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私はこつこつとヒールを鳴らして城の廊下を歩く。

私室から玉座の間へと移動する間も、報告書に目を通すのを忘れない。


「えーっと、勇者一行の泊まった村を襲撃失敗。真っ向から勝負するなって何回言ったら分かるのかしら? 勇者の目的地への潜伏失敗。潜伏からして失敗するとか頭悪いの? 勇者一行の泊まった温泉処爆破。温泉爆破って勿体ない! 勇者仕留めてないし、罰としてこれ書いた奴に跡地を占領して温泉建て直しをさせなさい」


私はてきぱきと指示を下しながら玉座の間にたどり着く。扉を開けさせて、私は部屋の奥へと進み、優雅に生まれ変わった玉座に腰かけた。

私が魔王となって十年。

あの悪趣味な金ピカで硬い玉座は、金で装飾しつつもワインレッドの上品なソファーに生まれ変わっていた。

十年も経てば世界は変わる。

私は十年前、勇者一行の卵たちを悉く殺させた。それはもう指名手配までかけて、その首を目の前に並べさせて、確実に殺させた。

そうやってうまく分岐できたのだろうとほくそ笑んでいたのに、今、魔王を倒すという勇者一行が現れた。

後はのんびり人類を刈り取っていくだけだと、着々と計画を推し進めてたのがご破算となってしまって今現在の私はとても不機嫌だ。

ちなみに十年前まだまだ七歳の子供だった私は成長して、他の並行世界の私顔負けのナイスバディになっていた。私の並行世界の移動は精神的なもので、この世界の「私」に宿る形になるんだけど……あーあ、他の並行世界の私もこれくらいのぼんっきゅっぼんっになれば良かったのになぁ。


私は書類に片端から目を通していく。

側近のラントは先代魔王の時から比べて業務が増えたと愚痴ってるけど、当然本気で世界を滅ぼそうとするならこれくらいのことはしないとね。

今日も今日とていつもと同じ書類仕事をこなしていく。

今日の予定でいつもと違うのは……

わーわーと玉座の間の外が騒がしくなる。始まったか。

私は目配せでラントに片付けるように指示する。それから私は、軽く念じてその手に星の瞬きのような剣を顕現させた。

それを持ち、玉座の間が開くのを待つ。

まぁ、魔王城の警備程度では彼らの障害にはならないと考えていたから、宛にはしてなかったんだけど……思ったより早かったかな。

まだ昼にもなっていない。お昼御飯を食べてからかなーと予想してたから仕事をしてたんだけれど、まさかここまで警備が塵芥のように蹴散らされていくとは。

ラントが仕事道具を机ごと移動させて戻ってきたとき、玉座の間の扉が開いた。

重たい扉を開けて入ってきたのは、拳闘士、神官、魔法使い、そして勇者。

私は初めて見る勇者に向けて盛大な拍手を贈った。

パチパチと拍手が寂しく広間に響く。

私は広間に入ってきた彼らに声を投げた。


「さぁさぁやって来ました勇者一行。魔王の差し向ける数多の刺客をなぎ倒し、とうとう魔王城へとたどり着く。その最奥、その玉座に座るはその城の主、勇者の目指した最凶たる王。それがこの私……というわけなんだけど私だって倒されたくはないので先手必勝よ」


私は長々と口上を述べると見せかけて指をパチンと鳴らした。

どこからか切り刻むために産み出された風が吹いて勇者一向を切りつける。

神官が慌てて結界を張って難を凌ぐけれど、それだけではまだ足りない。


「行け」


いつか私が与えた剣を持ち、ラントが結界に切りかかる。

プツリと結界を切り裂いて、ラントは勇者に迫った。


「敵陣地に入った時点でチェックメイトは決まるのよ」


なんともあっけない最後だと思って私は嘲笑った。

次の瞬間には勇者は真っ二つになっているだろうと思って見やると、なんと勇者は生きていた。

寸前で、ラントが剣を止めたのだ。

私は眉を潜める。どうして彼は剣を止めた?


「ラント、何をしているの?」

「……き、斬れない……」

「はぁ? 貴方のその剣は何者をも断つ。斬れないものはないのよ」

「斬れない、ではなく斬りたくない、の間違いだろう」


勇者がラントの剣先を反らして前に進み出る。

斬りたくないって……どういうこと?


「ようやく会えたな。お前に倒されて十年、死にかけていた人間の子供と共生し、この時を待っていた」


その言葉で私は理解した。

ラントが斬れない理由。

本能的に彼は察してしまったのね。


「貴方は……先代魔王! そんな姿にまでなって生きていたなんて滑稽ね」

「「「え、えええ?!?!」」」


なんか外野から声が上がったし。


「ゆ、勇者が魔王!?」

「どういうことだ!」

「説明してくださいっ」

「どうどうっ」


詰め寄られる勇者を見て、私は顔を伏せた。あはは、何あれ。仲間割れ? 勇者が敵の親玉だったことを知らなかったの?

まぁかくいう私も知らなかった訳なのだけど……でもそうね、元魔王なら元部下達の思考パターンくらい把握して返り討ちくらいお手のものよね。

私は一通り笑うと話のついた彼らを見渡した。


「話は着いた?」

「ああ」

「勇者は勇者で」

「悪者はお前だってこと!」

「人類を裏切った貴女を浄化しますっ」


勇者一行が身構えるけど、ちょっと最後の言葉は聞き捨てならないわ。

心外にもほどがある。


「悪者が私で人類裏切った? いいえ、違うわ。世界が先に私を裏切ったのよ」


私は念じると火の玉を産み出して、彼らへ向けて放つ。ラントがいるけど、まぁ大丈夫でしょう。

火の粉にまみれる彼らに私は言ってやる。


「どんなに世界を救っても、私には長く生きられる未来は無いのよ……!」


炎の中を掻い潜り、勇者が肉薄する。

私は剣を握る手に力を込めた。


「俺の千年分の力を見くびってもらっては困る!」

「あは、それをたった七つの幼女に殺されたくせに!」


私は勇者の振りかぶった剣を避けるために玉座から身を乗り出す。ドレスの裾が翻り、伸ばした髪が宙を踊る。

勇者の剣は千年分の重みだと言うのなら、さしずめ私の剣は二百年分くらいかしら?

でも年の差なんて関係ない。


「怠惰に過ごした千年よりも、生きるためにもがいた二百年の方が重たいに決まっているわ!」


私が並行世界を旅する理由はただ一つ。

私が生きる世界を見つけるため。

世界がより良い世界を残すために幾つもの世界をつくるけれど、そのどの世界でも私は長くは生きられない運命にある。

だから私は死の間際にありったけの力を使って世界を飛ぶ。

それができたのは、一番最初の私が魔法使いだったから。

とてもとても頭の良い魔法使い。世界の理さえ見渡せてしまうほどの。

だからこそ私は自分の寿命を知ってしまった。

そして越えてはならない世界線を越える術さえも。

今ここにいる私は数多の世界から私のより良い世界を見つけるためにたどり着いた私。

魔王になっても死の運命から逃れられないというのならばまた他の世界に移れば良い───


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