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私の好きな喫茶店

作者: 三崎 悠弥

 はらり、と本のページをめくる音がする。

 ほのかに香るこの店自慢のオリジナルブレンド珈琲の香りが鼻腔をくすぐり、私は本を片手に珈琲カップに手を伸ばした。


 コクリ――。


 苦くも芳ばしい後味を舌に残し、程良い暖かさの液体が喉を降る。

 私は放課後に、この喫茶店で読書をするのが日課だった。

 静かな店内に程良い音量で流れるクラシック。そして珈琲の香り。

 この空間が私のお気に入りなのだ。


「珈琲のおかわりはいかがかね?」


 いかにも紳士という風体の、しかし40代前半とまだまだ若いマスターが微笑みながら尋ね、私はお願いします、と珈琲カップを通路側に移動させた。

 珈琲を入れ終わると、マスターは再びカウンターの中に戻ってのんびりと食器類のチェックを行い、汚れなどがないかを念入りに確認している。

 雰囲気を大切にしているからか、小さなヒビや欠けシミ一つでもあれば自家使用に回すらしい。

 マスター曰く、食器一つだって高いから出来るだけ無駄にしたくないとのことだ。


 新たに追加された珈琲を口に含むと私には若干熱かったのか、思わずビクッと引いてしまう。

 そんな私の様子をマスターは微笑みながら眺めていた。

 私は微笑むマスターを恨みがましめに見ながら腕時計を確認する。この珈琲を飲み終わる頃には丁度良い時間になっているだろう。

 マスターもそれを判っているのか、少しずつ夕方の準備を始めた。

 珈琲の香りは残しつつ、新たに日中は提供していない軽食とは異なる飲食物の香りが漂い始める。

 この店自慢の珈琲に併せて試行錯誤を繰り返し、やっとの思いで完成したそれは、食事時にしか提供されることのない、最近の常連たちの間で評判となっている。

 珈琲の香りを殺さず、かつ食欲をそそるように上手く調整されたそれを、マスターは最近導入された商品ケースに並べていく。珈琲と違い、少し危なっかしい手つきで並べられていくそれは、しかし見栄えよく綺麗に並んでいる。


 その様子を見ながら私は本を閉じてカップに残っていた珈琲を飲み干した。横に置いていた鞄に本をしまい、肩にかけて立ち上がる。

 両手で落とさないように珈琲カップを持ちながら、カウンターの中に入って流しに置いた。


「制服から着替えてきたら出ますから、少し休んでください、あなた?」


 私はこのお店が大好きだ。

 何故なら、私と貴方が出会い、互いに惹かれあい、こうして結ばれた場所だから……。

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