっと引いてる。


「出来る事なら私が陣頭に立って交渉をしたいんですけど、国内に何百人といる待祭の一人でしかない私の力ではこれだけの材料を集めるのがやっとですし、個人的な友誼を結んでいる方々はまだ若くて地位も低く『人脈』と呼べるほどの影響力を持っていません」


「だから私を使おうってわけね。うん、合理的で良い判断よ、褒めてあげるわ」

「ありがとうお母様!」


 シャズナ姉ちゃんが顔を輝かせて感謝すると、母さんはパラパラと捲って目を通していた『交渉材料』を突き返すように姉ちゃんの前に置いた。


「良い判断だけれどダメなのよシャズナ。今回の件では私は動けないの」

「え? それはどうしてですか」


「だってね、今回の魔王討伐の発端になった長雨災害なんだけど……」


 母さんは言いにくそうに目を伏せて、声を潜めて白状した。


「実はアレ、やったの魔王じゃなくてウチのロッティなの」


 ……え? ちょ、今なんて?

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