非リア
ダッダッダッダッ
「レンありがとー!上手く行ったよ…えっ誰?」
何時もの様にレンの部屋に突入したミユキが見たのは、何時も通りの実験室に何時も通りのレン、そして何時も通りじゃ無いのが、見知らぬ女子がもう1人居た事だった。
「お邪魔してますー」
「え?」
永らくこの部屋では自分とレンが2人きりだったし、レンの母の発言からして、彼女に自分以外の友人は居なかった筈なのだが。状況が掴めないミユキに、相変わらず何かに没頭していたレンが遅れて気付く。
「ああミユキか。彼女はサエ。私の友人だ」
「よろしく、ミユキさん」
「はあ、よろしく…」
「ミユキさん、私見てたの。ドキドキしちゃった」
「見てたって、まさか!」
「そのまさかだミユキ。勝手ながらサエにはミユキの一部始終を見てもらっていたんだ。ハプニングに見舞われつつも、上手く機転を利かせたらしいな。私も色恋沙汰には少なからず興味があってね、それが友人とあらば尚の事」
「ミユキさん、レンさんにはもう話しちゃったから」
「レン?こう言うの良く無いよ?」
「菌自体は無料で提供してやったんだ。これくらいは構わないだろう」
「…ちょっと良いかな」
「どうしたミユ、痛たたた」
ミユキは人の恋路を見世物の様に扱ったレンに怒り、彼女の頭を両手で締め上げる。
「頭脳労働で疲れてるっしょ。マッサージし、た、げ、る」
「あだだだだだ!止めろ!サエ!サエ!」
「ごめんなさいミユキさん。私からも謝るから、そのくらいにしてあげて」
そう言うサエは半笑いである。監視と報告を依頼したレンも、それを受諾したサエも共犯の筈だが、ミユキの暴力はレン1人に向けられた。レンの奇声がしばし続く。
「レン、あんた友達居ないんじゃないの?私以外」
「いってえ…ミユキ、それはどこから仕入れた情報だ?」
「レンのお母さんが言ってた。あん時まだ菌の効果あったし。出来立て?」
脳のマッサージから解放され、頭をさするレン。
「人を料理の様に言うな。嘘か本当かは飽くまで発言者の心の内に限られる。そしてサエと私は以前からの仲だが、ミユキとは顔を合わせる機会が無かっただけだ」
「そういう事なんですよ。ミユキさん、本当にごめんなさいね」
「いや、もういいです…」
「そうだミユキ、詫びの品とまでは言わないが新薬を無料、無償でくれてやろう」
「ミリでも詫びる気があんならその上から目線止めな。それに前から言ってるけど変な実験する気無いから」
「変な実験とは失礼な。今回の新薬は非常に画期的な発明なんだぞ?それに、安全性は既に私とサエで検証済みだ」
「はあ、サエ…さんも、ですか?」
「はい、何ともありませんでした」
「ふーん。ちなみにどんなの?念のため言っとくけど絶対飲まないからね」
「名付けてリア充発見菌だ。服用すると自分がリア充か否かが分かる」
レンはこれだ、さあ飲めと言わんばかりに錠剤の入った瓶を取り出したが、ミユキは思いっ切り一歩下がって見せた。
「残念ですが、私とレンさんは非リア充だったみたいで。彼氏さんと上手くいっているミユキさんなら違った結果が出るかと思ったんですが…」
「2人はどうなったの?」
「私とサエは何とも無かった。私の見立てでは脳内の幸福物質と化学反応を起こして何かが起こる筈なんだが」
「何かって…名前と言いすごく嫌な予感しかしないんだけど」
「ミユキさん、冷たい事言わずに一粒飲んで下さいませんか?飲んで頂けたらスイーツ奢りますよ?」
「なあミユキ、お願いだ。リア充発見菌、飲んでみてくれないか」
妙にミユキににじり寄る2人。ミユキは彼女達の意図を何となく察し、両手を突き出して拒否の姿勢を取る。
「爆発したりはしないと思うぞ。さあ」
「思うぞって何!?やっぱ虎ミちゃんじゃん!」
それ以来、ミユキはレンの家で一切の飲食を断り続る事にした。それでも彼女がレンと縁を切らないのは、昔からこんなノリだったからかも知れないが、やはり嘘発見菌に助けられたからであろう。
「ミユキさん、ケーキバイキング奢りますよー」
「商品化すれば無論金になるぞ。さあミユキ、飲め。飲むんだ」
「惚れ薬でも作ってろ!非モテ共!」