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気付いたら非日常に  作者: 重曹:溶解組
6/10

番外編1話 いつもの日常

窓からさしこむ日の光。少し空いた窓の隙間から入る心地の良い風を感じながら、ぼーっとするだけの時間。最高だ。俺はいつも早めに学校に行き、誰一人いない教室で一人の時間を過ごすのがたまらない。耳にしているイヤホンから流れる曲が雰囲気を掻き立てる。

そんなことを思っているとズボンの右ポケットに入っているスマホのバイブレーションが震え始めた。スマホの画面を見るとグループ通話が始まっているようだ。移動してから参加するようにしよう。カバンから貴重品を取り出し屋上に移動を始めた。



屋上につき屋上のドアを開ける。屋上のドアは特殊な構造をしているため校舎内から鍵をかける構造になっている。俺は屋上に出ると鍵をかけ、屋上にある柵にもたれかかりながら座る。始まっているグループ通話の参加ボタンを押す。

『お〜、やっときたか。佑おはよう』

「弘、おはよう。舞も参加してるみたいだが声が聞こえないんだが?」

『舞は部活の朝練が終わって着替えてくるとさ』

「弘は泉待ちか?」

『正解だ、目の前でご飯食べてるの見てる』

「もう結婚しろよ」

冗談半分で笑いながら言った。弘の家庭は両親が海外に行っており三つ下の妹と一緒に暮らしていたのだが、高校入学後に泉に出会った弘はいきなり泉を自分の家に住まわせると言ってきた。理由を聞くと泉は一人暮らしであまり良い生活環境ではないらしく食生活もあまり良くない。泉を可哀想に思った弘は自分の家に住まわそうと思ったらしい。弘らしい考えだと思った。その後お互いの両親に話をし、泉は弘の家に住むことに決まった。妹ちゃんも姉ができたと喜んでいるようだと弘から聞いた。妹ちゃんも含め三人が幸せならそれでいい。

『お前な…俺は17だぞ?結婚できる年齢じゃねえよ』

「気にするのそこかよ」

また笑いながら答える。だが、普段から一緒に生活しているのなら自然と結婚しているような雰囲気にもなるんじゃないかと思ってしまう。弘の方では、足音がする。多分弘は移動したのだろうと思う。

『そういえば、また変な夢を見たんだ』

移動した理由はこれかと察しがつく。

「まじか、どんな内容だ?」

『舞と佑を見た。詳しくはまたあとで話す』

「了解だ」

弘が見る夢のほとんどが現実に起こる。正夢になるということだ。弘は昔から幽霊を見たり、正夢を見たりする。だが、それを信じる人はいなかった。弘がそのことを話してくれた時、俺は不思議と嘘じゃないと思った。それから幽霊や正夢のことは俺と弘の秘密になった。泉と舞には話さないのかと聞いたことがあるが「怖いんだ」と弘は言う。信じてくれるかという不安と、もしかしたら避けられるんじゃないかという恐怖があるらしい。仕方のないことだ。だから、弘が話そうと思った時に話せばいいと俺は弘に言った。時間がかかるかもしれないがいつか話せる時が来ることを願っている。

