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嘘発見菌  作者: 山盛り
2/3

カフェ

後日、ミユキは彼氏であるダイチをカフェに誘った。特にこれと言った目玉も無いチェーン店である。本日の客入りはそこそこ。彼氏の目の前で粉薬を混ぜたのでは流石に怪しまれる為、わざと約束より早く来店し、先にリンゴジュースを注文した。



「ああー緊張する…」



レンの前では易々と決意表明をして見せたものの、本音が思わず声に出てしまう。もし本当に浮気していたとして、どうすれば良いのだろうか。テーブルにリンゴジュースが置かれ、ミユキは嘘発見菌をグラスに投入した。馬鹿なりに思案を巡らせながら、黙々とグラス内の菌とジュースを攪拌するミユキ。



「はあ…」



どれ程の時間が経っただろうか、遂にダイチがミユキの前に現れた。



「ようミユキ!」



「ダイチ…」



少々ゴツめの体付き、学校帰りそのままの学生服。爽やかな汗。カバンからは部活のユニフォームがはみ出している。何時でも陽気な笑顔を見せてくれるダイチ。同じ馬鹿同士、お似合いのカップルだと思っていたし、実際にそう言われた事もあった。彼の笑顔がミユキに向けられるのも、今日で最後になるのだろうか。



「いやーもうノド渇いちまって!これ貰うわ!」



「えっ」



ダイチはミユキの返事を待たずに、嘘発見菌入りのジュースを飲み干してしまった。見事なまでの一気飲みだった。相当喉が渇いていたのだろう。



「あっ、あっ…」



「ぷはーっ。うめー!わりいな、今日飲みもん忘れちまってさーもう死ぬかと思ったわ。同じの頼む?」



「ちょ」



「別のにする?」



「いや、ちょ…」



「いらねえの?」



「えっと、うん、同じので…いいよ…」



ミユキの作戦はあっけなく崩れ去った。本来なら自分が飲む筈だった嘘発見菌入りジュースを、何と浮気疑惑の容疑者であるダイチ自身が飲んでしまったのである。馬鹿でも効く事は、既に身を以て実証している。



「すんませーん、リンゴジュースもひとつお願いします」



予想外の事態に混乱するミユキだったが、作戦が崩れただけでは済んでいない事を、直ぐに知る事となる。



「んでミユキ。何か話があるって?なに?」



「え!?あのね、そんな大した事じゃなくてね」


取り乱したままでのミユキの生返事を聞いたダイチが、いぶかしげな顔で硬直した。この時ミユキはようやく気付く。嘘を見破るどころか、こちらが嘘を付けなくなってしまったのだ。



「そ、そっか。まあ、別にいいけどよ」



ミユキは既に大失態を犯している。大した事じゃ無いと言う嘘をうっかりついてしまい、更にそれが嘘発見菌の効果でダイチにバレてしまったのである。今のダイチの反応ではっきり分かる。



(うわうわ、どーしよーどーしよー)



後に退く事も出来なくなり、大混乱に陥ったミユキは伏せた目線を更に泳がせ、時間を稼ぐのが精一杯であった。いっそこのまま10分やり過ごそうかとさえ思ったが、初デートではあるまいし、仮にそうしても以後ダイチに不審がられる事には違い無い。当のダイチは何が起こったのかと言った感じで、軽く頭を掻いている。



「なあ、ミユキ」



「…なに?ダイチ」



「何か話あんだろ?」



ダイチが一歩踏み出した。ミユキは言葉に詰まる。話の内容が大した事なのはもうバレている。



「…うん」



「細かい事は気にしねえで言えよ。な」



(あー!駄目だ!どうしよう?)



どうすればやり過ごせるかなんて、ミユキには分からなかった。



「時間は…あるからよ」



「うん」



しばしの沈黙。他の客の喧騒が、何とか2人の空気を保っていた。



「あのね、ダイチ」



「おう」



やがてミユキは決意した。どうせ何を言っても嘘がバレるし後にも退けない。それなら逆に本音でぶつかろう。嘘が分かるなら本当も分かるのだ。ミユキの表情がキリリと引き締まる。



「あのね、あたし、ダイチの事が大好きなの」



2人は既に付き合っているので、ミユキのこの発言には別段可笑しい所は無い。だが、嘘が嘘だと分かってしまう今のダイチにとっては、嘘偽り無い純粋なメッセージとなった。



「あ…おう。んだよ、照れるな…」



「でね、だからこそハッキリさせたい事があるの」



やはり斬り込むのに勇気が要るミユキと、空気が変わったのを察して発言を控えるダイチ。再び押し黙る2人。リンゴジュースが2人の間に置かれたが、2人は見向きもしない。


その日は例年よりも暖かく、この陽気で飲み物を忘れ部活に臨んだのでは、ダイチの喉が渇くのも無理はなかった。ミユキも例外では無く、リンゴジュースに手を伸ばしかけたがそれを止め、自身の舌で唇を湿らせた。



「あたし、見ちゃった。ダイチが女の子と歩いてたの」



「…おう」



これも真実だと、ダイチには伝わっている筈だった。この点は、嘘発見菌が当初の目論見通り働いていると言える。



「あれ、誰だったの?何してたの?」



「えっとな…あれはな…」



「何?言えないの?あたしは本音で話してんの。ダイチもホントの事言って」



「う…」



「ねえ」



即答しないダイチ。その態度に浮気疑惑は膨れ上がり、一線を越えて勢い付いたミユキの怒りがくすぶり始めた。



「怖い顔すんなよ。あれはな…ほら、来月」



「来月なに?」



「来月さ、お前の誕生日あるじゃん。でな、女って何貰ったら喜ぶのかなって聞いてたんだよ」



「それだけ?」



「それだけ」



取り敢えずの解答を得て、ミユキは小さなため息を付いた。菌入りのジュースを飲まれた直後の同様は何処へ行ったのか、今はむしろ、この機会に彼への気持ちをありったけぶつけてみようとさえ思っていた。



「ホントにそれだけ?」



「ホントだって!何なら本人に確認取って来いよ。疑ってんのかよ」



「…いや、信じてるよ。ダイチの事」



「ミユキ。これマジだから」



本人に確認を、の言葉にミユキの感情が冷まされ、張り詰めていた彼女の緊張の糸がほぐれ始める。だよねー等と漏らしつつ、ミユキはようやくリンゴジュースに手を伸ばした。濃厚な甘味と僅かな酸味がミユキを更に落ち着かせる。



「疑ってごめんね。でもそれだけ、そういう事だから」



「ああ…うん」



「でもこれだけはハッキリさせとくけど、もしホントに浮気なんかしたら…あたし何するか分かんないから」



「…止めろよミユキー」



効いている。今のも本音、我ながら上手く切り抜けたものだと、ミユキは考えていた。やはり自分も喉が渇いていたのだ。リンゴジュースはすぐに無くなってしまった。



「誕プレ、期待してるから」

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