『弘、ゆー、おはよう』

「お、舞、お疲れ様」

弘の方から「食べ終わったよ〜」と泉の声が遠くから聞こえる。

『お疲れ様、それじゃ、学校に向かうから切るぞ。また後でな。』

「了解だ、気をつけて来いよ」

通話画面を見ると、舞と俺の二人だけになっていた。

『ゆー、今屋上にいるの?』

「正解」

いつの間にかミュートを外していた。着替えが終わったのだろう。舞の方からは階段を登っているのだろうか。カツンカツンと音が聞こえる。

『屋上好きだよね』

「風が気持ちいし。教室で通話するより屋上の方が誰もいないし、誰にも迷惑かけないからな」

周りに人がいると迷惑がかかるし、通話を楽しみたいって言う理由もあるしなと思っていると舞の方から歩く音が止まる。

『また鍵閉めてるんでしょ?屋上のドアの前にいるから開けて』

「分かった。通話切るぞ?」

『うん』

スマホの画面で通話を切るボタンを押してから、ドアに向かい鍵を開けドアを開けると舞が立っていた。

「舞、ちゃんと汗拭かないと風邪ひくぞ?」

「走ってきたからさ、また汗出てきちゃった」

恥ずかしそうに笑いながらスポーツバックの中からタオルを取り出し汗を拭き始めた。俺はまた柵に移動し先ほどの体勢に戻る。舞は俺の隣に座り、飲み物を飲み始めた。

「どうだ?バスケ部の活動は?」

「ん〜、みんなと遊ぶ時間は減っちゃったけど元から運動は好きだから楽しいよ」

「ならよかった、入った時はすぐ辞めるんじゃないかって少し心配してたが…いらない心配だったな」

「昔のこと引きずってると思った?小学生の頃だし、それに…」

「それに?」

「ううん、なんでもないよ」

小学生の頃、舞はバスケ部に所属していた。才能があるのか部の中で誰よりもうまかった舞に嫉妬したのか、舞に対する部内のいじめがあり舞は部活を辞めてしまった。俺がその時何をしたかという話は、また別の時に話そう。まあ、そんなことがあったからもしかしたらまたいじめにあうんじゃないか、すぐにやめてしまうのではないかと思っていたが、今のところその心配はなさそうだ。

「まあ、大会に出て活躍してる姿を見せてくれ。その時はみんなで応援にいくから」

「うん、任せて!!」

ニコッと笑う舞を見るとこちらも自然と笑いが出る。そこからはたわいない話を舞とした。数学の先生が廊下を全力ダッシュしていた生徒と張り合っていたや、生物の先生がお嫁さんと「世界の奇妙な生物博物館」に行って撮った写真を生徒に見せびらかしているとかそんなような話をした。

「よし、そろそろ教室に戻るか」

スマホの画面を見るといい時間になっていた。俺は立ち上がり座っている舞に手を差し伸べる。舞が俺の手を握ったのを確認し舞を立ち上がらせる。

「ありがと、ん?」

「どうした?」

「やっば!!更衣室の鍵を先輩に渡すの忘れた!!」

スカートのポケットから鍵を見つけ慌てる舞、相変わらずだなと少し昔の舞の姿を見た気がした。

「バックとか運んどいてやるから早く先輩のとこに届けてやれよ」

「うん、ごめん!!よろしく!!」

と言い、舞は走り出した。その後ろ姿を見届け本校舎の後ろに建っている本校舎より高い、今はもう使われていない旧校舎を見る。俺は旧校舎を見ると何度もあの中に入ったことがあるような気がした。昔、いつかまでは思い出せない。それに気のせいの可能性もある。気にするだけ無駄だ。

「さて。早めに教室に戻るか。もう弘たちも来てるころだろう」

舞の置いて行ったバックを持ち、屋上のドアを開け教室に向かう。教室に向かう途中で、弘と泉に会う。

「お?おはよう。2人とも」

「よ、おはよ。舞は〜あぁ、またなんか忘れたんだな」

弘は俺が舞のスポーツバックを見るとなるほどなといった顔をする。

「おはよ〜祐君」

どこか眠そうな顔をしながら、俺に挨拶をしてくる。泉はまた夜更かししたのだろうと察しがつく。俺ら3人は教室に向かい。教室の中を見るとほとんどの生徒が登校してきていた。

「しっかし、まぁ、今日は現社の田中の授業か。憂鬱だぜ」

「弘のこと気に入ってるよな、あの先生」

現社担当の田中先生は女性で、弘がすごい好みの男性と言うことでとても弘を可愛がっている。だが、それを弘はあまりいいとは思っていない。

「でも、弘はさ。田中先生と離してる時鼻の下伸ばしてるよね〜。あ〜いやらしい」

「してねぇよ!!」

泉は冷たい眼差しで弘を見る。弘が田中先生を嫌だと言う理由に泉がすごく冷たい表情を向けてくるのだと言う。はたから見たら泉が嫉妬しているようにしか見えないのだが、泉に怒られたくないので黙っていることにしている。

「まぁ、嫌われているよりはいいだろ?」

「それはそうだが、複雑だぜ」

はぁ…とため息をつく弘。時計を見るとそろそろホームルームが始まる時間と確認できる。

「セーフ…!!間に合った」

「「「お疲れ様」」」

3人の言葉がハモる。4人で顔を見合いながら笑う。いつもの日常。チャイムが鳴り、担任が入ってくる。いつもの日常の始まり。何もないただただ普通の生活。

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